表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が平和に戻るなら。  作者: 柏木 慶永
10/15

第9話 狩人祭1日目 その1

 俺が、願を幼女と呼ばなくなってからはや一週間がたった。

 この一週間で変わったことといえば、BTの育成が全員終了した(成長期間は動物の年

齢ではなく、人間年齢加算。)という理由と、流石にこの家に5匹飼うには無理があるため、

猫と鳥以外を母さんに預けた。鳥は放し飼いをし、いつでも俺の上に飛んでいてくれてい

る。猫は、癒やし要素として家にいてもらっている。

 あと、重大なことかも知れないが、願がツインテを卒業した。

 本人に、理由を聞くと、どっかの誰かさんに幼女として見られないようにするためらし

い。

 少し背伸びをして大人っぽさをつけようとした、幼女にしか見えないため、以前より幼

さを増したと思うのは黙っている。

 そして、今まさにもう慣れた教室で、毎朝お馴染みのホームルームが始まろうとしてい

た。

「おはよっ!今日も、ホームルーム始めんぞ!今日は、狩人祭について話したいと思う。」

 狩人祭というものは、普通の高校で言う文化祭と体育祭をあわせたようなものだ。

 全学年各クラスで、模擬店を行い5日間でお客さんの好評が一番多かったクラスが優勝

の模擬店の部。ちなみに、売上はクラス内で割り勘。費用は自己負担。ケチだよなこの学

校。

 各クラスから2組の代表が全学年混合対人制トーナメント戦に参加し、優勝した一組が、

日本昨年実績最高の狩人と対人戦。

つまり、昨年度日本最強の狩人と一騎打ち。勝利した暁には、卒業後即戦力の狩人にな

れる。

 そして、日本最強に目に止まった狩人がいたら、その狩人は日本最強と対人戦をする事

ができる。こちらも同様に、勝てば卒業後即戦力になれる。狩人の部。

 俺はこの3年間の中で日本最強に勝つことが目標。というより、必須事項だ。

 聖路との約束を一刻でも早く成し遂げるためには……

「みんな知っての通り、狩人祭まで残り数日だ!このクラスは、どっちも優勝するぞ!」

 狩人祭はゴールデンウィークに行われるため、本当に数日だ……そして確か、一年が模

擬店の部で優勝するのは不可能と言われていたのでは……。

 その理由が一年の模擬店の前に狩人祭1~3日目限定で1つ星料理人が出店をするから

らしい。

 この料理人が他人なら良かったのだが、残念ながら父さんなんだよな。

 これは、俺がこの不可能を可能にしなくてはという使命感が出てくるのは仕方無いと思

う。

「で!言うまでもないが狩人の部はこのクラスの1位と2位の五十嵐&願ペアと佐々木&

芽城ペアで異論はないな!」

 全員、異論はなかった。

 俺は、嬉しいに尽きる。

「で、模擬店の部は全員でやるんだがリーダーが必要だ!これなんだが、このクラスの女

子を差し置き、料理に定評のある五十嵐でいいか?」

 これも、好都合だ。一年でも優勝が狙えることを証明したいから。

 そのうえ、反対もなくリーダーなることができた。

「問題ないことが確認できて、次に食料調達だ。誰か、親が農家とかはないか?あれば、

少しは模擬店に出す商品の経費が削減できるんだが……。」

 すると、刹那が立ち上がり相変わらずの冷静かつ単調な発言を始めた。

「私の親。うなぎを専門の漁しています。今年は余っているくらいです。」

「それは、つまり譲ってもらえるのか?」

 すると、刹那は携帯を取り出し電話を手短に済ませた。

「いいらしいです。むしろ、嬉しそうした。」

 うなぎって、そんな簡単に手に入れれていいのか?

 うなぎ……あっ!

