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リンちゃん、俺tueeeeをしてようこがちくり。

 翌日の朝。

 リンの胸は高鳴っていた。

 中学二年生のクラスに入ることになった。リンは、年下か、と思ったが、教育制度の違いからか、向こうの世界の高校一年生とこっちの世界の中学二年生は同い年だったようで、ちょっぴり心が高鳴った。やっぱり同級生がいい。

 膝丈のスカートに、白いシャツ。まだ制服は届いていないので、学校の制服に似た服をヒサさんに買ってもらった。


『あまりはしゃぎすぎてはダメよ』


「はいはい」


 と心配そうなようこをよそに、リンは陽気に、ヒサさんに連れられ学校へ向かう。


「銀次、リンちゃんや。よろしうな」


 と校長室にて、眉毛のきりっとした穏やかな目をした男性に、ヒサさんは言った。息子の銀次さん。この名阪南中学の校長先生である。


「リンさん、ですね。よろしくお願いします。校長の藤野銀次と申します」 


 と銀次さんは、穏やかに言った。

 リンは、ぺこりと頭を下げた。


「リンちゃん、楽しみや〜」


 とヒサさんと銀次さんと別れ、男性の先生に引き継がれる。手足が長く、ひょろっとした身長、カマキリのような目をして、口は少し尖っている。


「大淵っていうんや。よろしくな」


 と声やイントネーションがなんだかひょうきんで、親しみやすい感じがある。


「よ、よろしくお願いします!」


 リンは、ここに来て緊張気味に言った。

 大淵先生から一日の流れの説明を受ける。


「二限目からうちのクラスは数学なんや。僕が担任やから、自己紹介してもらって、って流れになるわ。じゃ、いくか」


 と大淵先生は立ち上がった。


「は、はい」


 胸が高鳴る。緊張。興奮。不安。渦巻いている。

 小山内リンです。ミャンマーから来ました。2週間よろしくお願いします。これでいいよね。自己紹介ってよくわかんないけど、いいよね。ていうか、ミャンマーってどこだ。

 大淵先生が教室のドアを開け、教室に入っていく。リンも、続く。

 教室がざわつく。


「昨日話したけど、今日から一週間、体験入学に来てくれた小山内リンさんや。じゃ、まあ気楽に、自己紹介してもらうか。お前らも、ちゃんと聞けよ」


 へーい、と男子生徒の何人かが返事をする。

 心拍数が上がる。やばい。


「お、小山内リンです。ミャンマーから来ました。2週間よろしくお願いします」


 ミャンマー?どこそれ?ミャンマーだって。ミャンマー?とクラスが口々にミャンマーに反応する。


「まああまり長い期間じゃないが、クラスの一員として仲良くな。なんか小山内さんに質問はあるか?」


 シーンと静まり返るクラス。前で立っているのが辛い。


「おいおい。じゃあそうだな。今日は15日だから、出席番号15番、佐藤」


「え、俺?まじか」


 と短髪の男子生徒が、きょろきょろ周りを見る。


「趣味は、なんですか」


 趣味。趣味って、なんだろう。頭がパニックになる。なんでもいい。なんか言わないと。みんなが私を見てる。


『料理』


「り、料理です」


 ようこの声につられ、そのまま言った。料理!?ほとんどしたことないけど。

 おおお、と小さなどよめきが起きた。大人だ、大人だ、と。

 大淵先生が言う。


「料理とは偉いなあ。みんなもミャンマー料理とか教えてもらいな。席は、窓際のあそこね」


 と大淵先生の指差す席へ、リンはそそくさと向かった。料理なんて、ましてやミャンマー料理なんてしたことないのに。


「うーっし、授業はじめんぞ。久保田、小山内に教科書見せてやってくれ」


 リンの隣に座る小柄な女子生徒が、無言で頷くと、机を寄せてきた。リンも、意図を理解し机を寄せる。

