11月のお祭り①
俺はなんとなく窓の外に目を向けた。そこには別にただ見慣れた景色しかない。真っ白に染まった木々やら車やら人やら……。
「人!?」
俺は思わず椅子から立ち上がった。確認するとどうやら木から落ちた雪の下敷きになったみたいだが近くを通った人達に救出されている。怪我などはないっぽい。
椅子にまた腰を下ろしさっきまで読んでいた本を開いた。本と言っても小説などではなくマンガ本である。特に読みたいわけではないがこの教室にはほとんどマンガしかないから仕方ない。教科書よりはマシだろう。
ここは俺の通っている明寒高校の2階にある。おもに物置のようになっており、はしのほうにはよく分からないものが多くつまれている。なのでほとんど人が使うことはない。それに今は放課後だ。ならなぜこんな所にいるのかと言われれば、
「夏祭りってすごくない!?」
いきなり入ってくるなりわけわからん事を言ってるこいつに呼ばれたからだ。
「なんだよ入ってくるなり唐突に。夏祭りだぁ?」
「そうなのよ! 今は失われし夏。その時にやっていたお祭り、そう夏祭り!」
外はあんなに寒そうなのにこの教室だけすげぇ気温が上がった気がするよ。それとその無駄に可愛い顔を近づけんじゃない。
こいつの名前は矢来めぐる。この空き教室を占領し、ここをたまり部と決めいろいろやってる奴である。さっきも言ったように見た目はとても可愛い方に入ると思う。男子にもよく告白されているようだがすべて断ってるそうだ。
「確かに今じゃあ夏祭りなんてできないだろうなぁ、俺は見たことないけど」
なぜなら今、日本には四季と言われたものはない。一年中冬だからだ。夏と呼ばれていた8月にだって雪が降るし気温が上がったとしても10度を越えるかどうかだ。原因は分かっておらず冬が続くようになったのは俺が生まれた年で16年前と教えられている。
「私だって教科書とか写真でしか見たことはないわよ。ほら佑斗、あんたも見てみてよ」
そういって差し出して来たのは沢山の写真だった。どうやらその夏祭りの写真みたいだが。
「どうしたんだよ、これ」
「私の家にあったのよ、多分お母さんとかが撮ったものだと思うんだけど」
あぁ勝手に持ってきたんですね、はい。写真をよく見ると授業で習った通り浴衣と呼ばれる服装をした人が多い。沢山の模様や色があって綺麗だと思った。
「で、だからどうしたんだよ。まさかやりたいとか言いだすんじゃないだろうな?」
俺の問いにめぐるは親指をグッとたててこちらに向けて言った。
「よく分かってるじゃない佑斗。あったりまえでしょ!」
「はぁ……」
そんなため息が白くなって広がった。夏祭りをしたいと飛び込んできためぐるが来てからはや、10分程が経過していた。
「で、具体的にはどうすんだ。流石にここまでの祭りみたいのはまず俺らじゃどうしようもないだろ?」
楽しそうに金魚すくいやらをしてる写真を指差して言った。するとめぐるはわざとらしく考え込む様に顎に指を当てている。そして、むむむっと唸ったかと思えば満面の笑みを浮かべて言った。
「この教室使って夏祭りパーティーしましょ!」
「な、ぱ、パーティー?」
俺はさらに凄いことを言い出したのに思わずこけそうになっちゃったよ。芸人魂でも眠ってるのかな。
「そうよー、浴衣着て飾り付けもして、かき氷削って楽しむのよ! よくない!?」
確かに楽しそうではあるけれどやっぱりめんどくさそうと思う方が強い。大体なんでこんな時にとぐだぐだ考えていたのがばれたのかめぐるが少し不機嫌そうになった。
「何、なんか嫌そうじゃない」
「あ、いや、分かったよ。やるよ」
俺は半ば諦め了承した。
「でも、夏祭りって言うくらいなんだ、8月とかにやるもんじゃないのか? 今は11月だぞ」
「そー言うことは気にしない気にしない。どうせずっと雪降ってるんだもん」
お前が言うのかそれを。それに俺ら2人だけでやるつもりなんだろうか。めぐると2人でか、まぁ悪い気はしないが、うん。
「他に誰か来るのか?」
「勿論よ、もうあの3人には言ってあるわ、多分そろそろ来ると思うんだけど」
「あーそうなのか。よく付き合ってくれたな」