「先生。祖父が田んぼを所持していまして、米を貰えるかもしれません。少し、電話で交

渉してもよろしいでしょうか?」

「米は心強い!頼んだ!」

 すると、俺も刹那同様に携帯を取り出し、祖父に電話をかけ始めた。

「トゥルルル……ガチャッ!もしもし?じいちゃん?ひさしぶり!」

「おぉ!勇輝か!ひさしぶりやな!どうしたんや?」

「えっとな。5月に狩人祭てやつで、模擬店せなあかんねん。やから、お米余ってへん?」

「おぉ!奇跡やな!ちょうど、めちゃくちゃ余っとる米をどないしようか困っててんよ!

勇輝がいるんやったら、やるでぇ。」

「ほんま!ありがとう!ほんじゃ、家に届けてくれへんか?」

「わかった!大事につこうてくれよ。ほな、送っとくわな!じゃな!」

「ありがとう!」

 こうして、携帯を切ると、先生以外は目を大きく開け、俺を見ていた。

 そりゃそうか。俺の祖父が関西にいるなんて、予想できないもんな。

 はっきりいって関西弁に慣れすぎて無意識にも使っていたのだが……そんなに、細かく

は見ないか。

「先生。どうやら、譲ってもらえるそうです。あと、レシピも決まりました。蒲焼きでい

きます。」

「先生も、関西出身だからさっきの方言は懐かしく感じたなぁ……。じゃなくて、蒲焼き

だな!いいと思うぞ!」

「そして、このクラスは女子が多いので、客引きを女子にしてもらいたいと思います。」

 その言葉を聞いた女子の半数以上は安心していた。

 おそらく、料理ができないのだろう。

「そして、佐々木には会計を、芽城にはご飯を装ってもらいます。タレと蒲焼きはおまか

せください。」

 家に帰って特性のタレを作れば蒲焼きはなんとかなるだろう。

 手間がかかるのは模擬店の中の配置だ。

「よし!今日のホームルームですることは終わりだ!今日の授業。というより、今日から

狩人祭当日まで、全員にはゼロとの訓練ではなく対人戦の練習を兼ねて、極稀に狩人の足

を引っ張るらしい、狩人キラー。つまり、狩人に働いてもらっては困る存在の対処の仕方

を学ぶぞ!体育館集合な!」

 こうして、クラス全員は体育館に向かった。

「まずは、五十嵐グループの注意点!お前は、命の使い方が軽すぎる。鳩とは言え、ゼロ

に突進など、死へ行くようなものだぞ!」

 最もだ。俺も最近思っていたが、願の武器の問題上、脳筋が如く刺すしか無いんだよな。

「その上、お前と願の気線がかなりギリギリ合っているが、見ていて不安でしか無い。」

 気線とは、狩人と武器の二人の間にできる意思表現をするために心に現れるの糸のよう

なものだ。

 この気線は、攻撃と防御などの単純な行動を先に相方に伝えれるものだ。逆に、伝えら

れていない場合武器の威力などが致命的に下がる。

 そのことを知らなかった幼き五十嵐少年はなぜ鳩にゼロを討伐させないのかと随時思っ

ていた。この気線がなければ、今頃ゼロが絶滅できていたのだろう。

