20話 襲撃者2
僕も、負けていられないッ!
「《五月雨》!」
眼前のタンクに、五連続の突き。
魔力で蒼くなったブロードソードが、間断なくタンクを襲う。
しかし当然か。
大盾に全て防がれた……っ!
「甘い、甘いぞ小僧! 《シールドバッシュ》!」
お返しと言わんばかりに、タンクが武技を放つ。
盾から、前方に衝撃波を発したのだ。
ぶわりっ!
盾の正面にいた僕の身体が、宙を舞う。
「《ウィンド》!」
風魔法で体勢を整え、そのまま着地。
やっぱり、タンクの相手は難しい。
盾が大きく、隙が無いのだ。
攻めあぐねてしまう。
人間のパーティーを相手にする魔物も、こんな気持ちなんだろうな……。
タンクを倒したいのなら、反応出来ないほどのスピードか。
はたまた、盾の防御力を凌駕する大威力の一撃か。
どちらも、僕には無い。
だけど……無いなら無いで、作り出せばいい!
「《バインド:ストーン》!」
僕はタンクに向かって駆けながら、詠唱。
タンクは避けようとするが、石畳に足を取られてしまう。
大盾の弱点は、その機動力の低さだ。
装備が重いから、あまり素早く動けない。
だから、《バインド》一つ避けられない。
「さあ! 行くよ!」
僕はタンクの目の前に辿り着くなり、空中へ跳んだ。
タンクの背後に回ろうと、彼を跳び越そうとしたのだ。
しかし、そう上手くはいかない。
彼の真上に来たところで、
「あぁ、逝くがよい! 《シールドバッシュ》ッ!」
上に向けられた盾から、衝撃波が放たれる!
僕の身体は、上空へとぶち上げられた。
「……良い景色だね」
十メートルほどの空中から見る帝都の眺めは、最高だ。
冒険者ギルドの建物も、騎士団聖堂も、キャピュレットの塔も、全てが見える。
《メタモルフォーゼ》の魔術が使えたら、まずは鳥になろうかな。
でも、ずっと羽ばたかなくちゃいけないから、疲れそうだね……。
……と、その前に。
敵を倒さなくちゃね。
「《プロテクテイク》」
身体を丈夫にしておく。
直後、本日二度目の浮遊感。
"落下"が始まったのだ。
真下を向き、ブロードソードに魔力を流す。
僕を打ち上げた大盾が、こちらに向けられている。
「くそ……ッ! 《バインド》のせいで動けねぇ! クソガキの一撃、受けるしかねぇのかッ!」
そうだね、受けるしかないよ。
そうなるように、《バインド》を使ったんだから。
「もしかして……俺を跳び越えようとしたんじゃなくて、"打ちあげられよう"としてたのか……ッ!」
ご明察。
いくら足を取ったからって、そう簡単に背後に回れるとは思ってない。
だけど、《シールドバッシュ》で打ち上げてくるとは思ってたよ。
だから、それを利用させてもらったんだ!
「重力の乗った一撃と、盾の純粋な防御力。どっちが強いか決めようか!」
僕は空中で杖を仕舞い、剣を持つ右拳を掴んだ。
これから放つのは、正真正銘全力の一撃だ。
武技による威力強化、十メートルから落下する衝撃、全体重。
その全てを乗せた一撃を、放つ。
確実に、僕の腕はもたないだろう。
壊れるのは目に見えている。
後で姉上にこっぴどく怒られるの自分が、目に浮かぶようだよ。
それに……めちゃくちゃ痛いだろうなぁ。
だけど。
僕は剣を振り下ろす──
「《滝落とし》ッ!」
ガァン──ッ!
蒼く輝くブロードソードと大盾が、爆音を響かせる。
ピキ……ッ。
「うぐぅ……ッ!」
僕の腕の骨に、間違いなくヒビが入った。
想像通り、めちゃくちゃ痛い……ッ!
腕に、金槌をフルスイングされているみたいな痛みだ!
でも同時に。
タンクの大盾にもヒビが入る。
ここが正念場だああああぁぁぁぁぁッ!
「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッ!」
ブロードソードが、一層輝きだす。
その蒼い刀身は大盾のヒビにめり込み……
バリンッ!
ついに、真っ二つに砕いた。
ここへ、トドメの一撃を叩き込むッ!
「《暴風雨》ッ!」
右斜め下からの斬り上げ。
右斜め上からの斬り下ろし。
左からの横薙ぎ。
締めは、頭上からの唐竹──
X字と十字に刻まれた傷から、血が勢いよく噴き出す。
「大盾が邪魔なら、それを壊すまで。壊す力が足りないなら、頭で補うだけ。それが、僕のやり方だっ!」
過度な負荷に耐え切れなかったブロードソードが、砕け散った。
小さな破片が、キラキラと空中で煌めく。
タンクはその煌めきを見ながら、
どさっ!
膝から崩れ落ちた。
「勝った……ッ! うぐ……ッ!」
タンクは倒れたまま動かない。
僕が勝利したのは確実だ。
だけど、それも辛勝。
僕の右腕は垂れたまま、動かせない。
剣は、さっき砕け散った。
残る武器は一つ。
僕は痛みに堪えながら、短杖を抜く。
「イオ、もういいんだ」
ベガが、僕の前に立ってくれた。
彼女の背中が、頼もしく思える。
「魔力は、まだある……! まだ、戦える……!」
「既に、私達の勝利だよ」
鎧の打ち鳴る音が聞こえてくる。
しかも、その音は段々と大きくなっている。
「もはやここまでか……! 《ワームホール》!」
ウィザードが慌てて、暗い穴を出現させる。
そこへ、サポーターとアーチャーは飛び込んだ。
ウィザードも入ろうとして、
「待ちやがれッ! 《音速破弓》──ッ!」
レオンの放った音速の矢が、腰に命中。
がぎんッ!
しかし矢は弾かれる。
矢で裂けたローブから覗いて見える、"赤いドラゴンの鱗"によって。
「お、覚えていろ、アーチャーめ!」
まるで転ぶように、暗い穴の中に入る。
その後、その穴はすぐに閉じた。
代わりに、全身鎧を着た帝国騎士団が幾名、衛兵を連れてやって来た。




