第11話 面倒な人
「おつかれ!なかなか、良い対応だったぞ!五十嵐!いや、学校2位……ゴロが悪いな……
学園2位!」
学校の呼び名をそんな理由で変えて良いのか?って、そこじゃない。
「もう、まわってるんですね。その情報。」
先生は、笑い堪えながら応える。
「そりゃ、学校の歴史が前代未聞の変わり方したからな。学校の教員,プロの狩人を含め
この話題で殺到しているぞ!」
もう、勘弁してくれ……。
「ところで、五十嵐……そのー、響先輩をも超えるような美人がお前の後ろにいるんだ
が……誰だ?」
佐々木が、響先輩を目の前にしている時よりも動揺している所から、なんとなく俺の後
ろにいる化物に予想がついた。
「ゆ・う・き~!」
後ろの人間が化物であることが、確信できた。恐らく、俺の人生で2,3番目に多く聞
いていた憎たらしくも憎めない声。
「はぁ~、日本狩人昨年度実績序列第4位,日本で唯一トップ10に女狩人で入るという
歴史に残る偉業を成し遂げた伝説の狩人。しかも、正式に狩人になってから1年目の今狩
人界の最先端で戦う狩人の中で最も注目されている存在。かつ、モデルをも顔負けの容姿
かつ戦いの美しさを讃えられ日本の色んな意味での代表として『和星姫』と言う通り名を
与えられた、ナイスバデーの方が自分のような、冴えない狩人見習いにどのようなご用件
でしょうか。」
この長文解説を終わらせると同時に振り返ると、予想通りの人が目の前にいた。
俺と全く同じ深い青色の髪色、彼女の腰にまで伸びた長い髪。
そして、てっぺんに生えている?長々としたアホ毛が特徴的。
体型は、いわゆるBQBの体型。目のやり場に、知り合いではなければ困っていたで
あろう。
軍服……いや、制服越しにでもわかってしまうメリハリとした体型だ……うん。
そして、何より俺がこの人を憎んでいる。いや、拒絶したい理由が……
「えぇ?私のかわいくてたまらない弟……じゃなくて、夫の勇輝に会いに来たんだよ♪」
そう、俺がこの人を拒絶したい理由は、コヤツが空前絶後のブラコンであるから。
しかも、かなりの重症。
ちなみに、コヤツの名は五十嵐 七絆。
正真正銘のうちの姉さんだ。
「で、七絆さんが、ここに来た理由は?」
不意に、姉さんは小悪魔的な笑みを浮かべる……あれ?デジャブ?
「いやいや、薙刀に昔から苦手意識を持っていた、勇輝がお願いしてくれるのであれば、
助けてあげようかなぁ~?と、思って!あと、今私は勇輝の姉なんだから!敬語はナシ!」
恐らく、この言葉から俺はお願いなどしなくても助けてくれるのだろう。
姉さんには、一つ狩人なら誰もが望む……かも知れない能力がある。
まぁ、恐らく実行してくれるだろう、その時にでも、説明しよう。(誰に説明しているん
だろう)
「おぉ!さすが姉さん!俺が、困った時に助けてくれる!自慢の姉さんだ!(迫真の演技)」
そして、アホ毛が原因なのか頭の回転速度が可愛そうな姉さんは両手を両頬に当て、照
れる。
「もう!勇輝ったら!自慢の妻だなんて!わかった♪」
だめだ、相変わらず面倒くさい。
「ははは~(棒)」
周りのみんなが、姉さんのバカさを笑い堪えている。
姉さんは、全く動じない……むしろ気づいていない説浮上。
「そ、それじゃ、今日はお開きにするか!お疲れ様ー!」
ありがとう。先生、あなたが冷静かつ、俺のダメージを最低限になる対応をしてくれて
本当にありがとう。
「わ~!先生ありがとう!空気読んでくれてありがと~!じゃあ、勇輝!帰ろっか!」
やべぇ……こいつに願がパートナーだと知られれば、何をされるかわからん。
「え、えっと……ですね。……お姉さま。私、勇輝は今パートナーと同居していましてで
すね……。」
「「「「「えっ!!」」」」」
あ、クラスのみんなにも言っていなかったか。地雷踏んだかな?
