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37話 決戦1

 玉座の下に隠された階段。

 それを降りると──巨大な鍾乳洞。


 そして中央には……


「で、でっけ……。これが、ドラゴン……ッ」

「なにが大きめのリザードだよ、小さめの丘じゃねぇか……」


 赤い鱗の、巨大なドラゴン。

 とぐろを巻いて丸くなり、眠りこけている。


「ファイター、サポーター、計画通り、側面と背面に! タンク、前面へ出ろ! ウィザード、アーチャーは攻撃の準備を!」


 兄上の指示に従い、冒険者と騎士団の面々は、各々の配置につく。


 鍾乳洞の広さもあって、本隊の人数は五十一名。


 兄上が命令した五つのジョブが、各八名ずつ。

 ヒーラーが六名。

 薬師が一人。

 撥弦楽器バードを手にした吟遊詩人・バードが一名。

 隊長である兄上と、その隣の副隊長で二人。

 王宮の書記官が一名。


 戦力は少ないと言わざるを得ない。

 だからこそ、


「こやつには、目覚めと同時に死んでもらう! さぁ、ファイター、サポーター、構えよ!」


 僕はブロードソードを抜き、《ストレージ》から"小瓶"を取り出す。

 真横には、同じように剣を抜いて、腰嚢から小瓶を取り出すベガの姿が。


「帝国騎士団も、意外と狡賢いことを考えるものだね。やぁやぁ我こそは……なんて言いながら一騎打ちでもするかと思ったよ」

「それ、一騎打ちじゃなくて、ただの自殺だよ」


 小瓶の蓋を親指で弾いて開け、その中の液体を剣先に垂らした。


 そして、ドラゴンの眼前まで歩み寄る。


 ファイター・サポーター合わせて十六名。

 全員、ドラゴンの真横と真後ろについた。

 準備は完了だ。


「それでは──始めよッ!」


 同時。

 "毒を塗った"十六振りの剣が、鱗と鱗の隙間に刺し込まれる!


 赤い血が十六の傷口から噴出。

 代わりに剣先の劇毒が体内へと侵入した。


 トリカブトとポイズンフロッグの毒袋を混ぜ合わせた強力な毒だ。

 それが十六振り分。

 人間なら五分と持たない。

 いかにドラゴンと言えど──


 しかしそこで。

 ドラゴンの瞼が、カッと開いた。


「《UWWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────ッッッ!!!》」


 鼓膜が破れそうなほどの《咆哮》。

 咄嗟に耳を覆いたくなるような音量だ。


 それを正面で受けたタンク達は、身体が硬直。

『恐怖』の状態に陥り、足が震えだす。


「う、うぐッ……。あ、足がよぉ……」

「足が動かなくとも、盾だけは手放すなよ! 絶対だ!」

「腹を括りなさい! ウィザードを守れるのは私達だけなのよ!」


 だけど、《咆哮》の範囲は正面のみ。

 側面や背面を陣取った僕らは、頭と耳が痛いだけで済む。


 ……ここまで文献通りだ。

 だけど……滅茶苦茶、頭が痛い!

 割れそうだ……ッ!


 ポロロン♪


 心地よいリュートの音色が、《咆哮》のうるささを掻き消すように聞こえてくる。


 ポロロ、パラ、ポロ……ポロロン♪


 魔力で音量を増し、恐怖と痛みを和らげる《演奏》をしてくれているのだ。

 曲は悲しげ。

 暗く、深い。


 ゆっくりとリュートを弾き出したバードは更に、


「《星をも眩ます、かの御魂。枯れた花を手に、夜空召されし。ただ独りきり、閨待つ姫君。死に床と化す、新床は、寂しく半ば、空いたまま》」


 《歌》によって、『勇敢』の状態を付与。


 頭への痛みと、恐怖感が和らいだ!

 これで……戦えるッ!


 全ファイターとサポーターは、剣を握りなおす。


「今だ! 武技を放て! そやつの鱗を砕くのだ!」


 歌と演奏に混じる兄上の指示に、


「《横時雨》!」「《炎陽》……」「《夕立》」「《紅焔》ッ!」


 魔力が流れされ、色とりどりに輝きだす剣。

 十六の武技が、人間の筋力を越えた威力・速度で放たれる!


 ──ガァンッ、ギィンッ!


 鋼鉄を殴っているような鈍い音が、そこかしこから鳴り響いた。

 その直後。


「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──ッ!!」


 ファイターとサポーターは、ほぼ全員──


 翼と尻尾で吹き飛ばされるッ!


 数瞬後。

 バァンッ!

 僕は壁に背中を打ち付け、手から剣を落とした。

 それを嘲笑うかのごとく、肺から空気が競り上がってくる。


「がはぁ……ッ!」


 そのまま地面に落下するが、なんとか足から着地。

 咳込みながらも、呼吸を整えた。


「ごほっ……ごほっ……。はぁー……はぁー……」

「ファイター、サポーター、一旦離れるのだ!」


 と、兄上の指示が違う意味で飛ぶが、既に僕らは飛ばされている。

 無事だったのは、人間離れした反射神経を持つ……ベガくらいだ。


「……ふっ、危ないじゃないか! カウンターを……といきたいところだけど、おあずけだね」


 彼女は身を翻して剣を納めると、飛ばされた僕のほうへ駆ける。

 これで、誤射の心配は無い。


「ウィザード、アーチャー! 今だ! 全火力を叩き込めエェ──ッ!」

「《ペイルフレイム》」「《爆裂魔弓》ッ!」「《ロックキャノン》!」「《放射連弓》!」


 蒼い炎が、高速の矢が、巨大な岩が、大量の矢が──

 その様々な攻撃が、全てドラゴンに襲い掛かる!


「UGOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──ッッ!」


 炎が翼が包み。

 風が足元を切り裂き。

 矢が顔面で爆発し。

 数えきれないほどの岩と矢が全身に命中する。


 そして極めつけは──鍾乳洞の天井すれすれに発生した、岩の塊。

 直系五メートルはあるそれが、


「《メテオ》」


 燃え盛りながら、ドラゴンへと垂直落下!


 バアアアアアァァァァァ──ンッッ!!


「UGAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOO────ッッ!!」


 衝突の轟音とドラゴンの大音声が、鍾乳洞を支配する。


 同時、発生した波のような衝撃波。

 後衛職の何人かは後方へと吹き飛ばされ、前衛職も何人は尻もちをつく。

 僕も尻もちつきそうになったけど……ベガが背中を支えてくれた。


 ………………。


 そして、沈黙が訪れた。


 バードが楽器ごと吹き飛ばされ、《歌》と《演奏》は止んだ。

 《メテオ》の威力の凄まじさに、誰も声が出せない。


 そうして。

 この場にいる五十一名全員が、"岩の欠片で出来た山"を注視している。


「や、やったのか……?」


 誰が、ぽつりとそう言った。


 ぱら……。

 山頂の岩が、斜面を転がる。


「……勝ったんだ! 俺達、本当にドラゴンを倒したんだよ!」


 誰かが、そう叫んだ。


 ぱら、ぱら……。

 岩は、なおも転がり続ける。


「やっらぞ、俺らの勝利だ! 今日は美味いもんをたらふく──」


 しかしその言葉は、最後まで紡がれなかった。


「《UAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────ッッッ!!!》」


 "生きたドラゴン"が、山の中から飛び上がる!

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