小さなストーカー①
あの教室での事があってから数日が経過していた。未だに部員は見つけられていない。それどころか友達すら増えてはいなかった。
めぐるに再確認した所、取り敢えず人数さえ集めれば許可するとの約束を取り付けているとのことだった。そしてあの教室も部室としてつかっていいそうだ。予想は当たっていてほぼ倉庫のようなもので使われていないらしい。
「あーあ」
折角のお昼だってのにそんなため息がもれる。目の前で食べている隆也にも聞こえたようで不思議そうだ。
「どうしたの佑。腹減ってないの?」
「ん、あー。そう言うわけじゃないんだが……」
「じゃあなに。悩み?」
どうしようか、まだ隆也は誘ってみていない。だけど、入ってくれる保証はないし何よりあんな変なのに隆也を入れてしまってもいいのだろうかという思いがある。
「いいから言ってみてよ」
悩んでるのがばれたんだろうそんなことを言ってきた。ならばここはもう誘ってみようと思う。
「隆也はさ部活には入らないのか?」
「部活?」
「ああ、たしか運動も結構できてたしなんでもできそうなんだが」
この前の体育は体力テストだった。その時見間違えたわけじゃなければかなり動けている方だったはずだ。持久力だけでいえばおそらく学年でもトップの方だろう。
「確かに体を動かしたりするのは嫌いじゃないけどそれだと放課後とか練習でいそがしくなるでしょ?」
「そりゃそうだな。大会とかもあるだろうし」
「僕はそれはちょっと困るんだよね」
「そうなのか、家の用事とか?」
「ま、まぁそんなとこかなぁー」
そう答えた隆也の目は右に左に大きく動いていた。おそらく何か言いたくないことでもあるんだろうが特には聞かないことにした。
でも、これだとおそらく入ってはくれなそうだな。
「それで、部活と悩みになんの関係があるんだ」
「それがだな……」
俺は隆也に新しく作る部活のこと。人数が足りないので集めさせられていることなど細かく教えていった。
「と言うわけだ。全然別に嫌なら断ってくれ……」
「いいよ」
「え?」
「だから、僕は入ってもいいよ」
「マジで?」
「マジマジ」
軽! ザラメを入れてくるくるくる~ってやったふわふわなみに軽いよ! まさかこんな簡単に入ってくれるとは……もっと早く言えばよかった。
「でも、いいのか? 放課後時間とっちゃうわけだし」
「いいよ、だって特に強制的に参加しろって訳でもないみたいだし少し面白そうだしね」
「そうか、そう言ってもらえるとこっちとしても助かる。めぐるには俺から伝えておくから」
「うん、よろしく」
いやー、ほんとによかった。これ以上人が見つからなかったら、めぐるに何されるか分かったもんじゃないからな。まだ後二人探さなくちゃならないしな……。
「佑、そろそろ教室に戻ろう」
隆也に言われ時計を見るとすでにお昼休みが終わるギリギリ示している。俺はすでに食べ終わった食器類を返そうと返却口に向かった。
「ごちそうさまでした」
中にいるおばちゃんに一声かけて食器を返す。そして振り返ったとき小さな衝撃がお腹の辺りにあった。どうやら誰かとぶつかってしまったらしい。
「あ、す、すいません?」
そのぶつかって倒れた相手を見て謝ったつもりが疑問系になってしまった。なぜならそこに倒れていたのは女子なのだがどうみても小学生にしか見えなかったからだ。
「あ、あの……」
「あ……あぁ。わ、悪いちょっとびっくりしただけだ」
いくら小学生に見えたとしても俺と同じ明寒高校の制服をきているのだから高校生なんだろう。そう結論をだして手を伸ばした。
「大丈夫か?」
「え、あ……」
俺が手を伸ばすと彼女はビクッと体を震わせた。そして、
「だ、だいじょーぶですー!」
と言い残して走っていってしまった。
「えぇ!? あのちょっと…………」
俺は何かやらかしてしまったのだろうか。いや、特にやってないはず……なんだが。
