あつまろう どうぶつとの百合 <後編>
<4>
うっすら差し込む朝日で目が覚める。って、いつの間にかまたブランカに抱きつかれてるー! ふわふわな毛の感触を惜しみながらカーテンを開けると、実にいい天気。でもこの世界、やっぱり雀いないんだね。なんか調子狂うな。
「ブランカー、朝だよー。起きて~」
「ん……おはよう、はじめちゃん」
彼女の体を揺すると、寝ぼけまなこをこすりながら起き上がってくる。寝付きはいいけど、寝起きはあまり良くないのかな。
二人で一緒に台所で朝ごはんの用意。といっても、また野菜のサンドイッチなんだけど。氷で冷やしている冷蔵庫ならぬ冷蔵箱の中から野菜を取り出し洗って刻み、パンにバターを塗って……。そうそう、昨日聞いた話によると、この世界では牛乳のようなものが採れる植物があって、それをミルクの木と呼んでいるらしい。豆乳と違ってきちんと脂肪分もあって、このバターもそれから作られている。うーん、メルヘン!
美味しい朝ごはんを食べ終わると、さっそく開店準備。お花の種類とか、お金の単位と種類とか、色々教えてもらっていざ開店!
本日のお客様第一号はラクダ人間のおばさん。
「いらっしゃいませ。何をお求めしょうか?」
接客に出たのはブランカ。まず、お手本を見せようってことだね。
「バラを三輪ちょうだい。あら、あの子昨日村に来た子ね。おはよう」
「おはようございます! ブランカのところに住み込みで働くことになりました!」
きちんとお辞儀してご挨拶。ブランカのお店の評判を落とすわけにはいかないもんね。
「元気ねえ。いいこと、いいこと。はい、千五百ビスト。ブランカちゃん、とてもいい子だから仲良くしてあげてね」
さっきブランカから聞いた説明によると、ビストというのはこの国の通貨なんだって。
「はい! お買い上げありがとうございました! またおいでください!」
ブランカと一緒にお辞儀する。
こんな感じでお仕事はつつがなく進んでいき、無事本日の閉店時間を迎えることが出来た。わたし、結構スジがいいのかも?
「疲れたー。お花屋さんって結構大変なんだねー」
背を反らしながら空を見ると、夜空に「29」という大きな文字が光っていた。あれ? 30じゃなくて29? ほんと、何なんだろうあの数字。
「ねえ、ブランカ。訊くだけ訊いてみるんだけど、ブランカにはやっぱりあの数字見えないんだよね?」
「はじめちゃんが昨日言ってたあれ? うーん、私には何のことだかさっぱり」
今日来たお客さんも、誰もあの数字のこと言ってなかったから、やっぱりわたしにしか見えてないのかなー。気になるなあ。
◆ ◆ ◆
「そういえば、はじめちゃん。今月末にお祭りがあるの。一緒に行かない?」
晩ごはんにマスのソテーとサラダを食べていると、対面のブランカが話の最中に切り出してきた。
「行く行く! ぜひ行かせて! そんなメルヘンな体験、絶対外せない!」
「はじめちゃんにとっては、村のお祭りもメルヘンなのね。そういう、ちょっと変わったところすごく好き」
ええと、褒められてるのかなこれ。でも、彼女に好きって言われると素直に嬉しい。照れくさくて、頬を左人差し指で掻く。
「わたしも、ブランカのこと大好き! パパとママ、あと友達に会えないのは寂しいけれど、ブランカと一緒にいられるのが今すごく幸せだなって」
昨日会ったばかりなのに、こんなにも彼女のことを好いている。何だか不思議。
今日も、一緒にお風呂に入って。一緒のベッドに寝て。目の前で寝息を立てながら、相変わらず寝相で抱きついてくるブランカにドキドキ。わたしも、そっと彼女を抱きしめ返す。やだ、何か興奮しちゃう。後ろ頭をそっと撫でる。ふわふわで、本当に気持ちいい。
しばらくそうやって撫でていると、心地よさのあまり眠りについていた。
<5>
「はじめちゃん、どうしたの? お祭り楽しくない?」
ブランカの声にはっと我に返る。
わたしがルマニア村に来てから三十一日目。一緒に夜のお祭りに来ているわけだけど、あることが気になって上の空状態。
例の空にある数字が「0」になっている。数字はあれから毎日減っていて、途中で日数のカウントダウンなのだと気付いた。
根拠はないけど、今日何かが起こりそうな気がする。それも、良くないことが。
頭を振って、嫌な考えを吹き飛ばす。大丈夫だよ、気のせい気のせい!
