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32話 オーガシャーマン

 地面を蹴って駆け出した!


「UGAAAAAAAッ!」

「UIIIIIIIIIIIIAAA!」


 進路上に立ち塞がる二匹のホブオーガ。

 しかし、僕らは両脚を止めない。


 仲間を信じている!


「《シールドバッシュ・改》ッ!」


 空気法のように放たれた衝撃波が、右のホブオーガに直撃。

 身体を大きくのけ反らせ、大剣など到底振ることの出来ない体勢へ。


「おりゃあああぁぁぁ! 武技でもなんでもねええええぇぇぇッ!」


 リエンは下から掬い上げるようにして、大剣で地面を切り裂く。

 掘削され、前方へと飛び散る石の散弾。


 ──ガギィンッ!

 左のホブオーガはそれから身を守ろうと、大鉈を立てて盾とした。


 これで二匹のホブオーガは、攻撃が出来ない状態。

 その間を、駆ける僕らは通り抜けた!


 だが。


「《UGAU・RAA・IIAAA》!」


 オーガシャーマンが骨の長杖を突き出すと、巨大な岩の壁が出現。

 行く手を物理的に阻んでくる。


 僕らの足が、止まってしまった。


「イオ、回り込むかい! それとも、風魔術で飛び越えるかい!」


 そうこうしている間にも、背後のホブオーガは体勢を整える。


 ……奴らとの戦闘に入るのは、面倒だ。

 魔力と体力、そして何より時間を浪費してしまう。


 それはつまり。

 これほど巨大な岩壁を生成できるオーガシャーマンに、好き勝手魔術を使わせてしまうという事。

 しかも、ホブオーガを切り抜けて相対する頃には、僕らも万全ではないだろう。


 ここは、ホブオーガとの戦闘を避けたい──


「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ! 《爆裂魔弓》ッ!」


 レオンの放った矢が岩壁に命中し、爆散!

 ちょうど人間二人が通れそうな間隙が生まれる。


「《UGA・I・BAA》」


 オーガシャーマンはすぐさま対応し、その穴を塞ごうと試みが……


「《アイス》」


 姉上の一言で、穴の周囲が凍て付いた。


 冷たい氷でコーティングされ、岩は一向に塞がれない。


「レオン、姉上! 後で、お菓子でも奢るからね!」

「じゃあ、私は紅茶でも用意するから。舌が壊れるほど美味しいから、死なないでよ」


 僕とベガは二人の作ってくれた穴を通り抜け、奥へと歩を進めた。


「この部屋に来るという判断だけでも意外だったが、まさかワタシの目の前にまで辿り着こうとは……人間をショーショー、侮っていたようだな」


 背後の氷が、パキ、パキ……と、音を立てて剥がれ落ちる。

 遅れて、岩壁の穴が塞がってゆく。


「君が侮っていたのは人間じゃなくて、私と彼さ」


 横にいる僕を、ベガは顎で指した。

 オーガシャーマンはベガの自信満々な態度に、笑いをこぼす。


「クックックッ……貴族のメスとは思えぬ唯我独尊っぷり。面白い。……両名、名は?」

「私の姓に関しては今後、変わる可能性があるんだけど」


 と、前置きし、彼女は名乗った。


「ベガ・フィン・ギースリンゲン。ベガ様とでもベガ閣下とでも、好きな敬称で呼んでくれ」


 敬称で呼ぶのは前提なんだね……。

 ダンジョンボスを前にしても、ベガの人を食ったような態度は変わらないなぁ。


 でも。

 彼女の余裕ある態度は、いつ見てもカッコいい。


 自分に絶対の自信があるからこそ、そうした余裕が生まれるのだろう。

 僕も、こういう時くらいは自分に自信を持たなくちゃ。


 僕はブロードソードの切っ先を緑の肉体に向け、名乗った。


「僕の名はイオ。冥途の土産に覚えておくことだね──お前を倒す者の名なんだから」


 精一杯の自信を持って発した台詞に、オーガシャーマンは一層笑った。


「クックック……ギャッハッハッハッハ! 面白い、実に面白いぞ! 殺すのが勿体ないくらいだ、ギャッハッハッハ!」


 その哄笑は僕らを抜け、壁に反響。

 幾度も木霊する。


 どうやら背後の穴は、完全に塞がったらしい。

 巨大な岩の壁で仕切られた空間で、オーガシャーマンとベガと僕の三人きり。

 ……奴を倒す、絶好のチャンスだ!


「ベガ、奴はシャーマン。魔術戦では僕らのが不利だ。詰めて、近接戦に持ち込もう」

「了解、異論無いよ。じゃあ早速──」


 ──ダッ!