「あの子、隣のクラスのたしか…………」
「隆也、知ってるのか?」
「確か名前だけだけど赤井さんだったかな」
「へぇ、って同じ学年なのか? つーか俺なんかやらかしたのかな」
「それはないと思うよ、多分」
「はは…………たぶん……ね」
「部員第二号をつれてきたぞ」
「よろしく、矢来さん」
部室(予定)につれてこられた隆也はすでにきていためぐるに挨拶をした。同じクラスだし食堂でも会ってるので細かい説明はいいだろう。
「布良君だったわね? こちらこそよろしく」
これで後二人か。でもおそらくそっちはめぐるが何とかしてくれるだろう。
「ん、なんだこれ」
机の上に目を向けるとそこには小さなプリントがあった。よく見るとそれはどうやら新しい部活を作るための申請書のようだった。だがしかしそこには納得のできないことが書かれていた。
「おい、これはなんだ」
「何だって申請書でしょ」
「ここだ、ここ! なんで俺が部長になってるんだ!?」
この申請書の部長の氏名欄には俺の名前がはっきりと書かれていた。
「そんなのきまってるでしょ。そんなめんどくさいの私やりたくないもん」
「そうか…………」
俺は消しゴム取り出して名前を消し始めた。こんなわけの分からん部活の部長になってたまるか、めんどくさいし。
「な、何やってるのよ!」
「消してるんだ、それでここに矢来めぐるっと」
「ちょっと、直しなさいよ!」
後ろから首をしめられながらも俺はめぐるの名前を書ききった。ボールペンで。
「いいか、めぐる」
普段より少し怒ったようにめぐるに話しかける。するとそれが伝わったのかすぐに手を離すとこっちを向いてきた。
「この部活をやりたいのはお前なんだろ?」
「まぁそう、ね」
「だったら自分でまとめろよ。後の二人もみつけろ、手伝うくらいは全然するから」
「…………」
「いいな?」
「……メンドクサイ」
「いいからやれ」
近くにあった雑誌を丸めていつものお返しにパコッと頭を叩く。すると、少し口を尖らせていたが
「分かったわよ」
と返事が帰ってきた。これで俺も面倒なことをやらされずにすみそうだ。
「あ、悪い。隆也抜きで色々言っちゃったけど平気か?」
「うん、僕は別に大丈夫だよ。ははっ……」
隆也がこっちを見ながら笑った。何か俺は変なことを言ったのだろうか。
「どうした?」
「いや、仲がいいなぁと思って」
「誰が?」
「佑」
「誰と?」
「矢来さん」
「………………………」
「「それはないわ」」
「やっぱりいいじゃん」
確かに今はたまたま声が被ったがそれは関係ないだろ。それにどう見てればさっきのが仲が良いにつながるんだろうか。
「「よくない!!」」
「わ、分かったよ……」
隆也は明らかに納得はしてないようだったが言っても無駄だと思ったのか取り敢えずひいた。
「ねぇ佑斗。それよりもあれはなんなの?」
「あれ?」
そう言いながらめぐるが指差したのは教室のドアだった。でも特に変わった様子はない。
「ただのドアだろ」
「そうじゃなくて……開けてみなさいよ」
なんなんだ、別にただのドアだしだからと言ってめぐるが何か嘘を言ってるようにも見えない。取り敢えず言われた通りに開けてみよう。
取っ手に手をかけ横にガラガラガラと音をたてながら開けた。
「ふぇ!」
「ふぇ?」
すると、随分と下の方から聞きなれない音が聞こえた。視線を落とし、確認するとそこにいたのは小さな女の子だった。
「あれ? 君は……」
どこかで見たことがあると思ったらこの前食堂でぶつかった、たしか……赤井さんだっただろうか。
「赤井さんだっけ?」
「ふ、さっ…………」
「さ?」
「さよならーーーーー!!!」
「あっ、また! ちょっとーーー!!」
赤井さんが走ってった方を呆然と眺める俺。また逃げられてしまった。そんな俺の肩にポンッと手がおかれた。
「ごめん、佑。やっぱ何かしたんじゃないかな」
「そうなのかなぁ…………」