27話 前進
「ベガ、方の二匹も蹴散らして! 姉上、分断もかねた攻撃魔術を! レオンは敵の矢を撃ち落としながら、削っていって!」
パーティーに指示を出す。
だけでなく僕は、
「はああぁぁっ!」
ゴブリンの首筋に突き。
ブロードソードが、紫の血にまみれて貫通する。
「GYOPYUUUUUッ!」
そのまま、死体となったそのゴブリンごと突き進み、奥のゴブリンにもブロードソードを突き刺した。
傷は浅い。
でも十分だ。
ブロードソードの柄に、短杖を触れさせる。
「《トニトルス》」
金属の刀身を伝い、剣先から雷が放出。
「ABABABABABABAB──ッ!」
奥のゴブリンは、泡を吹いて気絶した。
「こっちは大丈夫! そっちは!?」
周りを見ると、ゴブリンの死骸が積み重なっていた。
剣で斬られた痕が残るゴブリン。
矢が幾つも刺さったゴブリン。
地面から生えた岩の槍に貫かれたゴブリン。
僕のも含めて、総数十三匹程度。
普通の冒険者パーティーなら、数的に苦戦しそうなものだ。
だけど僕らはそれを、ものの一分足らずで倒しきった。
「的確な指示のおかげで、誰ひとり怪我は負ってないよ、イオ。順調だね」
ベガの言う通り、ここまで順調に進んできた。
というか、前進は撤退に比べ、比較的安全だ。
普通は逆なんだけど、このダンジョンの敵主力は、あろうことか僕らの後方にいる。
なら、必然的に前方が手薄になるわけで。
撤退よりむしろ、進撃する方が安全だ。
「おそらくダンジョンボスは、僕らが攻めてくることは考慮していないと思う。常識的に考えて、この状況下で奥へ突き進むなんて、正気の沙汰じゃないからね」
「……あ、自覚あったんだ?」
意外だった、と驚きを見せるベガ。
「あるに決まってるでしょ。ぶっちゃけ、戦闘狂か自殺志願者しか採らないよ、こんな判断」
だからこそ、《ガンマ・グラミ》の人達は止めようとしてくれたわけだし、僕らについてこなかった。
それが正常だ。
僕らの判断は、常軌を逸しているのだ。
「だけど……いや、だからこそ、攻めてくるなんて考えられないはず。なまじ頭の良い生き物ほど、"非合理的"な判断は理解出来ないからね」
酒場にエールが無いからといって、違うお酒を注文したり別の酒場に行ったり、というのは理解できる。
だけど、エールが無いからって、急に陽気なダンスを踊り始める人の事は、理解しがたい。
暗くじめじめしたダンジョンで出入り口を塞がれて、敵も大量にいる。
命が危うい。
もちろん死にたくない。
一刻も早く脱出したい。
そんな状況で、逃げるでも耐えるでも諦めるでもなく"攻める"なんて、踊り始める人と同様に、イカレているとしか思えない。
だけどそれが、勝利するカギだ……!
「まれに俺、イオが恐ろしく思えるぜ。なんつーか、底の知れない井戸を覗き込んでる気分っつーか、どこまでも物が沈み込んでく沼を見てる気分っつーか……」
「レオン、それ褒めてるの?」
あんまり、好意的な例えには聞こえないんだ……
「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁっぁあッ!!」
突如、ダンジョン内に悲鳴が響き渡った。
「どうするのかしら、イオ……って。言わなくても、分かりきったことね」
「うん!」
声のした方へと、僕らは駆けた。




