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11月のお祭り③

 「暑いな」


 本日、日曜日はパーティー開催日。すでに15時をまわり暗くなってくるはずなのに太陽が物凄く元気だった。


 「何度あんだろ」


 俺はポケットからスマホを取り出すと気温をしらべた。そこには16度と表示されている。暑いわけだ、普段よりも10度以上も高いのだから。道のはしに積み上げられた雪も悲鳴をあげるかのように溶け出していた。


 「ほんとに夏みたいだな、知らないんだけど」


と、歩いている間に学校に到着した。校門のあたりからあの教室が見えるのだが既に誰か来てるようだ。窓に思いっきり夏祭りって字がが書いてあるからな。


 玄関から上履きに履き替え階段をのぼろうとした時後ろから声をかけられた。


 「佑斗君、こんにちは!」


 振り返るとそこには先輩がいた。


 「……………………」


 「あ、あれ? ど、どうしたの」


 「……………………」


 「お~い、ゆ・う・と・く~ん!」


 はっ! やばいやばいなんかいろいろ飛んでた。でもそれも仕方のないことだった。先輩がその…………浴衣姿だったから。


 「あっ、すいません。つい、びっくりしてしまって」


 ? とした顔をしていたが自分の服装にやっと思い至ったのか照れたようにエヘヘと笑った。


 「そ、そうだった、浴衣着てたんだったね」


 「ええ、凄い似合っててびっくりしましたよ」


 「えへへ、ありがとう」


 「もしかして俺が最後ですか?」


 「うん、でもまだ準備だし大丈夫だよ。ほら行こ」


 先輩に促され会場である教室に向かった。




 教室に入るとゴー、といつもの暖房の音だけはそのままに普段とは全然違う雰囲気になっていた。


 「おそいわよ、佑斗!」


 「いや、別におくれたわけじゃないだろ」


 めぐるに怒られながら美羽や隆也にも挨拶をする。そして、赤井さんやめぐるは勿論浴衣を着ていた。


 「赤井さんそれ凄い似合ってるな」


 「え、そうかな? へへっ。体型的にあまり似合わないかと思ったんだけど」


 「そんなことない、むしろなんか良い!」


 親指をグッと立て太鼓判をおす。が、


 「なんか、こ、怖いよ……」


 怖がられてしまった。


 「何やってんのよ!」


 べしっと毎度のごとく叩かれながら教室をぐるっと見回した。窓には夏祭りと書かれそれ以外にもお面やらヨーヨーやらそれっぽい飾りが大量につけられていた。


 「よく、こんなに集めたな」


 俺が感心してそんなことを言うと隆也がこっちによってきた。


 「佑……俺の全財産なくなったぜ……」


 「お、おう……」


 隆也の物凄い顔をみてそんな言葉しか返せなかった。つまり、この教室にあるほとんどの物をネットかなんかで隆也が買わされたのだろう。相変わらず可愛そうな奴。

 (今さらだが俺は隆也に(ゆう)と呼ばれているぞ。キリッ✨)



 「結構大変だったのよ、特にこれ」


 指差した先にあったのはかき氷機だった。電動ではなく手でくるくる回すあれだ。


 「凄いな、こんなもんまで」


 「でしょ。それに結構値段が高くて私も少し出すことになっちゃったのよ」


 はぁとため息をつくめぐる。心でお前が全部出せや! とつっこんだが言葉には出さない。なぜならそんなことを言えばあんたが出しなさいよと言われるだけだからだ。

  



 「じゃあ取り敢えず削ってみましょうか」


 めぐるの合図でそれぞれ自分の分を削ることになった。氷をセットしてまずは赤井さんだ。


 「まずわたしからやるね。よっと」


 赤井さんは機械の前に立つとハンドルにてをかける。だが、机の上に置かれた機械のハンドルの位置は高い。


 「んっ、よっ」


 それでも背伸びをして頑張って回している。


 「だ、大丈夫か?」


 「んっ、へ、平気……大丈夫」


 俺はそれでも心配なので赤井さんの後ろにまわって少し持ち上げた。ほんとに高校生なんだろうかと言う位とても軽い。


 「え、あ、ちょゆ、、、、、、ゆ、ゆうとくん!? な、なにしてるの!?」


 突然、持ち上げられたのにびっくりしたのか赤井さんが暴れだした。


 「わっ! ちょっと暴れないで、危ないから」


 「え、あ、でもぉ……。こ、これは流石に恥ずかしいよ」


 「あ、あぁ、確かにそうだよな。悪い」


 俺は何をやっているんだろう。謝って赤井さんを下ろした。


 「いや、べつに嫌なわけじゃなくて恥ずかしかっただけだから」


 赤井さんがもじもじしながらそんなことを言う。順番待ちをしてる人たちからの視線が痛い。


 「よぉーし、次は俺だな!」


 そんな視線を跳ね返すかのごとくゴリゴリゴリッ! と自分の分を削った。




 

