23話 討伐隊
翌日。
怪我は酷くならずにすんでよかった。
僕がお風呂に入っているところへ姉上が突入してきたり。
僕のベッドの中にベガがもぐり込んできたり。
怪我が悪化しそうな出来事がいくつかあったけど、結果的に僕は無事だった。
本当に良かった。
まぁ、それはそれとして。
「ベガと一緒に来たのも謎だけどよぉ……なんでお前のメイドさんが一緒なの?」
帝都の門につくと、レオンにそう問われた。
当然の疑問だと思う。
意味分からないよね、ダンジョンに向かうのにメイドが追従してくるって……。
僕の右隣の姉上が、メイドらしく上品かつ丁寧に答える。
「ご主人様の身に危険が及ばないよう図りますのも、メイドの責務にございますゆえ。僭越ながら、従者の真似事をさせていただいております」
「……姉上、本当は?」
「あんな怪我を負ったのに討伐隊に参加するなんて言うから、心配で付いてきたのよっ」
過保護な姉上に、「はは……」とレオンは苦笑。
彼の視線は僕の左隣、ベガへ移った。
「で、なんでベガがイオと一緒に?」
「おや、もう忘れたのかい? ゴブリン頭くん。私の家、爆破されたじゃないか」
「そうだったな。イオとお前の家、同時に襲撃されたんだっけな。……あと、俺の知能をゴブリンと並べんな」
ベガの住んでた家は、物理で打ち壊された。
近隣住民の証言によると、ハンマーとバールを持った集団が、家に襲い掛かったそうだ。
木と"レンガ"で造られているからか、全壊ではなかったらしい。
でも、家具はことごとく壊され、とても人の住める環境ではなかったそうだ。
「ふっ。だからこそ、イオの家に住まわせてもらっているんだよ。ま、結婚前のリハーサルのようなものだね」
「い、イオ、マジか。ベガと結婚するのか……」
「違うから、結婚しないから! てか僕、ついこのあいだ婚約者と別れたばっかだからね!?」
僕の発言に、姉上は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「当り前じゃない、イオは私と結婚するんだから」
「しませんよっ!」
「それもそうね……。十何年も同棲しているのだから、既に結婚しているのと同じよね」
「その理屈で言うと、僕は兄上とも結婚してますよ!」
……本当に大丈夫なんだろうか、このパーティー。
僕らが今から向かうのは、新ダンジョン。
その討伐隊、第一陣に参加する。
ベガと僕が作ったクラン《彗星と極光》が第一発見者だからね。
先鋒に参加する権利くらいはある。
未知の冒険と、手付かずの財宝。
冒険譚のような状況に、僕の心は高鳴っていた。
帝都を出て、森をしばらく歩くと、そこはダンジョンの入口だ。
既に、二百名近い冒険者が集まっている。
「第一陣は揃いましたかー? それでは、点呼を始めますよー」
元冒険者のギルド職員が、討伐隊に参加したクランの名前を読み上げ始める。
「《アルペングロー》、三十二名」
帝国領内で最大手のクランだ。
その総数は、三千にも達するという。
「《初日の出》、二十六名」
ギルド内での実力評価は二番。
一番の陰に隠れがちだが、相当な実力者揃いだ。
「《宵の明星》、二十二名」
僕の元いたクランだ。
探せば、ブレイズたちも見つかるだろうか?
「《上弦の月》、十八名」
ギルド最強──"トップクラン"の称号を冠するクランだ。
ベガみたいな天才が、ごろごろいる。
「《プロミネンス》、十七名。《第九惑星》、十五名。《タンジェントアーク》、十三名……」
と、他のクランが呼ばれてゆき、
「《彗星と極光》、四名」
最後に、僕らが呼ばれた。
「全員揃っていますね。それでは、皆さんの健闘を祈ります。女神の加護のあらんことを」
新ダンジョン討伐隊、第一陣。
総数、百八十二名。
暗いダンジョンの中へと、足を踏み入れた。