「まぁいろいろしたのよ、いろいろとぉー」
「そのいろいろが気になるんだが」
「もぉ~こまかいわね! そんなだから友達全然できないのよ!」
ムカッ。としたが事実なので俺は特に何も言い返せない。めぐるのニヤニヤとした顔にさらにイラッときながらも俺は多分そのめぐるが声をかけた3人、数少ない俺の友人たちを待った。
待つこと更に10分ほど、先に一人がやってきた。
「やー、ごめん。待った?」
そんな、軽い感じで入ってきたイケメン、らしいこの男。名前は布良隆也。
「いや、そんなことないぞ、まだあと2人来てないしな」
「そっかぁ、よかったぁ」
「でも、よくこんな面倒な事に付き合う事にしたな」
「ま、まぁね」
「面・倒・な・事ぉぉぉ……?」
後ろから俺と同じようにマンガを読んでいためぐるから凄い殺気とこわーい声が飛んできてるが気にしない。と思ったらベシッとマンガで頭を叩かれた。
「な、なにすんだ!」
「ふん!」
めぐるは特に答えずそっぽを向いてまたマンガを読みはじめた。隆也といえば、またかみたいな目でこっちを見ていた。
「なんだよ」
「いや、なんでも」
しょうがないのでめぐるに聞こえないように小さな声でさっきの事をもう一回聞いてみた。
「いやぁ、それがさ、断ったらマンガ全部捨てるっていうからさぁ」
あーなるほど。実はこの教室にあるマンガはほぼすべて隆也のものである。見た目からは想像できないがこいつはかなりのアニメやマンガ好きでエロゲなんかもやってるらしくクラスの女子達が知ったらどうなるか。
「さ、流石にさぁ……ぜ、全部捨てられたらぼ、僕はもう……ぐす」
脅された時の恐怖がよみがえったのか教室のすみで体を抱えるように泣き出した。あぁ……可愛そうに。その原因である人はまだそっぽ向いてマンガ読んでるし。
「で、他の2人は見てないか?」
「見てないよ……、でもそろそろ来るんじゃないかなぁ……」
確かにもう授業も終わってかなりたつし何時もならすでに来てる時間だ。また俺は席についてマンガを開こうとしたその時。
ガタガタと少しだけ教室のドアが開いた。ほんとに少しだけ、1.5cmくらい。そしてその隙間から黒い真ん丸とした点がのぞいている。俺は面白そうなので少し気付いてないふりをすることにした。
また今度はガタガタと完全にドアを閉めてしまった。多分少しおくれたから入りづらいのだろう。しょうがないので俺は立ち上がるとドアの前に腰を下ろした。目線がさっきの点と重なるくらいの所に。おそらく後ろの2人も気付いているから何も言ってこない。
するとすぐにまたガラガラとドアが開く。そしてバッチリ、俺の目とあった。
「「あっ」」
直後、がしゃ……どすん、ばんごん! と物凄い音が聞こえてきた。めぐると隆也も駆け寄ってくる。ドアを開けるとそこには1人ではなく2人倒れていた。一瞬、他人をまき込んだのかと思ったがそうじゃなかった。
「い、痛ったぁ」
2人とも俺たちが待っていたやつだった。
「ごめん、まさか2人一緒にいたとはおもわなくて」
「ん~大丈夫だよ~佑斗君」
そういってエヘヘと笑ったのは覗き込んでいた奴ではなく後ろにいた女の子で椎名芽依先輩だ。とても綺麗な髪を肩上あたりでそろえていてふわっとしている。そして俺たちより1学年先輩で2年生というだけあって少し大人っぽい。
「ほんとにごめん」
そういいながらぶつかった拍子に落としたのだろうノートや教科書を拾う。とそこでようやく足元で目を回しているもう一人の事を思い出した。
「ちょっと佑斗、美羽も気にしなさいよ」
めぐるからも指摘があったので俺はまだ目を回している赤井さんのほっぺに手をあててぺちぺちと叩いた。
「おーい。赤井さーん、だいじょぶかー?」
「!?」
呼びかけるとこっちがびっくりするぐらいに勢いよく身体を起こした。まぁ立っても145cmあるかないか位だから小さいんだけど。そしてそれと連動してアホ毛がぴこぴこ動いているのがなんか面白い。
「佑斗くん?」
「おはよう、赤井さん」
にっこり笑って挨拶をしたが明らかに???状態でめぐるや隆也、先輩を見回している。うん、なんだろう……なんか……可愛い。