 五分後


 全員がかき氷を作り終わり雑談が始まっていた。俺の目の前には何色ともにつかない、いや、黒に近いかき氷があった。最初はブルーハワイの綺麗な青色だったのだがめぐるや先輩の手によってすべてのシロップをかけられてしまったからだ。


 「なに、佑斗。食べないの? 全部味おなじなんだから変わりゃしないわよ」


 「確かにそうなんだけどさ見た目もやっぱ大事だろ」


 パクッと文句を言いながらも俺は一口食べた。うん、うまいけども……。目の前には黒。それとにらめっこしてると目の前に紫色のかき氷がスプーンに乗せられ差し出された。


 「じゃあ、はい! あ~ん」


 「いや、先輩それはちょっと……」


 「いいから、はい!」


 ど、どうしよう。食べたい……食べたいのだが、周りの視線が痛すぎます。やっぱりここは遠慮しておくべきか。あ、いや、でもそんなことをしたら先輩が可哀想…………。


 「あぁぁぁぁ、どうにでもなれぇぇぇぇ!」


 目をつむって覚悟をきめるとパクっと差し出された物を口にいれた。うん、やっぱり同じ味だ。そしてゆっくり目を開ける。とそこには先輩ではなく隆也がいた。先輩はその横で驚いた顔で固まっていた。


 ?


 俺の口から伸びるスプーンは先輩ではなくなく隆也が持っている。ついでに言うとめぐるが隆也の腕を握っている。この事から導き出される結論は…………


 「おぇぇぇぇぇ! ば、まさか、それ」


 「フッフッフ」


 めぐるが得意気に笑った。そして宣言する。


 「そうよ、このスプーンは隆也のよ!」


 「は、ははは」


 隆也は苦笑いを浮かべていた。男と間接キスか…………。


 「おえぇげ」


 「いくらなんでもひどくない!? 佑!」


 「だって男同士だぞ、あぁまだ誰ともしたことなかったのに……」


 くそ、めぐるの奴とんでもないことしやがって。あぁ、先輩との間接キスが……。


 「それじゃあ、かき氷も食べたしこの後どうする?」


 先輩の質問にめぐるが答える。


 「そうねぇー、つーかあんたたち、男子。なんで普段と変わんないのよ」


 「はぁ? 何がだよ」


 「服装よ、私たちは浴衣着てんのに不公平じゃない」


 なんかまためんどくさいこと言い出した。確かに女子は浴衣着るって言ってたから俺達も着ようかと思ったんだけど買わなくちゃないし、めんどくせ、私服でいいじゃんってなったのだ。


