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07 前置「刑事と紙」

 パァン

 どこからか発砲音が聴こえた。

 拳銃だ。

 そこで私は意識を今に戻した。


 いつまで私は座り込んでいたのだろうか?

 涙は止まっていた。

 しかし警部は以前としてそこに立ったままである。

 二度と動かないだろう。

 二度と喋らないだろう。

 二度と人として生きることはないだろう。

 私は拳銃の発砲音を確かめるため、力無くゆっくりと丸太小屋から出た。

 まだ外は暗かった。

 どうやらそんなに長くは呆けていなかったらしい。

 一度頭を振り、なんとかして思考しようと試みた。

 私は周りを見る。

 音の発生源は何処だ・・・と、その時、私は思い出す。

 警部の拳銃は丸太小屋には無かった。

 ならば自然と回答はでてくるもの―――私が視界に捉える事もできず、窓から逃げた人物だ。

 伊藤・忠明・・・かもしれない人物。

 彼が持ち出したとしても、何故今発砲した?場所を特定される恐れがあるというのに。

 私は音の発生源であろう地点へと顔を向ける。

 自分の拳銃はしっかりと握る。

 撃つ合いを想定するが、果たして私は撃てるのだろうか。

 多分撃てない。

 私は人を撃ったことがなかった。

 要するに怖いのだ。

 冷や汗が出てくる。

 そして一歩と前に踏み出したとき、私は空へと上る何かを見た。

 それはどんどん大きくなり私の視界を埋め尽くした。

 

 木だ。


 大きな木だった―――通常の木の3倍はありそうな木であった。

 一体これは何なのか。

 私はそれを確かめるために走る。

 間も無くして一つの川に着いた。

 だが、私の目は川には行かず、走っている間もあの大きな木に釘付けだった。

 そして近くで見ることのできるその幹はまるで屋久杉を思い出させるかのような太さであり、根の一部は川の中へと沈んでいた。

 私はその幹の一部が異様に黒いのに気付く。

 月明かりが照らすやや明るい夜の色ではない黒だ。

 それを確認するべく近づくと、それは拳銃であった。

 見慣れたニューナンブ。

 私は直ぐにそれが警部のものであったと気付き、手に取る。

 拳銃は半分木に埋まる形で、トリガーにも細い一本の枝が絡みついていた。

 私は枝を折り、幹を掘り、なんとかそれを取り出す。

 そのリボルバーには一発の弾が空になっていた。

 それがあの発砲音の元だ。

 何を撃ったのだ?

 わからない。

 私はこの拳銃があった状況から、この木自体が伊藤・忠明ではないかと考えた。

 何故・・・。

 彼は自分を木にした?

 結局のところ、私の頭は低速で回転するだけだった。



 私は山を降りることにした。

 その前に、あの警部の木がある丸太小屋へと足を運ぶ。

 丸太小屋には散らばった紙がある事を思い出したからだ。

 私は紙を回収し、そしてもう2つのものを見つけた。

 ヘッフッドフォンとアイマスクだ。

 伊藤・忠明が身に着けていたものだろう。

 ヘッドフォンのジャックは外れており、その先は無かった。

 もしかしたらあの大きな木のどこかにあったのかもしれない。


 山を降りてから、私はそのまま家へと戻った。

 私には家族が居る。

 奇しくも伊藤・忠明と同じ家族構成で、妻と1人の娘が居るのだ。

 私は人に会いたかった。

 夜明けと共に帰ってきた私は、帰宅に気付いた妻に向かい入れられた。

 お帰りなさい、の言葉は、私はいままで夢の中にいたかのような感覚を誘う。

 山の出来事はすべて私の作り出した妄想ではないのか、と。

 妻がココアを作ると言って、キッチンに行ったのを見て、私はソファーへと身を委ねる。

 そして、私は未だに拳銃を所持していた事に気付いた。

 ホルスターにある拳銃の感触。

 それが否応無しに今までの出来事が現実だと訴える。

 結局、妻の淹れたココアに一口つけただけで、私の書斎へと行く事とした。

 一度、眠りにつこう、忘れよう。

 脳が逃避を選んだのだ。


 

 眠りの時間はとても長かった。

 気が付けば、丸一日寝ており、次の日の朝になっていた。

 どうやら妻は私の疲れに気付いていたのだろうか、そっとしておいてくれたようだ。

 その気持ちに感謝しつつ、私は身を起こす。

 寝すぎた事に対する、体のだるさはあるものの疲労はだいぶ取れていた。

 だが、あの夜の出来事を思い出そうとすると体にどっとなにかがきた。

 しかし、私は一つの事をすると決めていた。

 あの丸太小屋で回収した紙だ。

 伊藤・忠明が書いたものだろ。

 私はあの紙に最初に書かれていた最初の一文が気になっていたのだ。

 もしかしたら、何かが分かるかもしれない。

 しかしなんと云う事だろうか、伊藤・忠明の自宅にて見つからなかった伊藤・忠明に関する資料がこうして手に入ってしまった。

 もし、私がこの紙の内容を読まず、あの夜の出来事を忘れようとしていたのであれば、これからも家族と一緒にすごせたのかもしれない。

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