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間章 イオのいないパーティー

 クラン『宵の明星』の拠点にて。


「はぁ……はぁ……」


 息を切らすブレイズ。

 彼の眼前には、解体用の台に乗せられたホブオーガ。


 ダンジョンから、懸命に引っ張ってきたのだ。

 戦闘以上の疲弊だ。


 しかし、これで終わりではない。


「……解体って、どうすればいいんだ?」

「そんなこと聞かないでよ。あたしが知ってるわけないでしょ」


 隣にいるライヤは、顔をしかめる。


 《ストレージ》による運搬のみならず、討伐した魔物の解体も、イオの仕事の一つだった。

 彼が解体している間、夜の街に繰り出していた二人には、どこから手を付けていいかさえ分からない。


「クランの先輩方に聞いてみるか?」

「駆け出しの頃ならいざ知らず、今さら聞くなんて恥ずかしすぎるんだけど」


『解体の一つもできないで、お前達は今まで何をしてきたんだ?』

 と、下手をすれば、クラン内での評価が下がる。


「なら……頑張ってみるか」




 そうして二人は、半日近い時間を掛けた。


「ようやく終わったぁ……。あぁー、腹減った」

「イオ、毎回これをやっての……?」


 同じ時間があれば、イオ独りで、ホブオーガより巨大なクリムゾンミノタウロスの解体が終わる。

 二人で、しかもクリムゾンミノタウロスより小さな獲物でも、イオより時間を要した。


「……ねぇブレイズ。解体専門で呼び戻す?」

「絶対だめだ! あいつを呼び戻すくらいなら、クラン内での評価が下がったほうがマシだ!」

「それもそうね……」

「ほら、行くぞ、ライヤ。あいつがいなくてもやってけるって、証明しねぇと」


 解体台の上には、素材の入った袋。

 それを掴み、二人は商人の元へと向かった。




「ウムー……ダメダメ。コレ、素材、酷いネ」


 袋の中身を見た商人の、第一声はそれだった。


「んなっ! もしかして、ぼったくろうとしてんのか! その手には乗らねぇぞ!」


 机に身を乗り出し、異国の商人に迫るブレイズ。

 だが、


「凄んデモ無駄ネ。コノ皮、コマギレ。一枚として使えナイ。しかも、傷ガ目立つ。商品価値、急降下ネ」


 商人は、脇に控えた従者から袋を受け取ると、銀貨を十何枚か取り出した。


「これぐらいネ。脅迫してきた分モ、引いてるからネ」

「はぁ!? そんなわけねぇだろ! イオの時はもっと……」


 ……支払ってもらえた。


 その事実が認めたくなくて、口には出さなかった。


 ブレイズは仕方なく銀貨を受け取ると、取引所を後にした。


「いや、あんな奴いなくてもいいんだ……! 解体が下手で報酬が少なくなるなら、ダンジョンでそれ以上稼げばいいだけだ!」


 彼とライヤの足は、冒険者ギルドへと向けられた。




 着くと、中はいつも以上に賑わっていた。


「押さないでください、順番は守ってくださいっ!」

「今回の申請は、パーティーではなくクラン単位でお願いします!」


 受付に殺到する冒険者の対処に、受付嬢が苦労しているようだ。


「俺達がダンジョンに行ってた間に、何かあったのか……?」


 その独りごとに、答えが返ってきた。


「新しくダンジョンが見つかったらしいな」


 リエンだった。

 長椅子に腰掛けて、クランの先輩達と話していたようだ。


「お前、今までどこに行ってたんだよ! こちとら、ホブオーガを解体したり売却したり、大変だったんだぞ!」

「だからこそでい。あっしは、イオを探してたのよ」

「ぐっ……!」


 表情を歪めるブレイズとライヤ。

 だが、その険悪なムードを察してか、クランの先輩が宥める。


「まぁまぁ、落ち着け三人とも。ここは、お上の冒険者ギルドだ。喧嘩したとあっちゃあ、うちらクランの名に傷が入るぜ」

「若さゆえのエネルギーがコントロール出来てないのよ。であれば、ダンジョンで発散しましょうよ」


 長机の上には、一枚の羊皮紙。

 そこには、『クラン:宵の明星、参加者』と。


 リストには、クランマスター・サブクランマスターの名が刻まれ、その下には、名うての冒険者たちもいる。

 先輩は、さらにその下へ、ブレイズ・ライヤ・リエンの三名の名を書き加えた。


「期待してるわ、抜けたランベルク君の分もね」

「ありがとうございます! 期待を裏切らないよう、誠心誠意頑張らせていただきます!」

「恩に着ます。ありがとうございます、先輩」


 頭を下げる二人。

 その様子を見てリエンは、頬杖をつく。


「ケッ。世渡りだけは、いっちょまえに上手ぇでやんの」


 彼女はそのまま、顔を先輩に向けた。


「それでよ、先輩方。新しいダンジョンを見つけたクラン、名前はなんつーとこなんでい?」

「《彗星と極光》? らしいな。聞いたことないクランだけどな」

「んな不吉な名前でやってくたぁ、よほどの田舎モンか、アホタレだな」


 彼等はまだ、《彗星と極光》を作った二人を知らない。

 そのうちの一人が、たった今、彼等の脇を通り過ぎたことも……。


「王家の次に格の高い三大公爵家と、筆記試験の主席が作ったクランだよ……ふっ、無知とは怖いね」

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