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ようこは頼りにならない。

「ようこの、馬鹿あああああああ!」


 リンは、花柄の折りたたみ傘をこれでもかと抱きしめ、へたりこんだ。じゃりがあたって、足がちくちくと痛んだ。


『リン、リュックのサイドポケットを開けなさい』


 ぐすんと鼻をすすり「な、何が、ひっく、入ってるの」とリンはリュックを前に抱え、サイドについたポケットを開ける。小さな瓶があった。


『それを開けて、匂いをかぐのよ』


 ようこの指示通り、匂いをかぐ。


『あら不思議、気持ちが落ち着くマジカルアロマ』


「ふ、ふざけないでよようこ!こんなの入れるなら、もっと持ってきたかったものがあったのに!」


『そんなに怒らないでよ。ちょっとは落ち着いたでしょ』


 ようこの言う通り、さすがマジカルアロマなのか、なんとなく落ち着いた気もするリンであった。


『そこは公園ね?』


「見えてるの?」


『両耳のイヤリングにカメラ機能があるわ。右のイヤリングは音声受信機能になってる』


 そうなのか、とリンはイヤリングに触れる。透明な、小さな二等辺三角形のイヤリングが揺れる。


『リン、あなたの足下の地面に、杭が埋まっているはずよ』


 本当だ、とリンは、足下に埋まる赤い杭を見た。


『少し時間にズレがあるわね。10日後の、そっちの時間で17時38分に、その杭のところに戻りなさい。自動でこっちに戻れる術式が発動するようになってる』


「夕方って、人が結構いるんじゃ」


『そこはまあ、頑張って』


 来る前はようこがあんなに頼もしく見えたのに、めちゃくちゃずぼらじゃないか、とリンの胸に更なる不安が増す。


「ねえねえ」


『なに?』


「どこに泊まるの、私」


『秋ね。地球の紅葉も奇麗だわ』


「ようこ!」


 びくりとしたのは、公園に犬の散歩にきたおばさんであった。

 リンは苦笑いを浮かべ、公園をそそくさと出た。

 

 町を散策しよう、ととりあえず歩く。最初についたのは町の端にある公園だったようで、町中はもとの世界とたいして変わりがない。見上げても誰も飛んでいないので、空がいつもより大きく見えるけど。ただ、等距離に立ついくつもの円柱が気になった。外灯らしきものが上についているが、柱同士がワイヤーか何かの線でつながれているので、他にも用途があるのだろう、とはようこの分析である。地球には魔法がない分、エネルギーは他のもので補われているのでは、ともようこは加えた。朝の静かな住宅地を抜ける。道が広くなる。交差点に、3色のライト。信号だろう。もとの世界では二色だけど、こっちでは3色らしい。赤信号で車が律儀に止まっている。他に車は走っていないのに。リンは不思議にその光景を見ていた。誰もいないと、もとの世界では信号を無視して渡る人が多数だ。

 信号が、赤から黄色、そして青に変わる。車が発進すると、リンも交差点を歩き始めた。

 アーケードのある、小さな通りがあった。

 その入り口、高いところに『イマキタ通り』と看板がある。


『商店街ね』


「そうっぽいね」


 今はほとんどの店がシャッターで閉じられているが、昼間は賑わうのだろう、とリンは歩いた。

 アーケードの終わりに、石の柱が二つ門のように立っていた。


『鳥居、ね』


「トリイ?」


『そうよ。近くに神社があるはずね。ニホン人が信仰している宗教みたいなものよ』


 ニホン人、とはここに住む人のことだろうか。ジンジャ?よくわからないので、リンはようこのことばをスルーする。

 鳥居を終着地点に商店街は終っていた。少し過ぎたところに、町並みとは少し毛並みの違う建物があった。十字が建物のトップについている。


「これがジンジャ?」


 とようこに訊ねる。


『おかしいわね。その十字は教会よ。これも宗教の一つだわ。神社と寺の共存はあり得ても、神社と教会はあり得ないわ。神社と寺は仲間で、教会と対立しているはずだから』


「・・・ようこ、本当にあってるの?あんたの地球の知識」


 ようこには珍しく、なんの反応もなく、ただただ無言であった。

 その教会の扉が、ぎいっと開いた。

 黒い服を纏った老婆が現れた。

 じっと、リンを見ている。

 リンは、こそこそとその場を過ぎた。

 教会を過ぎると、信号を一つ越え、大きな建物が見えた。その先は、点在する家々と田畑がだだっ広くあり、さらに向こうには山々があった。山間から少し上に上った太陽が、眩しくある。