 「別によくないか?」


 俺は隆也に同意を求めた。


 「うん、佑の言う通りいいんじゃない? 持ってないし」


 「いーーーーーや、だめね」


 「はぁ、じゃあどうしろってんだ」


 「フフン」


 めぐるが急に笑い出した。嫌な予感しかしない。


 「これを見なさい!」


 「え」


 「あ」


 「おおぉ」


 自分の背中にいつの間にか後ろに回して隠していた物を出すなりそれぞれの声が響いた。


 「ど、どうしたんだそれ」


 出したものとは勿論男物の浴衣だった。黒っぽいのと青っぽいやつ、二人分。


 「フッフッフ、多分用意してないと思って借りてたのよ」


 「まじかよ……」


 どうやら話を聞くところ俺達のだけじゃなく女子たちのも借りたものらしい。なんでも探したらこの近くにレンタルしてるお店があったのだとか。そのお店、潰れないのかな。


 「さ、早くこれ持って着替えてきて」


 隆也と俺に浴衣を渡すとぐいぐいと教室の外に出されてしまった。


 「お、おい。着替えるってどこで……」


 「トイレでいいでしょ?」


 ガラガラガラとドアが閉められた。隣に同じように外に出された隆也とうなずきあい諦めてトイレに向かった。





 休日の学校は誰もいない…………わけではなく勿論職員室に行けば誰かいるだろうが、普段とは違った暗いつめたい感じがする。


 「まさかサンダルまで用意してるとは」


 俺達はそんな寒いトイレで着替えを終えると教室へと戻った。すると中ではまた何やら新しいことを始めていた。


 「おい、今度はなにやってんだ」


 「ゆ、ゆうとくん、これ」


 赤井さんはそう言って虫眼鏡みたいなもんを渡してきた。よく見るとそれは円に持ち手がついて中に紙? 布? よく分からないが薄いものがはられていた。


 「あれ、なんだっけこれ」


 「あ、これ僕は知ってるよ」


 「そうなん? 絶対見たことあるんだけどおもいだせん」


 俺はなんとも歯がゆい、もどかしい気がしてうねうねとうねっていると見せてくれた赤井さんが教えてくれた。


 「金魚すくい、知ってる?」


 「そうか! 知ってる知ってる。あれだよね、それでえーと金魚をすくうんでしょ?」


 にこにこしながらぶんぶんと頭を振っているのでどうやら当たったらしい。金魚すくいか、勿論知ってはいるけれどやったことはない。


 「ぐぅぅぅぅ…………あがぁぁぁぁぁぁ!!!」


 「な、なんだよ!」


 先にその金魚すくいをやっていためぐるが急に大声をあげた。そして穴の空いたすくうやつ? もあげていた。どうやら上手く出来なくて爆発したようだ。


 「なんだめぐる、こんなことも出来ないのか?」


 「う、うっさいわね、じゃああんたもやってみなさいよ!」


 俺はめぐるが渡してきた虫眼鏡(仮)を受け取ると改めて見直してみた。


 「確かにうすいな。これですくえんのか?」


 ぶつぶつ言いながらも虫眼鏡(仮)を潜水させていく。破れないように慎重に金魚の下に持っていくと俺は勢いよくすくいあげた。


 「はあぁ!」


 「おぉ!」


 みんなの視線が俺のすくいあげたものに注がれる。


 「おぉ! ぉ……………………穴、あいてるね」


 「なにぃ!?」


 確かに確認するとそこに金魚の姿はなく大きな穴だけがあいていた。くそっ、思ったより難しいな。


 「アはははははぁーはーあはははははは」


 横でめぐるはこれでもかと言わんばかりに笑い転げていた。


 「そこまで笑うことないだろ、初めてなんだから」


 「そ、そうね…………ごめ、あはっ…………、ごめんなさい」


 なんか謝られてんのにすげぇムカつくんだけど。俺だけなのかなそう思うの。


 「先輩、ちょっとそこにある虫眼鏡改をとってもらっていいですか」


 「え、むしめ……あぁこれね、はい」


 先輩から受け取ると俺は鋭く構え精神の統一に入った。すべてを感じろ、無になるんだ俺。隣のニヤニヤした顔は気にするな。


 そんなよく分からない雰囲気にのまれたのか、みんなが息を飲んでみまもった。そして、


 「ハアァァァ!」


 思いっきり突っ込んですくいあげた。そしてそこには…………またしても大きな穴だけだった。


 「あ? は、あははははははぁぁぁ」


 それをみてまた笑い出すめぐる。だが見ておけよこれが俺の実力だ。確かに穴はあいているが問題はそこじゃない上だ。


 「え、あれ」


 先輩がそれに気づいたようで天井付近を指差した。そこにはなんと舞い上がった金魚がいるではないか。


 「あらよっと」


 俺が水の入った容器を下に持っていくとポチャンと落ちて泳ぎ始めた。


 「な、なによそれ!?」


 「おぉーすごいね佑斗君」


 「でしょ? めぐる、俺は一匹すくったかんな」


 めぐるに向けて最大の笑顔で言ってやった。どうやら相当悔しいようでうぅぅぅ、と唸っているけど反論はしてこない。


 「美羽! ちょっとそれ取って」


 赤井さんに虫眼鏡(仮)を取ってもらうとまたやりはじめた。だけどやっぱり上手くいかないようで騒いでいる。俺達はそんなめぐるを見て苦笑いをするしかなかった。


 そんななかふと、俺は窓の外を見た。もう集まったのが15時ごろだったこともありすっかり暗くなっている。今さらだが一体どうやってこんな時間までこの教室を借りることができたんだろうか。


 まだ金魚と格闘しているめぐるをみる。どうせ、色々と適当な事をいって無理やり納得させたんだろうなぁ。まぁ、そこがあいつの長所と言われればそれまでなんだけど、あ……また、失敗してる。


 「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」


 あぁ、またみるみる不機嫌に……。と、視界に一瞬白い物がうつった。再び窓の外を見ると雪が降り始めていた。


 「雪、か…………」


 16年前から始まった原因不明の冬。と、ほとんどの人は思っている。でも、実際はなにかが起こらなければこんなことにはならない。


 「知っているのは……………………か、」


 ん、俺今変なこと言ったような気がする。変なパーティーのせいで俺までおかしくなったら笑えない。そろそろコツでも教えやるかとめぐるにやさしく声をかえた。


 

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