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28話 救援

 ──ギィンッ!


「ぐおおッ!」


 二メートルの巨人──オーガの大剣を盾で受け、"ブレイズ"は地面を擦りながら後ろに下がる。

 なんとか、耐えた。


 しかし、ここは敵のホーム。

 オーガは一匹ではない。


「UGAAAAAAAAAAッ!」


 もう一匹のオーガが、大鉈を構える。


 既に魔力は尽きた。

 相次ぐ連戦の果て、武技を使いすぎた。


 魔力ポーションはまだあるのだが、なにぶん飲む暇がない。

 大盾を置いて一息つこうものなら、魔力どころか生命までなくなってしまう。


「できれば、隙を作ってくれ……ッ!」


 必死に仲間にそう叫んだが、誰もブレイズに構う余裕は無い。


 《宵の明星》の先輩方は、目の前の敵で精いっぱい。

 ライヤは、完全な魔力切れで倒れている。

 リエンは、負傷者を背に大剣を振るっている。


 それゆえ、


「UGAAAAAAAAAAAAAAA!」


 オーガは誰にも邪魔されることなく、大鉈を横振った!


「うぐおおぉぉッ!」


 ブレイズは大盾ごと吹き飛ばされ、地面を転がる。


 ようやく回転が済んだかと思ったが、立ち上がることは出来なかった。


「クソッ……足が……ッ!」


 接地の衝撃に耐えられなかったのか、それとももう既に限界が来ていたのか。

 片足が動かない。


 さらに、大盾は手元に無い。

 遠くに飛ばされている。

 届かないと分かりつつも腕を伸ばそうとしたが……その腕も上がらない。


 ──満身創痍だ。

 それも、ピンピンとしたオーガ二匹の目の前で。


「UGAAAAA!」

「GUA! GOAAA!」


 一匹のオーガは大剣を、もう一匹のオーガは大鉈を、それぞれ振り上げる。


「ここまで、か……っ」


 だが、それらが振り下ろされることはなかった。


「──《横時雨》!」


 二匹、四本の腕に蒼い線が横一閃──


 直後、その蒼さを塗りつぶすように紫の血が噴き出す!


「UGOAAAAAAAA!」

「GYOOOOOOEEEEEE!」


 腕を切り裂かれ、オーガ達は自身の得物を手から滑り落とす。

 ザンッ!

 と、地面に突き立った大剣と大鉈。


 ブレイズは、間一髪で助かった。


「誰だ、今の……っ!」


 だが、その問いに返ってきた答えは、


「《ヒール》」


 回復魔術。


 そして《ヒール》を詠唱した本人は、ブレイズを背に、オーガ達に対峙する。


 右手には片手剣、左手には短い杖。

 それはつまり、帝国における中衛の証。


 そこに背格好と声音を加えれば、それが誰かはブレイズにもすぐ分かった。

 ──僕だ。

 イオだ。


「久し振り、ブレイズ」

「イオっ……お前、なんでここにいるんだ!」

「世間話は後でね。今は、目の前の敵に集中しなきゃいけないから」


 オーガ──

 二メートルもある筋骨隆々なその体格からも分かる通り、強力な魔物だ。


 ギルドのレベルシステムでいうレベル25の冒険者と、同等と言われている。

 ちなみに、僕は20。


 ギルドの判定では、一対一で勝てない。

 なのに現状は二対一。

 絶望的だ。


 だけど、僕は勝たなけくちゃいけない!

 ブロードソードを構え、


「《暴雨》!」


 左のオーガへ一瞬にして、十字の剣撃を叩き込む!


「UGURUOOOO!」


 命中し、紫の血が十字状に噴き出した。


 やはり、巨体ゆえに動きが緩慢だ。

 《アクセラレート》で加速した軽い片手剣の速度なら、避けられることはない。


 だけど、傷は浅い。

 オーガはよろめきもせず、《咆哮》する。


「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──ッ!」

「くっ……!」


 ベガに言われた僕の得意分野は『対人』。

 人間よりデカいオーガは、さすがに人の範疇には収まらない。


 この体格だと、大剣や上級魔術が無ければ、致命傷を与えるのは困難だ。

 ちまちま傷を負わせて出血多量で倒れるのを待ってもいいけど……


「ぐわああああぁぁぁぁ!」

「トーマス! ……くそぉっ、ゴブリンめ!」


 そうこうしている間にも、《宵の明星》のメンバーは、一人、また一人と倒れて行っている。


 時間はかけれない!


「はあああぁぁぁぁ!」


 僕は駆けた。

 オーガ二匹は、僕を叩き潰そうと腕を振り上げる。

 それに対し僕は、


「《ストレングロース》ッ!」


 筋力強化の支援魔術。

 それもタンクやファイターにではなく、"自分に"かける。


 そして、ブロードソードを頭上で横にした。


 まさに、剣で攻撃を受け止める形だ。

 知能の低いオーガも、流石にそれくらいは察したのだろう。


「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 "全力で"腕を振り下ろす!


 それを──待っていたよ!


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAっ!」


 頭上から迫ってくる丸太のような腕。

 受け止めるのは、片手剣一本。


 無理だ。

 受け止めた瞬間、自分がぐちゃぐちゃに潰れる未来が見えた。


 だけど。

 初めから受け止めるつもりなんてないからね!


「スピードなら、僕のほうが上だよ!」


 ブロードソードと短杖を投げ捨て、横にステップ。

 数瞬前まで僕がいた"地面が"、粉々に砕け散る。


「UGUUAAッ!」


 これにはオーガも悔しそうな表情。

 二撃目を放とうと、周囲を見回すが……僕の姿はない。


 当然だ。


「ここだよ! "上"だよ!」


 僕は瞬時に、オーガの頭上へと跳び上がったのだ。

 それも、"大鉈"を手にして!


「GUAAAAっ!?」


 オーガは腕を全力で振り下ろしたため、ガードが間に合わない。

 人型魔物の弱点である頭部が、がら空きだ。


「片手剣じゃ威力が足りないから、君たちの武器を使わせてもらうよ! 《ストレングロース》があれば、僕の筋力でも拾い上げるくらいはできるからね!」


 さらに僕は空中で。

 大鉈の棟──刃の無い背に跳び乗った!


 大鉈の重量に僕の体重を加え、そこに重力が加わる。

 当然、その一撃は凄まじく。


 ざじゃあああぁぁぁ──ッ!


 オーガの頭頂から心臓までを、一直線に切り裂いた。

 しかも二匹とも同時に。


「GAGAU……a……」

「PI、GI……」


 どさぁッ。

 と、二匹のオーガは同時に倒れた。


 僕は倒れる直前に跳び、地面に着地。

 投げ捨てたブロードソードと短杖を拾い上げた。


 するとブレイズが、


「す、すげぇ……。たった一人でオーガ二匹を同時にやっちまうなんて……」


 素直な感嘆を漏らした。


 まぁ、色々と言ってやりたいことはあるけど……。

 今は他の人を助けるのが先決だ。


「《アクセラレート》」


 自身に《アクセラレート》を掛けなおし、僕は剣を振るった──

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