15話 地下室
地下へと階段が続いていた。
無論、僕はそこに足を踏み入れる。
かつ、かつ……。
と、一段一段降りてゆけば、そこは、
石造りの地下室だった。
かなり暗いな。
全然見えないぞ。
目を凝らしてみないと、何がなんだかさっぱりだ。
しかし、
「むぅ……」
奥から"声"がした──
チャキッ。
僕は反射的にブロードソードを抜く。
右手に片手剣を左手に短杖を。
戦闘態勢は、ばっちりだ。
構えながら、声のしたほうへ近寄る。
相手を確認しようと、目を凝らせば、
「んむぅ! むっ、んーっ!」
青年が縄で縛られていた。
ご丁寧に口も塞がれていて、会話することすらままならない。
だけど僕を見るや否や、暴れ始める。
それはまるで、助けを求めているかのようで。
「もしかして……捕らえられてる、のかな?」
「むん、むんっ!」
もの凄い勢いで首が縦に振られる。
答えはイエスだ。
本当かな……?
嘘をついている可能性も否定できないな。
「むむーっ! ん、んーッ!」
……いや。
嘘でもいいや。
助けるべきだ。
ちょっと不用心な気もしたけど、僕は彼の間近にまで近づいて、剣を振るう。
きつく縛られた縄を、斬り解いてやった。
すると彼は、ばっと立ち上がる。
自分で口の縄を解き、
「ありがとう! この恩は、ぜってぇに忘れねぇから!」
って、近いよっ!
わざわざ手を取って、迫らないでっ!
急に詰め寄られ、狼狽える僕。
驚いたのを察してくれたのか、青年は手を離し、一礼。
「あぁ、驚かせて悪いな。でもよ、本当に感謝してんだ」
彼は暗い地下室で、どこかへと手を伸ばし、
ぱっ。
ランタンを点けた。
これで、暗くてよく見えなかった彼の姿が、はっきりと分かる。
健康的と思える、茶色の髪。
イケメンと言わざるを得ない顔立ち。
見上げてしまう長身。
服の上からも分かる細マッチョな肉体。
見覚えがあった。
「レオン!?」
騎士学校の頃の、同級生だ。
いわゆる残念なイケメンに部類してたタイプの人間だ。
ランタンに照らされた僕を見るなり、レオンは唇を噛む。
非常に申し訳なさそうに、言葉を紡いだ。
「い、イオ……! ぐっ……すまない。俺としたことが、面目もない……」
彼はランタンを手に取り、とあるテーブルの上に運んだ。
何枚かの羊皮紙と、大きな紅い鱗が、照らし出される。
羊皮紙のほうは、何の変哲もない羊皮紙だ。
対し、紅い鱗は──ドラゴンの鱗っ!?
「違うんだ、イオ。そっちじゃない。俺が伝えたいのは、その……羊皮紙のほうだ」
ここになんでドラゴンの鱗があるのか、すごく気になるけど……。
僕は羊皮紙を手に取り、そこに刻まれた文に目を通した。
『イオ・フィン・ランベルクの家を襲撃。同居者諸共。時刻は九時三十分。騎士団と衛兵の注意を帝都東部に集中。混乱の最中に、ベガ・フィン・ギースリンゲンの家を襲撃』
"僕とベガの家を襲撃する"と、書かれている。
しかも日付を見ると、実行は今日──
「本当にすまない、イオ! 奴らに拉致されて、何が何だか分からないまま、お前とベガの情報を吐いちまった!」
深々と頭を下げるレオン。
僕は、静かに羊皮紙を置いた。
これは……復讐だろう。
僕とベガに、身代金の計画をご破算させられたことへの。
僕ら二人を狙い撃ちなんて、それ以外に考えられない。
さらに、計画書がここにあるという事はつまり……この店はグル。
身代金云々の話をしていた森の冒険者たちも自然と、仲間であると考え得る。
やはり、ダンジョンの五人組と、森の冒険者たちと、ここニエル武具店は、全部繋がっている──
「……だけど、良かったぁー。僕もベガも、ちょうど家にはいないし」
というか、僕の家に関しては、前の家を襲撃するつもりだろう。
今の新居は帝都西部。
だけど羊皮紙には、"帝都東部に集中"なんて事が書いてあった。
加えて、ベガもおそらく一人暮らしだろう。
そもそも、彼女がギースリンゲン公爵家の実家暮らしなら、襲撃は百パーセント成功しない。
それくらい犯罪者だって分かるはずだ。
なら、被害者は出ない。
レオンの情報を元にしてたから、少し古い情報だったんだろうね。
ふぅ……ちょっと焦ったけど、一安心……。
とはならなかった。
「……テレーズ?」
ふと、元婚約者の名前を思い出した。
確かに、僕は引っ越した。
しかし彼女はそのまま。
あの家に、これから襲撃される家に、"今も住んでいる"。
かつ。かつ……。
「イオ、待て! どこへ向かうつもりなんだ! ベガの家か!」
「いいや、ベガと一緒にここまで来たんだ。たとえ家が襲撃されても、彼女は無事だよ」
「なら落ち着け! 奴ら、人数はそこそこいるし、装備も悪くない! 間違いなく怪我するぞ! しかも軽傷じゃ済まない! 下手したら死ぬぞ……ッ!」
分かってるよ、それくらい。
襲撃するなら、人数も装備も揃えていくはずだ。
襲撃対象が五対二で勝利した冒険者となれば、なおさらだ。
「もしかして、お前の家に誰かいるのか!?」
「うん」
「そいつは……お前の命よりも大切な人なのか? よく考えろ、イオ。一人死ぬのと二人死ぬの。どちらが、より不幸だ?」
二人死ぬほうが不幸だと思う。
僕は至ってまともだ。
それに正直……テレーズの事を恨んでいないと言えば嘘になる。
僕は彼女の事を信じてたんだ。
これから結婚して二人で幸せになっていくんだろう、って。
でもそれは裏切られた。
ブレイズに寝取られたことによって……。
僕は聖人でも、賢者でもない。
怒りもするし、恨みもする。
でも。
だけど。
「忠告ありがとう、レオン」
僕の脚は止まらない。
いや、止められない。
もしかすると、ベガが僕を誘ってくれた本当の理由は、ここにあるのかもしれない。
……まぁ、今はそんな事どうでもいい。
僕はテレーズを助けたい!
ただそれだけだッ!
「……分かった、イオ。それなら、俺も連れていけ! 助けてもらった恩、忘れちまったら男がすたるってもんよ!」
「レオンが格好いいのって、そういうところだと思うよ!」
僕はレオンに微笑み、直後。
階段を駆け上がった──




