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リンちゃん、再び地球へ

 ベッドと、机と、ようこの本棚と、そして、ようこと。ようこが言う。


「おかえり」


 もとの世界に戻ってきた。


「ようこおおおお」


 とリンはようこに抱きつく。


「良かったわ、無事で」


 とようこはリンの頭をなでた。

 しかし、リンの感動もすぐに終わり、次には怒りが沸いてくる。


「説明してくれるんでしょうね」


 とリンはようこをじろりと見た。


「悪かったわ。私が知っている限り、話す」


 とようこはベッドに座った。


「コピーしたものを渡したでしょう。あの日記はね、父のものよ」


「お、お父さんの?」


 ようこに両親はいない。中学のとき、そんな小さな噂が流れたことがあった。


「ええ。父は私が小さい頃に亡くなったわ」


「で、でも、お父さんは地球の日記を。じゃあ、やっぱりあの公園にいた女の子は」


「どうやら、私のようね」


「どうやら?」


「幼少期の記憶がないのよ」


 とようこは話し始めた。 

 日記の主、ようこの父と、ようこは、ようこが幼いときに地球からこっちの世界に転送された。父親は間もなく他界。ようこは何も知らずに育ったが、祖父母が保管していた日記を見つけ、家族の調査に乗り出す。あらゆる情報を集めに集め、母親が特定の犯罪者を追う警察の部署に所属していたことがわかった。


「特定の犯罪者?」


「そう。異世界へ逃げ込んだ犯罪者よ」


「でも、異世界への移動は解明されていないんじゃ」


「一学生の私ですらできたのよ」


 いや、ようこはちょっと頭のつくりが。でも、確かに、他に出来る人がいないわけがない。


「ここからは私の推測も入っているわ。母は地球で捜査している間に地球の住人の父と恋におちた。日記によると、私ともう一人兄がいたはずよ。そして、なんらかの理由で、母の起動した転送陣によって、私と父はこっちの世界へ転送された。私は、転送の余波か、地球での記憶がないわ。父はとても優しかったのを覚えているけど、早くに亡くなった」


「なんで、地球で生まれたお父さんも」


「母は、幼い私のためを思って父も転送させたのかもしれない。地球で何が起きたのかはわからない。それを調べるために、私は異世界転送陣を研究しはじめた」


「11月18日と19日。日記が不自然に抜けてた。他のとこも、なんだか主語が抜けてるように感じた。ようこ、なんか手を加えたでしょ」


「私に関する日記は改ざんしたわ。リン、私に会いにいこうとするでしょう」


「する!」


「ダメよ」


「なんで」


「恥ずかしいじゃない」


「それだけの理由!?18日と19日は?」


「18日には、ススキの丘のそばで不審者情報があった。19日には、不審死が学校で起きたと日記にあった。変に恐怖を煽らないために削ったわ」


 リンは目を細め、ようこを見る。


「危ないって警告したでしょ」


 と少しばつの悪そうなようこは珍しく、リンはおかしくなり笑った。


「ともかく、あなたを巻き込んだのは安易すぎたわ。まさか私が魔方陣から弾かれてあなた一人で行くはめになるなんて。ごめんなさい」


「原因はわかってないの?」


「ええ。次は、私が一人で行くわ」


「また行くの!?」


「あなたが地球を出たのは、地球時間で11月20日。日記は22日で途切れている。父と幼い私がこっちの世界に転送されたのは、23日である可能性が高い。その原因をしるためよ」


「ようこ一人じゃ危ない。私も行く」


「誰に言っているの。私よ」


 自信にあふれたようこは、確かにそれを言えるだけの非凡な能力を持っているが、地球で意外と頼りにな

らなかったので、リンも負けじと言い返す。


「地球のことは私の方が詳しい!」


「そうね」


 とようこは、リンを見た。いつもと違う、優しい目。


「でも、これ以上リンに危険はおって欲しくない。わかってちょうだい」


「私も、向こうでお別れを言いたい人がいる」


「お願いリン。前回も、魔方陣が突然起動し始めた。戻って来れない可能性だってある。それに、あのフードの男。あとでそこの映像だけ綺麗にして見直したけど、こっちの世界の過去の犯罪者リストに似た男がいた」


