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リンちゃん、男の子から逃げる。

 その日の夜。

 部屋に戻ると、リンは少しうずうずしていた。


「ようこ、いる?」


 と話しかける。が、イヤリングの向こうのようこから返答はない。

 いいかな。いいよね。バレなければ別にいいんだから、うまくやろう。と鞄からごそごそと魔法アイテムを取り出す。お父さんからもらった折畳み傘。

 ヒサさんにバレないように、そっと外に出る。団子屋の裏庭。半分から少し大きくなった月が輝いている。折りたたみ傘をひらく。花柄のかわいい傘。お父さんを思い出す。ちょっとせつない気持ちになる。透明化は、あまり得意ではない。けど。と意識を集中させる。足先から上がっていって、身につけているもの、上半身、頭、そして、傘。透明化ができた。これでだれも私を確認できない。さあ、夜の空へレッツゴー!

 リンは、傘を広げ、浮遊魔法で飛んだ。地球の、夜の、空。風が心地よい。下を見る。光がてんてんとある。犬の遠吠え、車の走る音。夜の静寂の中に、音が浮き立つ。森の方を見る。とても暗く、沈黙のなかにある。強い風が吹いた。葉擦れに森がざわめいている。昼間だとそんなことはないのに、遠目からでも夜の森はとても不気味に感じる。リンは、学校の方へと飛んでいく。学校もそうだ。昼間はあんなにも活気に溢れ明るい学校が、夜はなんとなく不気味に、不思議に映る。ちょっと特別な、わくわくがありそうな興奮も感じる。まあ、実際は何もないんだろうけど。と思ったら、学校の屋上が気になった。誰かがいる。すっと近づいていく。屋上は周囲をフェンスで囲ってあった。そのフェンスをのぼる影があった。その影は、フェンスを越え、外側の細い縁に立った。

 嘘、飛び降りるの!?


「あ、危ない!」


 とリンは、その影に急いで近づき、腕を掴んだ。


「う、うわ、ああああ」


 とその影、男子生徒は、慌てたようにフェンスを掴む。

 リンの透明化の魔法が解けていた。傘を片手に、浮遊している。やばい、とリンは咄嗟に魔法を解き、フェンスを掴む。

 ばれた?やばい?

 男子生徒ともどもフェンスを戻り、屋上に降り立つ。月明かりはあるが、暗くてあまり顔がわからない。メガネをかけているのはかろうじてわかった。


「し、死んだら、だめじゃない!」


「え、えっと、いや、死ぬつもりはなくて。好奇心みたいな」


 と少年は頭を掻いた。

 リンに苛立が沸く。好奇心であんなところに。なにがしたいんだ。


「こんな夜に、こんな屋上で、なんでそんなことを」


「何か、楽しいこと、ないかなって」


 と少年はにこりと笑った。

 リンの苛立が、さらに増す。


「そんな、受け身なことば、私は嫌い」


「でも」


 少年は、真っすぐにリンを見ている。


「でも、不思議なことが、起きた。空を」


「と、飛んでない!」


「でも」


「飛んでない!もう帰る!」


 リンは、屋上の扉を出るとその場をあとにした。早歩きで階段を下りる。やばい、魔法を使っているのをバレたかもしれない。鼓動が早くなる。あんなところに人がいたら、誰でも助けようとするよ!苛立ちながらも、リンは思う。めちゃくちゃ静かで、今にも誰かが追ってきそうな夜の学校。何もないのに背筋がぞくりとする。めちゃくちゃ怖いけど、あの子はなんで一人でこんなところにいられるんだ。

 リンは、玄関までなんとかやってくると扉を開ける。が、あかない。そりゃそうか。戸締まりされている。右往左往していると


「ねえ」


「う、うわ!ちょっと、驚かさないでよ!」


 と急に話しかけられリンはのけぞる。さっきの少年である。


「こっちこっち」


 と廊下の、一つ鍵のあいた窓から、二人は外に出た。


「名前は?名前だけでも教えてくれたら」


「リン」


「僕は、かずま。また」


「会えない!もう、会えない!私は、飛んでない!全部忘れて!」


 とリンは逃げるように駆けた。両耳のイヤリングが揺れる。

 やばい。魔法がばれたなんて知られたら、ようこに怒られる。


『どうしたの?そんなに急いで』


 ようこの声にびくりと止まる。


「な、なんでも。ようこ、何してたの?」


『寝てたのよ。こっちはようやく朝よ』


「そう!良かった!」


『何が?変なことしてないでしょうね』


「してないしてない!明日も早いし、早く帰るね」


 とリンは、夜の町を早足で歩いた。



 次の日の学校。

 移動教室のために久保田さんと廊下を歩いていると


「あ!」


 と男の声に、リンは立ち止まった。

 振り返ると、昨夜の少年かずまがいたのである。


「げ。久保田さん、行こう」


 とリンは早足になる。


「待って、そうか。留学生って、君が。だからファーストネームで」


 とごちゃごちゃとかずまが言っている間に、リンと久保田さんは音楽室に入った。ちょうどよくチャイムが鳴る。


「ど、どうしたの?小山内さん」


 久保田さんが訊ねた。


「ううん、いいの。気にしないで」


「さっきの人、たぶん、一つ上の先輩だね」


「そうなんだ。気にしない気にしない」


 リンは、どうしたものかな、と頭を掻いた。

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