 ベガは高速で駆け出す。

 僕も、彼女の横に並んで駆ける!


「さぁ、ベガとやら、イオとやら! かかって来い! その減らず口を塞いで進ぜよう!」


 オーガシャーマンは、骨の杖を前へ突き出した。

 魔術を発動するつもりだ。


 しかし《アクセラレート》で加速している僕らなら、剣の間合いまで詰めるのに、さほど時間は要さない。

 詠唱一回分、ってとこだ。


 これを防ぎきれば。

 そうすれば、僕らの勝利は確実だ!


「《AIHI・HIHIA・AHIISA》ッ!」


 オーガシャーマンは、魔術を詠唱。

 すると──


「──消えたッ!? いや、これはっ!」


『透明化』だ。

 オーガシャーマンは魔術で、"緑の肉体を透明にした"のだ。


「小癪な真似をしてくれるね!」


 止まらないベガは、先程までオーガシャーマンがいた場所へ到達。


 急ブレーキの勢いを活かして深く踏み込み。

 目にも留まらぬ速度でブロードソードを振るうが──空振る。


 隙が、生じた。


 ま、まずい……ッ!

 このままだとッ!


「ベガっ! 危ない!」


 僕はベガの手を引き、彼女の頭を胸元に抱き込む。

 そうして、彼女を守るように背を向け、


「《TIAAU・IOE・RAOUA》!」


 ──ザジュッ!


 放たれた風の刃が、僕の背中を切り裂いた。

 風に乗った僕の紅い血が、周囲へと撒き散らされる。


「うぐぅ……ッ!」

「い、イオ! 《ヒール》!」


 ベガは僕の腕からするりと抜け、すかさず回復魔術。

 本格的に失血する前に、背中の傷は塞がった。


「大丈夫かい、イオ! すまない、私のせいで……」

「いいや、いいんだ、ベガ……。僕の同じことをするつもりだったから……」


 ベガが剣を振るわなかったら、代わりに僕が振るっていただろう。


 透明化した相手は、当然ながら目に見えない。

 モーションもタイミングも、一切分からないのだ。

 驚いて硬直し、その隙に急所でも攻撃されたら、防御も出来ずに死ぬ。


 ……一か八か、敵のいた場所に向かい、斬りつける。

 あの場では、それがそれが最良の判断だった。

 間違いない。


 ただ、"相手が一枚上手だった"という事。


 僕らの判断能力が高いことを察して、移動したのだろう。

 それこそ、剣が当たらないような位置に……。


「はは……流石ダンジョンボスなだけはある。なかなか苦戦しそうな相手だね」

「……あぁ。『透明化』なんて、卑怯もいいとこだからね」


 透明化──

 人語での魔術名は、《インビジブルクローク》。

 特上級魔術だ。


 人間のウィザードでも上位一パーセントしか使えないような特上級魔術を、まさかオーガが使えるなんて……。

 もう、どんな事が起こっても驚かなさそうだ。


「クックック……二秒だ。オマエらの減らず口が塞がるまで、たったの二秒だ」


 どこからともなく、オーガシャーマンの声が聞こえる。

 だがその声は、この密閉された空間に何度も反響する。

 位置が特定できない。


「しかしまぁ……仕方あるまい。生きとし生ける全ての生き物には、得手不得手がある」


 どし、どし、どし……。

 巨体の足音はするが、その音源も判然としない。


「ビッグアントは社会性に優れ、硬い甲殻を持つ。だが知能は低く、遠距離攻撃の手段に乏しい。ワーラビットは簡単な魔術を覚え、動きが素早い。だが勇敢さに欠け、革は柔らかい」


 足音が、止まる。


「ヒューム、エルフ、ドワーフ……。人間というのは皆、視覚に優れた生き物だ。しかし嗅覚はどうだ? ワタシ達オーガやゴブリン共の……足元にも及ばないッ!」


 マズい、攻撃が来る!

 見えない!

 なんとかしないとッ!


 しかし。

 判断力のある僕の脳は、咄嗟に"ある魔術"を思い出した。


「《エクスプロール》ッ!」


 瞬時、僕の脳内に"生物の位置"が流れ込んでくる!


 遠い背後、岩の壁の向こうに十数体。

 ホブオーガと冒険者たちだ。


 左横に一体。

 ベガだ。


 そして、右横に──


「UGAAAAAAAAAAAAAAA──ッ!」


 ──ガギィンッ!


 僕の身体は宙を舞う。

 オーガシャーマンが横薙いだ骨の杖の物理的な一撃で、殴り飛ばされたのだ。


 しかし、怪我は無い。

 寸前で構えたブロードソードが、敵の攻撃を防いだ!