「そいつは、学校で死んじゃったんだって」


「それが疑問なの。突如学校で死ぬなんておかしい。もしかしたら、寄生タイプの何かにやられたのかもしれない。対策の魔法アイテムは持っていくけど、危険が多い。あなたにはこっちに両親も、友達もいる」


「ようこは、ようこだって。私は、ようこの友達でしょ!」


「ありがとう、リン。だからこそ、あなたには危険を犯してほしくないのよ」


「でも、、、、」


 しかし、ようこの、優しい口調、優しいまなざしに、リンはそれ以上なにも言えなかった。



 リンは、手紙を4つしたためた。ようこにそれを渡す。たまちゃんと、みさきちゃんと、ヒサさんと、そして、かずまと。


「必ず、渡すわ」


 と魔方陣のその中央には、ようこがいた。


「ようこ、必ず無事で。必ず、帰ってきて!」


「わかったわ」


 とようこは魔法陣に手を振れ、魔力を流す。魔方陣が光りだす。

 そのとき、強い力によってようこが魔方陣の外にはじき出される。


「なんで、どうして」


 とリンが、ようこに駆け寄る。


「やっぱり、まさか」


「原因は何、ようこ」


「私は、地球に行けない。推測だけど」


「なんで」


「幼い私が、すでに地球にいるからよ」


「同時に同じ世界にいられない?」


「あくまで推測よ。異世界魔方陣を発明した人が一定のしばりをかけたのかもしれない」


「なら、私が」


「ダメよ」


「私が行く」


「ダメ。それだけはダメよ」


「その犯罪者を地球に野放しにするつもり?」


「私の母親がなんとかしてくれる」



「ダメだったからようことお父さんがこっちに送られたんじゃないの?」


 リンのことばに、珍しくようこが黙る。


「別にようこのために行くんじゃない。私は、私の意志で行く。私が出会った人たちとちゃんとお別れをすませるため、私が出会った人たちの世界を、守るため。魔法アイテムを渡して」


 ようこは、じっとリンを見ていた。

 リンは、目を離さなかった。真っすぐにようこを見ていた。

 ようこは、観念したように小さな筒状の棒を渡した。先に穴があいている。


「魔力を込めると透明なブレードが出るわ」


「ぶ、ブレード、ひひひ」


 ようこがブレードなんて、とリンが笑っていると、ようこはむすっとする。


「ごめんごめん。ブレードね。それで」


「それで突刺すと、その寄生物だけを除去することができる」


「すごいね。そんな商品があるんだ」


「寄生タイプの魔物がこの10年でかなり減ったのは、この製品のおかげといっても過言ではないわ。リン

でも容易く使えるはずよ。もしそいつが寄生タイプならね」


「わかった、ありがとう!行ってくるね」


「質問が一つあるわ」


「何?」


「たまさんと、みさきさんと、ヒサさんと、もう一通は誰に?」


 はてとようこの質問にリンは考える。ようことかずまは、多分兄妹だ。私が初めてかずまと会ったのは屋上だけど、そのときはようこは寝ていた。次は、ススキの丘のところでフードの男に初めて会った時。そのときは、ようこもかずまをちょこっと見ているはずだ。あとは、フードの男に襲われて学校の屋上から飛んだ時。そのときは、そうか、イヤリングを外してたんだ。


「あのススキの丘の麓にいた、少年?」


 ようこが訊ねた。


「何、嫉妬してるの?」


「そうじゃないわ。少し気になっただけよ」


「そうだよ。かずまっていう」


「かずま!?」


「ようこの、お兄ちゃんだよ。みんな、救ってくるね」


 リンはにこりと笑った。


「あなたの命が優先よ。必ず、私のために、戻ってきなさい」


「はいはい」


 とリンは魔方陣の中に入った。


「行くわよ。転送日は、あなたがいた日の3日後。日記によると、その次の日に、事件が起きている」


 一日あるんだ。みんなに、会いにいける。


「うん」


 とリンは強く頷いた。

 ようこが魔方陣に触れる。

 光が強くなる。

 ようこが、じっとリンを見ている。

 心配してくれている。ようこが、私を、すっごく。

 それだけで、リンは嬉しかった。リンは、無敵になれた気がした。

 眼前が暗くなる。

 リンは、目を瞑った。

 そして、まぶたを光が刺激する。

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