表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/45

20話 襲撃者2

 僕も、負けていられないッ!


「《五月雨》!」


 眼前のタンクに、五連続の突き。

 魔力で蒼くなったブロードソードが、間断なくタンクを襲う。


 しかし当然か。

 大盾に全て防がれた……っ!


「甘い、甘いぞ小僧! 《シールドバッシュ》!」


 お返しと言わんばかりに、タンクが武技を放つ。

 盾から、前方に衝撃波を発したのだ。


 ぶわりっ!

 盾の正面にいた僕の身体が、宙を舞う。


「《ウィンド》!」


 風魔法で体勢を整え、そのまま着地。


 やっぱり、タンクの相手は難しい。

 盾が大きく、隙が無いのだ。

 攻めあぐねてしまう。


 人間のパーティーを相手にする魔物も、こんな気持ちなんだろうな……。


 タンクを倒したいのなら、反応出来ないほどのスピードか。

 はたまた、盾の防御力を凌駕する大威力の一撃か。


 どちらも、僕には無い。

 だけど……無いなら無いで、作り出せばいい!


「《バインド:ストーン》!」


 僕はタンクに向かって駆けながら、詠唱。

 タンクは避けようとするが、石畳に足を取られてしまう。


 大盾の弱点は、その機動力の低さだ。

 装備が重いから、あまり素早く動けない。

 だから、《バインド》一つ避けられない。


「さあ! 行くよ!」


 僕はタンクの目の前に辿り着くなり、空中へ跳んだ。

 タンクの背後に回ろうと、彼を跳び越そうとしたのだ。


 しかし、そう上手くはいかない。

 彼の真上に来たところで、


「あぁ、逝くがよい! 《シールドバッシュ》ッ!」


 上に向けられた盾から、衝撃波が放たれる!

 僕の身体は、上空へとぶち上げられた。


「……良い景色だね」


 十メートルほどの空中から見る帝都の眺めは、最高だ。

 冒険者ギルドの建物も、騎士団聖堂も、キャピュレットの塔も、全てが見える。


 《メタモルフォーゼ》の魔術が使えたら、まずは鳥になろうかな。

 でも、ずっと羽ばたかなくちゃいけないから、疲れそうだね……。


 ……と、その前に。

 敵を倒さなくちゃね。


「《プロテクテイク》」


 身体を丈夫にしておく。

 直後、本日二度目の浮遊感。


 "落下"が始まったのだ。


 真下を向き、ブロードソードに魔力を流す。

 僕を打ち上げた大盾が、こちらに向けられている。


「くそ……ッ! 《バインド》のせいで動けねぇ! クソガキの一撃、受けるしかねぇのかッ!」


 そうだね、受けるしかないよ。

 そうなるように、《バインド》を使ったんだから。


「もしかして……俺を跳び越えようとしたんじゃなくて、"打ちあげられよう"としてたのか……ッ!」


 ご明察。

 いくら足を取ったからって、そう簡単に背後に回れるとは思ってない。


 だけど、《シールドバッシュ》で打ち上げてくるとは思ってたよ。

 だから、それを利用させてもらったんだ!


「重力の乗った一撃と、盾の純粋な防御力。どっちが強いか決めようか!」


 僕は空中で杖を仕舞い、剣を持つ右拳を掴んだ。


 これから放つのは、正真正銘全力の一撃だ。

 武技による威力強化、十メートルから落下する衝撃、全体重。

 その全てを乗せた一撃を、放つ。


 確実に、僕の腕はもたないだろう。

 壊れるのは目に見えている。


 後で姉上にこっぴどく怒られるの自分が、目に浮かぶようだよ。

 それに……めちゃくちゃ痛いだろうなぁ。

 だけど。


 僕は剣を振り下ろす──


「《滝落とし》ッ!」


 ガァン──ッ!


 蒼く輝くブロードソードと大盾が、爆音を響かせる。


 ピキ……ッ。


「うぐぅ……ッ!」


 僕の腕の骨に、間違いなくヒビが入った。

 想像通り、めちゃくちゃ痛い……ッ!

 腕に、金槌をフルスイングされているみたいな痛みだ!


 でも同時に。

 タンクの大盾にもヒビが入る。


 ここが正念場だああああぁぁぁぁぁッ!


「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッ!」


 ブロードソードが、一層輝きだす。

 その蒼い刀身は大盾のヒビにめり込み……


 バリンッ!


 ついに、真っ二つに砕いた。

 ここへ、トドメの一撃を叩き込むッ!


「《暴風雨》ッ!」


 右斜め下からの斬り上げ。

 右斜め上からの斬り下ろし。

 左からの横薙ぎ。

 締めは、頭上からの唐竹──


 X字と十字に刻まれた傷から、血が勢いよく噴き出す。


「大盾が邪魔なら、それを壊すまで。壊す力が足りないなら、頭で補うだけ。それが、僕のやり方だっ!」


 過度な負荷に耐え切れなかったブロードソードが、砕け散った。

 小さな破片が、キラキラと空中で煌めく。


 タンクはその煌めきを見ながら、

 どさっ!

 膝から崩れ落ちた。


「勝った……ッ! うぐ……ッ!」


 タンクは倒れたまま動かない。

 僕が勝利したのは確実だ。

 だけど、それも辛勝。


 僕の右腕は垂れたまま、動かせない。

 剣は、さっき砕け散った。


 残る武器は一つ。

 僕は痛みに堪えながら、短杖を抜く。


「イオ、もういいんだ」


 ベガが、僕の前に立ってくれた。

 彼女の背中が、頼もしく思える。


「魔力は、まだある……! まだ、戦える……!」

「既に、私達の勝利だよ」


 鎧の打ち鳴る音が聞こえてくる。

 しかも、その音は段々と大きくなっている。


「もはやここまでか……! 《ワームホール》!」


 ウィザードが慌てて、暗い穴を出現させる。

 そこへ、サポーターとアーチャーは飛び込んだ。

 ウィザードも入ろうとして、


「待ちやがれッ! 《音速破弓》──ッ!」


 レオンの放った音速の矢が、腰に命中。


 がぎんッ!


 しかし矢は弾かれる。

 矢で裂けたローブから覗いて見える、"赤いドラゴンの鱗"によって。


「お、覚えていろ、アーチャーめ!」


 まるで転ぶように、暗い穴の中に入る。

 その後、その穴はすぐに閉じた。


 代わりに、全身鎧を着た帝国騎士団が幾名、衛兵を連れてやって来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