「ベガ、カウンターをっ!」

「任せてくれ!」


 ベガは俊敏に剣を構え、バリスタから放たれた太矢のような刺突。

 ズジュッ!

 剣が透明の肉体に突き刺さる。


 同時、噴き出す紫の鮮血。


「ここで仕留める!」


 ベガはブロードソードを突き刺したまま、短剣を胸元で構える。


 剣と血で相手の位置が確実に分かる今だからこそ。

 至近距離の高威力魔術で屠るつもりだ!


 しかし。


 ──ごガッ!


「ぐあ……ッ!」


 ベガの身体も、宙へ舞った。


 横腹から"くの字"に折れ曲がって、五―メートル近く吹き飛ばされている。

 骨の二・三本は確実に折れているだろう。


 だが、そこは流石のベガだ。


 痛みをものともせず、空中で一回転し、


「《ウィンド》!」


 魔術で発生させた風をクッションに。

 そのまま華麗に着地して、すかさず自身へ回復魔術。


「《ヒール》」

「ベガ! 怪我は大丈夫!?」


 その真横へ、殴り飛ばされていた僕が着地。

 《ヒール》の二度掛けをしようかと短杖を向けたが、手で制されてしまう。


「イオの傷に比べれば、かすり傷だよ、この程度。……にしても、この私が、あんな鈍そうなオーガの一撃を食らうとはね」


 これまで見てきた通り、ベガの動体視力と運動神経は人並外れている。

 だけど、相手が見えなければそれも意味はない。


 普段の戦闘なら貰わないような一撃も、相手が透明では貰ってしまう。


 ふっ、とベガは余裕そうに笑うが、どこか悔しそう。

 空いた右手で脇腹をさすりながら、彼女はオーガシャーマンを睨み付けた。


「《AIHI・HIHIA・AHIISA》!」


 僕らを遠ざけた隙に、奴は再び『透明化』した。

 ベガの剣が突き刺さり、血を流した状態のままで。


 しかし、それら諸共、オーガシャーマンの姿は消えた。

 壁に木霊した声だけが、どこからともなく聞こえてくる。


「GU、GA……ッ! 認めよう、オマエ達は強いッ! ワタシの一撃を防いだこと、また、ワタシにこのような一撃を見舞ったこと、ショーサンに値する」

「おや、褒美でもくれるのかい? 君の首ならいらないよ、だって私達が刎ねるんだから」

「クックック、ギャッハッハ! この期に及んでもぬかす胆力、その剣の腕前……気に入らぬ道理が無い」


 どうやらベガは、オーガシャーマンに気に入られたようだ。


「どうだ、ワタシの伴侶とならぬか? さすればオマエの命、助けてやろう」


 その提案にベガは、"僕の頬を撫でながら"返した。


「もっと可愛くなってから出直すことだね、具体的にはイオくらい」

「ギャッハッハッハッハ! そうだ、オマエはそうでなくては! 良かろう、ならば自然の摂理に従うまでのこと! 欲しいものは力づくで奪うのみ!」


 どし、どし、どし、どし。

 巨体の歩く足音が、聞こえてくる。


「あはは、負ければ私、あの醜いオーガのものになるのか。ははっ、普通に願い下げだね。……誰かが守ってくれないかなぁ?」


 ベガはわざとらしくそう言うと、おもむろに僕を見る。


 ……僕だって、ベガがオーガのものになるなんて嫌だ。

 そもそも、人を"物扱い"している時点で、論外だ。


 だけどこのままだと、ベガはオーガシャーマンの"もの"になりかねない。


 第一に、僕らは力で劣っている。

 身長二メートルで筋肉質のオーガは、武技を使えなくとも、人間を殴り飛ばすだけの膂力がある。

 身長差にして数十センチ、体重にして三倍近い種族の差は、どうあがいても覆せない。


 そして第二に、あの『透明化』だ。

 その凶悪さは、いわずもがな。


 逆に僕らが勝っているもの。

 それは、武技の技量と純粋なスピード。


 なら、話は早い。


 ──『透明化』をなんとか看破して、筋力差を埋めるほどの速度で武技を叩き込めばいい。


 そのための機転と判断力は、僕のここに詰まっている。


「……策、思いついたよ、ベガ。何も聞かずに手伝ってくれる?」

「もちろん。あの醜いオーガを、もっと醜くしてやろうじゃないか」


 目を細め、いたずらっぽく笑うベガ。


 その笑みを守るためにも。

 このダンジョンに閉じ込められた皆を救うためにも。

 そして、僕が成り上がるためにも──僕は奴を倒す!



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