「ブランカ、踊ろう!」
彼女の手を引き、音楽隊を囲んでいる踊りの輪に飛び込む。互いの手を取り、ダンスを踊る。わたしはダンスの心得なんてないけれど、ブランカが上手くリードしてくれるので、とても楽しい。ずっとこうしていたいな。いつまでも、いつまでも。
この一ヶ月で、わたしのブランカへの気持ちが何なのか見えてきた。それは、きっと「恋」。
ブランカを見てるとドキドキする。声を聞いてもドキドキする。一緒に食事していると幸せだし、一緒にお風呂に入ったり寝るときなんて、本当に頭がどうにかなってしまいそう! こんな想いが、日増しに強くなっていく。
「ブランカ、ごめん。少し疲れちゃった。川べりでちょっとお話しない?」
多分一時間以上ずっと踊っていたので、さすがに疲れてしまった。気合は乗ってるのになあ。
「うん。私もさすがに疲れちゃった。休憩しましょ」
二人で、少し離れたところを流れている小川のへりに座る。たくさんのホタルが舞っていて、爽やかな夜風が頬を撫でる。
「実はね、大事なお話があるの」
息が整ったところで、話を切り出す。
「わたし、ブランカのことが好き。愛してる。ずっとずっと、一緒にいたい! 女同士はイヤ?」
「ううん。私もはじめちゃんのこと、愛しちゃってるみたい。一緒にいるとね、心がドキドキふわふわして幸せなの。私も、はじめちゃんとずっと一緒にいたい」
嬉しい! 告白OKもらっちゃった! パパ、ママ。友達のみんな、ごめんね。もし元の世界に帰る方法があっても、わたしは彼女と一緒にいることを選びます。
隣に座っているブランカに肩を寄せ、手に手を重ねるとそっと握り返してくる。手、あったかいな……。ぱたぱたと振ってるしっぽが当たってこそばゆい。
「ねえ、キスしていい?」
こくりと頷く彼女。ものすごく緊張しながら、そっと唇を重ね合わせる。
わは、キスしちゃった! ブランカとファーストキスしちゃったー! 幸せすぎて、どうにかなりそう!! ブランカの唇ってこんなに柔らかいんだ。うふふ、狼人間とキスなんて本当にメルヘンだよ!
わたしたちは、何度も何度もキスを交わす。ああ、神様。この素晴らしい時間がずっと続きますように。
そのとき、急に体が軽くなるのを感じる。幸せすぎるから? 違う! わたし本当に空中に浮いてる!!
ブランカとの、そしてこの世界とのお別れなのだと直感的に気付く。
「はじめちゃん! 手を!」
頑張って二人で手を伸ばすけど、あとほんの少し届かない。やだ! 神様、こんな酷いことしないでよ!!
「わたし、絶対ブランカのこと忘れない! 必ずここに戻ってくる!!」
愛する彼女の姿がどんどん遠ざかっていく。頬を涙が伝う。そして、意識を失った。
<6>
意識が戻ってくる。そうだ、確か空に吸い込まれて……。
「ブランカ!!」
体をはね起こし、周囲を見る。見慣れた自室。わたしはデスクチェアに座っていて、机の上には鉛筆とスケッチブック。それとデジタル時計。時計の日付と時刻を見ると、寝落ちしたあの日の夜。服もあのときのままだ。
「夢……?」
楽しい夢だったな。でも、最後は悲しかった。寝ながら泣いてしまったのか、頬が涙で濡れている。
そうだ。この夢の出来事をきちんと絵に描き起こそう。
スケッチブックをめくると、描いたはずのない絵が描いてあった。ううん、正確には夢の中で描いた絵がたくさん。何ページも、何ページも。
さすがに、寝てる間に描いたとは思えない。じゃあ、きっとあれは夢じゃなかったんだ!
「ブランカ、またきっと会えるよね……」
スケッチブックを抱きしめる。そのページには、愛しのブランカが描かれていた。
<制作秘話>
毎度おなじみのアレです。
今回のお話の元ネタはぶっちゃけ某ゲーム。これ怒られないかなあ……大丈夫かなあ……。
今作にはもう一つテーマがありまして、それは「読者に尊みを感じてもらうこと」でした。いままでの百合短編が一部を除きいまいち評価が芳しくなく、某狐と猫が百合百合してるアニメを見て自己分析した結果、「自作に足りていないのは萌えと尊さではないか」という考えに至り、今回はそこに留意してイチャイチャさせまくってみた次第です。
ただ、私の作風が基本的にどうにも湿っぽいもので、ラストがビターエンドになってしまいました。私の脳内では、彼女たちは近い将来再会できることになっていますが……。
では、いつものキャラ作成話を。
・天堂はじめ
名前の元ネタは某ゲーム機。作品タイトルから察してください。
メルヘン大好きな絵本作家志望とだけざっくり決めて書いてみたら、ライブ感でたいそう変な子になってしまいました。変人って書きやすいんですよね……。
一応拙作でおなじみの○×高校の生徒ですが、これを○×高校百合シリーズに加えるのもどうかと思うので、除外ですね。
・ブランカ
どう見てもビ○ンカです。本当に、本当にありがとうございました。
名前はいい捩りが思いつかなかったので、シートン動物記「狼王ロボ」のブランカから持ってきています。以前、狼王ロボの百合擬人化小説 「人狼百合物語 クイーン・オブ・カランポー」(https://ncode.syosetu.com/n9044gb/)を投稿しているので、気になった方はそちらもお読みいただけると幸いです。
ちなみに、はじめより歳上の18歳です。今回、あまり年齢差を強調する展開にならなかったのであんまり年の差カップルという感じがしませんが、基本的に年下攻めが好きなので。