 ちなみに、気線がわかりにくいと思う人は劣化トランシーバーといえば伝わるらしい。

 実際、薙刀の少女はわかった。

「次に、佐々木グループ!………………」

 その後、各グループの注意点を指摘されてから、先生と対人戦をし始めた。

 最初は、俺と願ペアから先生と対人戦を始めた。

 先生は、舐めているのか木刀を右手に添えている。

 先生自身も知っていると思うが、木刀でBN-R武器の攻撃を防ごうとすると、木刀は攻

撃を防ぐどころか、木刀が折れるか砕けてしまう。

 つまり、先生は防御を捨てても俺達と同等。または、それ以上と言うことになる。

 舐められたものだ。

 先生に言えたことではないが、フザケているのかと言う怒りがこみ上げてくる。

 俺の目が先生への敬いの目が無くなっていった。

「先生。舐められたものですね。例え、先生が怪我をする可能性があっても知りませんよ?」

「まずは、俺に当ててから言え!五十嵐!」

 この大人数の目撃者がいるため、誤殺してもなんとかなるだろう。

「では、対戦お願いします。」

 いくら、俺を舐めかかっている先生でも寸止めで薙刀を突きつければ反省し、舐めるこ

ともやめてくれるのだろう。

 そして、俺は光速が如く先生の顔面をめがけて薙刀を突きつけた。

 なんとか、殺さず先生を無力化出来た。……と、思っていたのだが、先生はしなやかか

つ華麗に薙刀の隣に立ちすんでいた。

 そして、先生は右手の木刀を軽く俺の肩に当てた。

「はい!五十嵐の負け!やっぱり、お前は考えが浅い!仮に、躱されたらその後どうする。

とかの、その行動を取った場合何が起こるかという先読みの制度が劣っている。それさえ

出来れば、日本最強にも勝る可能性だってあるぞ!

 この人は、1週間の間に俺の弱点を見抜き木刀のみではなく木刀と観察眼で俺に勝った

のだ。しかも、挑発に乗り冷静さすら無くなっていた。

 ……これは、情けない。

 その後、他のペアも木刀使いの先生に勝てるものなく今日の授業は終わってしまった。

 帰宅

 そして、俺はここ数日の中で一番の疑問を願に問う。

「願。もう一生その髪型なのか?」

「そりゃ、そうだよ!誰かとはあえて言わないけど、どっかの誰かさんに幼女呼ばわりさ

れたからね!」

 そこを付かれると返答に困るが……余計幼さが増している事はこいつの為思うなら言う

べきか?

「何か言いたそうな顔をしているね。はっきり言えばいいじゃない!」

 ほう、言ったぞ。もう俺は責められる義理はなくなったぞ。

「今の髪型になってから、その……幼さが増した。」

「やっと、指摘してくれた。私は、髪型変えてから今までず~と思ってた。」

 だったら、なぜ変えなかったと言う疑問が浮かんだ。

「じゃあ、なんで戻さなかったの?て思っている顔だね。」

 そして、いつから願はなぜ俺の考えが読める?