「何を驚いているんだ?武器と狩人が同居は当然だろ。栄養管理はパートナーとしての仕
事だぞ?」
先生。ナイスフォロー。
一同、少し抵抗はあったが、納得した。
「そっか~!じゃあ、その人の家に行こうかっ!!」
「えっと、願。いいか?」
願は、空気になっていた上に、思考停止していたが頭を回転させ返答する。
「あ、うん。勇輝くんのお姉さんなら……いいか。」
願が、パートナーとわかった途端、姉さんの目から光が消える。
「勇輝……誰?その女?」
お前、ブラコン属性だけじゃ収まりがつかなくなりついに、ヤンデレ属性を追加してき
たか……コレは、ネット界荒れるぞ……じゃなくて。
「えっと……姉さん。まず、家に行こうか!」
「うん……ゆっくり話し合おうね?」
怖いよ、この人。
なんとか、あの気まずい空気の状態のまま帰宅した。
「で!どういう経緯でこの子がパートナーになったのか、お聞かせ願おうか?……しかも、
結構かわいいし!」
おい!そこ、どさくさに紛れて火照るな!
「まあ、ここなら正直に話してもいいか。」
この場所なら、他の生徒に聞かれることも無いだろう。
ともあれ……少し遊ぶか(クズ)
「いやぁ~あまりにも可愛いから、一目惚れしたんだよ。(棒)」
姉の目に涙が浮かぶ。
「うわ~ん!勇輝~!私というものが居ながら~!こうなったら……勇輝を殺して私も死
んでやる!」
ダメだ、この人と会話しているとペース崩されるし、思考がついていけん。
あと、赤くなるな。お前は嘘だとわかってるだろ、願。
「嘘だっての。」
姉さんの表情が一気に明るくなる。
「やっぱり~勇輝には私しか居ないのか~♪婚姻届書きに行く~?」
ダメだ、こいつ、早く処分しないと……。
「で、本当は、願のステが入学可能なステに届いてなく、ワイロ入学をしたのを隠すため。」
姉さんは、涙目からいつもの鬱陶しい笑顔戻り、願は少し落ち込む。
願……俺は、お前の心情がわからんぞ。
「なんだぁ~!そんなことなのかぁ~!勇輝は優しいなぁ~!流石、私の夫!」
もう、この人ほんとに嫌だ。てか、俺もいわいるキャラ崩壊?が、収まりがつかないし。
「誰が、お前のような脳みそ空っぽのやつの夫になるか。」
「またまたぁ~!照れちゃって!かわいいなぁ~!」
めんどくせぇー。
「でも、誤解が解けてよかったですよ。あ、私は願といいます。弟さんには、いつも助け
ていただいています。」
「うん!よろしくねぇ!あ、でも勇輝は私のだから手を出しちゃダメだよ!」
俺は、背後から全力のチョップをカマそうとしたが、見事に片手で止められる。
「勇輝のすることは何でもお見通しだよ~!」
ブラコンとヤンデレを兼ね備えた姉って、怖ぇ~。
「まぁ、勇輝と離れるのは惜しいけど、さっさと用事を済ませて仕事に戻ろうかなぁ!勇
輝!日本酒ある?」
まぁ、姉さんにはそろそろお願いする予定だったから用意しておいたんだよな。
「用意しておいたぞ。」
あ、姉さんは正式の狩人になって1年。つまり、20歳なので飲酒は問題ない。
そして、問題は願なんだ……20歳未満だから。
「あ、願ちゃんには、お酒飲んでもらうけど……内緒ね?」
「え?七絆さん?今から何するんですか?」
「あぁ、願ちゃんには話してなかったねぇ。今から、願ちゃんの武器種を変えるんだよ?」
「えっ!!」
