11話 偵察
「《エクスプロール》」
僕は特殊魔術の一つを詠唱。
頭の中に、逃げたゴブリンのおおまかな位置情報が流れ込んできた。
「向こうだね」
指を差し、ベガと二人で森を進む。
僕らはこうして、ときどき歩を止めてゴブリンの位置を探っている。
《アクセラレート》で追うこともできるけど、ゴブリンの五感の範囲に入っていると、巣に帰らないかもしれない。
だから、五感の範囲以上の範囲以内を、ずっとキープしている。
「スカウトでもないのに、よく《エクスプロール》なんて使えるな」
ベガは魔力ポーションを取り出し、下投げで放る。
僕はそれをキャッチし、ぐいっと飲み込んだ。
「ごくごく……ぷはぁ~……。前のパーティー、戦闘職ばかりだったからね。本職には及ばないけど、スカウトとヒーラーの真似事は一応」
前のパーティーは、タンク・ファイター・ウィザード。
全員、直接的に戦うポジションばかりだ。
普通は、偵察要員のスカウトや回復要員のヒーラーを入れておく。
そうすることで、生存率を高めるのだ。
だけど、僕らはそうしなかった。
だから、僕が代わりにやった。それだけだ。
「へぇー。念のため聞いておくけど、本当に追放されたんだよな?」
「うん。お前は低レベルで、これから足を引っ張るって」
「視点によって、こんなにもイオの捉え方が異なるんだ。いい勉強になったよ」
と、話していると、景色が変わった。
今まで、飽きるくらい木を見ていた。
それが今、目の前には岩山が聳え立っている。
しかも、入口らしき大穴を開けて。
「──ダンジョン発見。どうする、ベガ? 中まで偵察する?」
「なかなかに大規模な巣だ。私とイオじゃ力不足だろう」
「なら一度帰ろうか」
今回のは、あくまで偵察だからね。
慎重さは勇敢さに勝る。
これでクエストは完了したし、帝都に帰ろう。
「途中で寄り道してもいいかな? 倒したゴブリンを見に行きたいんだけど」
「いいよ。あっ、それなら、その近くで休憩しようか。イオも魔術を連発して疲れているだろうし」
地図に印を付け、僕らは踵を返す。
帝都に向けて、森の中を帰り始めた。
僕達が今回受けたクエストは、『ゴブリンの偵察』。
討伐でも撃退でもなく、"偵察"だ。
というのも、帝都付近の森で最近、ゴブリンが活発化しているらしい。
人的被害や農作物の被害はまだないけど、今後も無いとは言い切れない。
それで、"帝国が"クエストを出した。
ゴブリンが活発化した原因を探って欲しい、とのことだが……おおかたの目星はついている。
群れが大きくなったのだ。
それこそ、餌を巣の近くでは賄えないくらい。
だから活発化し、巣の遠くまで足を伸ばしているのだ。
「にしても今回の巣、大きかったね」
「帝都の間近で、相手はゴブリン……。正式な討伐隊が組まれるんじゃないか」
「参加する?」
「暇であれば、ね」
僕らのクランの本来の目的は、"犯罪者を捕まえる"こと。
帝国騎士団が手を出せない犯罪者に、手を出すことが僕らの役目だ。
今日のクエストは生活費稼ぎにすぎない。
本来の仕事が見つかれば、そちらを優先する。
魔物退治をする冒険者は数えきれないほどいるけど、犯罪者退治をする冒険者は、代わりなんていないからね。
「僕らがずっと暇なのが、一番いいんだけどね」
「現実はそう甘くない。このまえ倒した奴らのアジト、まだ割れていないからね」
と、話ながら歩くこと十数分。
僕らが倒した四匹のゴブリンが、転がっていた。
僕はゴブリンから武器や防具を剥ぎ取り、《ストレージ:イン》。
虚無空間に収納する。
別に意味はないけど、死体は《アース》で土葬しておいた。
往々にして、クエストの報酬はしょぼい。
真面目に働いたほうが、割に合う。
だけど、それでも一攫千金を夢見て冒険者になる者が多いのは、こうしたドロップアイテムが美味いからだ。
ゴブリンシャーマンの杖──
材料が人間の骨でなければ、かなりの高値で売れる。
それこそ、これ一本で今回のクエスト報酬の倍だ。
「それじゃあ、休憩しようか」