俯き気味で、前髪が長いので表情が確認できない。久保田と呼ばれたその女生徒は、なおも無言で教科書をリンとの間におく。


「ありがとう」


 リンが言うと、女生徒は無言で小さく頷いた。

 数学。前は得意だったけど、高校に入ってからはそんなに頑張らなくなった。

 授業が進んでいく。すぐに気づく。去年やった範囲だ。わかる。

 問題を解く時間。生徒たちは、時折小声で喋りながらも、集中して問題を解き始める。

 大淵先生が、教室内を歩いてくる。


「小山内、ノートないんだんな。これ使え。いらない紙だから」


 と大淵先生から紙を渡される。

 解いちゃっていいのかな。あっさり解いちゃうよ。

 大淵先生は、生徒の進捗を見るために、席と席のあいだを歩いてく。大淵先生が、久保田さんのそばを通

る。久保田さんは、ノートを隠すように腕をじりっと動かした。大淵先生が、通り過ぎていく。


「よーし、順番に答え言ってってもらうかな。今日は15日だから」


「俺さっきあたったって先生〜」


 クラスに笑いが起こる。


「そうだったな、すまんすまん。じゃあ16番。えーっと、清水」


「えー、うちから?」


 と久保田さんの3つ前の席の女生徒が、だるそうに言った。


「清水、はい、一番」


「えーっとお、4?」


「正解。まずは、、、、」


 と大淵先生が簡単に解説をし、次に後ろの席の生徒を当てる。


「3番の答え、何?」


 大淵先生が黒板にかき込んでいる合間に、久保田さんの前の席に座る女子が、隣の女子にこそこそと訊ねた。


「次、大橋」


 その女子が当てられ、「−7です」と答える。


「正解だ。これは、、、」


 と再び解説が始まる。次は、久保田さんだ。


「次、久保田。問4」 


 大淵先生に当てられるも、久保田さんは、シャープペンシルの先をノートにあてたまま動かない。リンは、ちらりと久保田さんのノートを見る。答えが書かれていない。

 少しの沈黙が、教室に広がる。くすくすっと、どこかで小さく笑い声が聞こえる。


「ん?難しいか?ちょっと複雑だな。他に、わかるやつはいるか?」


「ま、−4分の3」


 リンは、突発的に、言った。


「正解だ。やるな、小山内」


 とにっこり先生が笑うと、クラスから「おおー」っと感嘆の声が漏れる。

 頬を染めながら、リンは小さく会釈した。高揚感があった。私は、できるんだ。

 ふと、久保田さんを見た。じっと、答えの書かれていないノートを見ていた。


『去年やった範囲ね。嬉しい?』


 ようこがちくりと言った。

 見てたのか。

 嬉しいよ。他の人よりも、できてるんだ。一目置かれている。嬉しいに決まってるじゃない。

 リンは、微かな苛立ともやもやのなか、数学の授業を受けた。

 次の授業は体育だった。男女分かれて行われるが、隣のクラスと合同なので、人数は変わらない。

 体操着を借りて、体育館へ。

 バレーボール。ボールを相手のコートへ打ち合う。三回までならついていい。似たような競技が、もとの世界にもあった。

 ちょっとなら、魔法使ってもいいかな。

 高いボールが上がった。

 ふわりと、浮遊魔法を使う。

 ばしんと、力強くボールを叩く。


「す、すっごーい!」


 女子生徒が沸く。


「え!?」


 やばい、やりすぎたかも。


「小山内さん!バレー部は入らない!?すごいジャンプ力だよ!」


「バスケはどう!?やってみようよ!」


 と次々に生徒がリンのもとへ集まってくる。


「え、でも、一週間だけしかいられないし、えへへ」


 と頭を掻きながら、リンは答えた。


『楽しそうね』


 ようこが釘を刺すように言った。

 リンは目を細める。

 ちょっとぐらい、いいじゃない。

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