説明しよう。うちの姉、五十嵐 七絆は、日本酒と自分の血を使用することで、人の武
器種を変更することが出来る。欠点と言えるものといえば、姉さん本人は変更することが
出来ないところくらいだろうか。
ちなみに、この能力がわかったのは姉さんが14歳の時に中二病に目覚めていた時だっ
た。うん……。
※お酒やタバコは20歳から。
実験台にされた、俺の武器種は元拳だったのだが、今は双剣になっている。
まぁ、どうでもいいか。
俺は、小さなオチョコ2個と日本酒を姉さんに渡す。
「ありがと~勇輝!大好き!」
「そういうのいいから。」
そして、姉さんはオチョコ2つに日本酒を注ぎ、その1つを願に渡す。
「はい。願ちゃん。コレ一気飲みして!」
「あ、はい!わかりました。」
願は、少し戸惑いながらも一気に飲み込む。
そして、姉さんは馴れたのか、様になった飲み方で飲む。
両者とも酔いが早いのか少し顔が火照る。
「じゃあ、願ちゃん。武器になってもらえる?」
「わかりました。」
願。さっきから同じようなことしか言ってないな。
そして、願は見慣れた薙刀へと変化した。
そういや、これで願の薙刀の姿はコレで最後になるのか……なんだか、惜しい気がして
くるな。
そして、姉さんは狩人の制服のポケットから針を取り出し、左の人差し指をつく。
「勇輝ぃ~片手剣でいい~?」
俺の得意武器は覚えてるんだな、やるじゃん姉さん。
「あぁ、頼んだ。」
姉さんは、右手で薙刀を持ち上げ、左手の血を薙刀の刃の腹に一本の線を書く。
そして、願は今までに無い輝きを放つ。
しばらく、目を開くことが出来なかった。
そして、やっとのこと目を見開くと眼の前には輝かしい片手剣が姉さんの右手にはあっ
た。
白色の剣の腹に鋭くも綺麗に輝く刃。
剣の腹の中心からは、願の髪色と同じような橙色のラインが引かれている。
柄の部分は、橙色のラインと垂直にラインの色よりも少し深い橙色の柄が横に広がり、
持ちては、橙色と言うよりも茶色がベースの持ち手になっている。
片手剣に変わっても、リーチは少し足りないのが残念だ。
「はい!完成!勇輝ぃ~この借りは、いつか、返してもらうからねえ~!それじゃ!」
おい、聞いてないぞ。
姉さんは、すたすたと帰理の支度をしていた。
「あ、運転はするなよ。あと、交通関係には気をつけろよ。」
「妻の心配?もう!優しんだからぁ~!」
……前言撤回、ひかれとけ。
そして、姉さんは本当に帰っていった。
「さて、願。飯食って、風呂入ってさっさと寝るぞ。」
「………………勇輝くん?」
明らかに、態度のおかしい武器の姿からもとに戻った、願がそこには居た。
「……ねが……い?」
「勇輝くんは、なんでそんな女たらしなの!ヒクッ」
完全に、酔ってやがる。
「もう、勇輝くんはぁー!私以外見たらダメなの!他の女の子とつるむの禁止!」
「何、言ってんだお前は。」
ここからひたすら、訳のわからん会話を聞きながら願の介護をする大変な夜になった。
「もう、勘弁してくれ。」
俺は、なんとか願を寝かしつけ、やることを終わらせ、完全に疲れ果てた体を無理やり
動かし、ベッドに横たわり、すぐさま爆睡した。
カチャカチャ……キィー
鍵を締めたはずのドアが開く。
そして、ドアを開けた犯人は、丁寧に鍵を締め入室する。
疲れ果て、爆睡した俺と、酔って熟睡した願は、ある人物が侵入してきたことに気づけ
なかった。