『北へ向かいましょう。学校もあるはずよ』


「へいへい」


 とリンはとりあえずようこの指示に従い、町の散策を続ける。



 昼前になっていた。

 ぐるりと町を一周してきた。学校、病院、バス、消防署。目についたのは、学校へ向かう生徒たち。一様に同じ服を着ていた。女の子は、スカートに、首元にリボンのついたかわいらしい服。男の子は全身真っ黒であった。もとの世界に制服はなかったので、ちょっと違和感を覚えた。ほかには、仕事へ行く大人たち、公園で謎の球技に勤しむ老人。もとの世界の風景と大きく違うことななかったが、それでも初めての町を歩くのは、リンにとって楽しかった。気づけばまた商店街に戻っていた。すでに明るい時間帯であるが、朝早くと同じように、アーケードの通りは薄暗く、シャッターが軒並み続いていた。通りで開いていたのは、飲食店が一軒、文房具屋が一軒、お花屋が一軒、それぐらいのものだった。昼になっても静かな商店街は、それこそ異世界に来たように、町からぶわりと浮いて見えた。何かに取り残されたまま、そこにあった。

 鳥居が見えた。くぐる。その先に、今朝見た教会があった。教会の隣で、団子屋さんがちょこんとあった。店先にショーケースがあり、団子が中にいくつも売られている。リンは通り過ぎながらに、その小さな団子屋さんを覗く。テーブル席が二つ。客はいない。店員もいなかった。先にある信号を渡る。今朝も見た大きな建物。それは、大型スーパーであった。商店街とは違い、スーパーには車も人も往来している。すれ違う人たちは、一様にちらりとリンを見た。


「服が変なのかな」


『いや、散策している感じだとそこまで違いはなかったわ。というより、この時間に子どもが歩いているの

がおかしいんじゃないかしら』


 ああ、そうか、とリンは合点がいった。私は不良少女なのである。しかも、なぜか黒猫が懐いたようにリンについてきていた。不気味である。


『黒猫は、昔から魔力を持っていると言われているわ。何かリンに感じるものがあったのかもしれないわね』


 とのようこの分析。

 お腹がぐーっと鳴った。小袋をポケットから取り出す。ようこから転送前に渡された、地球の通貨。小袋の中に、白っぽい色の、真ん中に1と書かれたコインがいくつもあった。とりあえず何か買いたい。でも、このコインが本当に使えるのだろうか。だって、地球のことに関しては、ようこは頼りにならないから。自分でなんとかしないと。


「買い物してみる」


『スーパーに行くの?』


「ううん。とりあえず小さい買い物で」


 とリンは来た道を戻る。

 教会が見えた。その隣に佇むようにある団子屋。店主はもどっているだろうか、と店を覗く。新聞を読みながらタバコをふかす老婆が一人、奥で座っていた。ん?服装は違うけど、今朝教会から出てきた老婆である。


「あ、あのー」


 リンは、恐る恐る話しかける。

 老婆は、「いらっしゃい」と新聞から目を上げ、重い腰を上げる。視線は鋭く、リンを見ている。


「こ、このお団子を」


 と指を指す。


「はいよ。80円ね」


 80円。小袋を開ける。その中にある白っぽいコインの真ん中には、1と書いてある。それが、小袋に8個あった。それ以外には、なにも入っていない。これを8個だせば足りる?わからない。ようこは何も言わない。何か言ってよ!

 ええい、ままよ。とリンは、そのコインを8個出した。

 ベビーカーを押す奥さんが、スーパーの方へ歩いていく。

 信号待ちをしていた車が、発進する。


「あんたが出したの、これ全部でいくらになるか知ってるかい?」 


 老婆が訝しげにリンを見た。


「は、は、80円」


「8円だよ」


 10分の一である。団子。串に刺さった団子にかかるお金の、10分の一しか、ようこにもらった小袋にははいっていなかったのだ。こんな端金だけ渡されて、地球に一人で転送されて、私は一体、どうすればよかったというのだ!


『おかしいわね。データ不足ね。もっと大金だと思っていたのだけれど』


 と暢気に言うようこに苛立ちながらも、なんとか苦笑いを浮かべ、


「そ、そうですよね、えへへ」 


 と誤摩化そうとする。


「あんた」


 老婆の視線は、いまだ鋭い。


「どこから来た?」


「え?えっと、いや、ははは」


 と去ろうとすると、老婆ががっとリンの腕を掴んだ。


「この世界のものじゃないね」


 びくりと、リンの両肩が上がる。


『私たち以外にも、別世界から来たものが。あり得なくはない』


 分析はいいから、指示が欲しいのだけど。


「そうやろう?」


 老婆が、リンの目を覗き込む。

 どうする。ようこはあてにならない。ええい、ええい、ままよ。


「そうです。私は、別の世界から、来ました」


 リンが観念し、白状すると、老婆の顔が一転ばあっと明るくなる。


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