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17話 家の中で

 勇気を振り絞って──跳んだ!


「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ──ッ!」


 地面に足がついた瞬間、身体がまだ動き続けようと求める。

 その要求を拒めば、間違いなく足が折れるだろう。


 だから僕は、身体を丸めてごろごろと数回転。

 痛いッ!

 飛び散ったドアの破片が刺さったッ!


 だけど、これしきの事でへこたれる僕じゃない!


 回転の勢いが収まるや、僕は起き上がり、壊れた玄関へと走る。

 木片や金具を踏みしだきながら中に入ると、


「誰だテメェ! あぁん? こいつがイオ・フィン・ランベルクか!?」

「そうだ! 多分そうだ! 絶対そうだッ!」


 武装した数名の人間と鉢合わせた。


 全員、フードを目深にかぶり、顔は見えない。

 僕と向かい合っているという事は、反対側──つまり勝手口のほうから来たのだろう。


 廊下の奥を見れば、ぞろぞろと新しい敵がやってきている。

 いま僕と対峙しているのは、敵のほんの一部って事か!


 全部を倒すのは無理だ!

 ここは一部を倒して、一気にテレーズの元へ向かおう!


「けひひっ、ちょうどいいぜェ! 俺達の計画をブッ潰してくれたお礼、きっちり返してやるよ!」

「その可愛らしい顔面を、見るも無残な状態にしてやらぁッ!」


 階段を塞ぐような位置にいるのは、二人。

 奥にも敵はいるが、今は無視だ。


「死に晒せ、クソガキッ!」

「あの世で悔いなァッ!」


 彼等二人は腰の裏から何かを引き抜く。

 ぎらりッ。

 輝いたのは、指に挟まれた投げナイフ。

 その名称の通り、僕に向かって投げてくる!


 一人は片手で四本を、もう一人は両手で八本を投擲。

 数は多い。

 しかし通路は狭い。


 回避は困難だ。

 防ごうにも、手持ちに楯は無い。


 だけど……ここは僕の家だ。


「家具の配置は、完全に頭の中に入ってるから!」


 バンッ!

 シューズボックスの戸を開き、即席の盾とする!


 僕は素早くその裏に隠れる。

 投げナイフが二本ほど戸に刺さったが、貫通せず。


「クソッ! 調子に乗りやがって、クソガキ!」

「人の家に不法侵入するほうが、よっぽど調子に乗ってると思うよ」


 僕は戸から顔を出して、直後。

 二人の元へ駆け出した。


「はっ、近接で戦おうってか! 甘く見んじゃねぇぞ!」

「いい度胸だな! その気概だけは買ってやるぜ!」


 当然、二人は剣を抜く。

 両手剣と、双剣だ。


 それに対し、僕は剣を抜──かずに、腕を横に振るう。

 刹那、"白い粉"が宙を舞った。


 それは一気に広がって狭い通路を埋め尽くし、まるで霧がかかったようになる。

 視界は、完全に白一色だ。


「ゴホ、ゴホッ! な、なんだこれはッ!? クソッ、前が見えねぇ!」

「間違っても剣を振るんじゃねぇぞ! 俺にあたる!」


 僕が投げたのは、『消臭用の粉塵』だ。


 シューズボックスに入っていたのを、咄嗟の機転で掴み、投げ撒いたのだ。

 その効果は抜群。

 敵は剣も振るえず、咳をしながら、視界が晴れるのを待っている。


 ……懐かしいな。

 この粉、テレーズの好きな香りなんだよね。

 袋に詰めたこれを、彼女がシューズボックスやベランダに置いていたのを、今でも思い出せるよ。


 こうして敵二人の動きを封じられたのも、君のおかげだ。

 ありがとうテレーズ。

 いま助けに行くよ。


 だッ!

 僕は駆け、そして跳躍。


 粉を撒く直前まで、敵はここにいたはず!

 自分の記憶力を信じて、踏む!


「ぶぼおぉぉッ!」


 足の裏に、柔らかい感触。

 敵の顔面を踏んだのだ。


 そして、自分の記憶力を信じて、跳ぶ。

 階段のほうへと。


 とんっ!

 着地する。

 再度、足の裏に感触。

 今度は木の感触──階段だ。


「じゃあね、二人とも。できれば、永久にそこにいてもらえると助かるよ」


 そう言って、僕は階段を駆け上がった。17

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― 新着の感想 ―
[一言] すれ違い様、切るなり刺すなり何らか戦力削る痔力しといた方が良かったかも。
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