「それは、ツインテールとこの髪型以外絶望的に似合わなかったから……勇輝くんはどっ

ちがいいかな?」

 ここで、どっちでもいいorどうでもいいなどと答えると殺されかねないので真面目に考

えよう。

 実際、ツインテの場合感情は読みやすいが、ぴょこぴょこ動くのは授業付近では気が散

る。

 今の髪型。ストレートとか言ったっけ?(髪型の名前は微塵も興味のない系男子)は、

ツインテよりも幼さが増すが気が散らなくて済む。

 この結論からまとめるに、授業中はストレート。それ以外はツインテとかでいいんじゃ

ないか?うん、失礼さ,殺される要素は無いな。

「授業以外ではツインテ。授業中は今の髪型(不安なので濁している)。で、いいんじゃな

いか?」

「それだと、勇輝くんの好みがわからないじゃない。(ボソッ)」

「?なんか言ったか?」

「何でもない。あと使い分けるのが面倒だから常時ツインテね!異論は認めな!」

 うん、そう言うとは薄々感づいていた。

 こうして、願はツインテに戻った。

 狩人祭が始まるまでの残り数日を先読みとリスクを、最重要課題として授業に励んだ。

 そして、狩人祭まであと1日となった。

 今日は、模擬店の準備になっている。

「先生!明日の服について指定は無いのでしょうか?」

 流石に、この制服で5月にうなぎを焼くとなると暑さとの戦いになる。

「あぁ。指定は一切ないぞ。なんせ数年前にコスプレ喫茶チックなものをしていたクラス

がいたからな。」

 なら、父さんが誕生日にくれたエプロン……というよりも店の制服使うか。

 親子対決!とかで盛り上がる。つまり、売上につながるだろう。

 しかもエプロンなぜか3年連続でもらったからちょうど、佐々木と芽城にも着せれて統

一感がでるだろう。

 そんなことを考えている間に模擬店の準備が全て整った。

 そして、俺達は解散し学校をあとにした。

「ただいま。」

 この家に帰ってくるのも1週間ぶりか。

「あら勇輝。おかえりなさい。なに?もう振られて帰ってきたの?かわいそうに。」

 頼むから何もかもを恋愛に回すのをやめてくれ。というか、やめてください。

「あ、うん。父さんに貰ったエプロンを取りに来た。」

「あぁ、なんだ。そんなこと。」

 そして、なぜに安心しているんだ母親よ。

「母さんも明日行くかも!久々に勇輝のご飯食べたいし!」

 ぼったくろう!と、考えが出る自分が恐ろしいと思った。

「勝手にしなよ。」

 まあ、どうでもいいや。母さんは、人前では迷惑をかけるタイプでは、無いから。

 俺は、さっさと自分の部屋に向いエプロンを3枚押入れから取り出した。

「じゃあ、また明日?な」

「うん、勇輝の料理楽しみにしている。」

 期待されるのは、悪い気分ではない。うん。

 家を出ると、待ってもらっていたため当然なんだが願がいた。

「なんか、お母様の中では勇輝くん振られたことになっていたね。」

 願は、幸せそうだった。

 普段、いじっている相手が逆にいじられていたからだろう。

「あぁ、そうだな。でも、ロリコン扱いになる可能性がなくなると考えると振られる?こ

とも、メリットになるな。」

「幼女の次はロリなの!もう、勇輝くんには女の子を大切にする心がほしいよ。」

「(そういや、願は女だったな。と、今思ったことは、黙っておこう。)」

 そういや、父さんと合うのも誕生日以来だな。

 また、俺の料理を褒めてくれるかな。

 そんなことを、思いながら前日を過ごした。

 狩人祭1日目

 

 早速、俺達は対人制トーナメント戦が行われる場所。つまり、学校の入口からみて一番

奥にあるドーム状の建物に集合された。

 初めて入ったが……いや、試験のときに一度入ってたわ。ざっと1万人は座れそうな観

客席の数。フィールドも広いのだが、上から見ると小さく見えなくもない。

 今から開会式があるらしい。

 来客者や保護者、そして現役狩人も、そこそこ会場に集まっている。

 ただ、俺は少し解せない気持ちと不安な気持ちになっていた。

 思い返せばわかることだが、入学式のない学校行事の適当な学校だ。

 校長も、相当適当な人なのだろう。そして、狩人主も。そんな人間たちが、開会式で保

護者などがいるなか、まともに発言できるだろうか?いや、出来ないだろう。

[豆知識5]

 狩人主について。

 狩人主とは、一般的な学校で言う生徒会長のようなもの。

 なる条件は、狩人高校の序列5位以内であること。そして、学校の見本になれるような

優等生であること。

 そして、3年生であること。

 要は、かなりの実力者。

 ちなみに、狩人主の武器。つまり、パートナーは武器主と呼ばれる。こちらの条件は無

い。

 しかも、学校の作業もすることはない。

 要は、称号だけ。というのが、結論だ。

「只今より、狩人祭の開会式を始めます。はじめに校長先生のあいさつです。」

 すると、校長先生らしい人物がフィールドの中心にマイクを片手に現れた。

 年齢は40前半ぐらいであろう見た目だけであろうが真面目な男が出てきた。

 そして、深く一礼をし、話し始めた。

「はじめに、新入生の保護者様に深々と謝罪申し上げます。皆さんご存知の通り、狩人は

元人間を他界させる仕事です。そんな、仕事を職とする生徒を育てる学校に祝い行事があ

っていいのでしょうか?つまり、狩人高校で入学式を執り行うということは人を他界させ

る職への第一歩を祝うことと同じになると考えたため、毎度この高校では入学式がないの

です。ご理解の方よろしくお願いいたします。」

 すると、会場中に拍手が起こった。

 俺は、この言葉を聞いた瞬間納得してしまった。

 そして、決して適当な学校ではない。むしろ、律儀なのだ。

 俺は、校長先生様(敬)の言葉と考えに感激した。

 拍手が治まると同時に、校長先生様は話を続けた。

「次に、開会宣言に移る。生徒諸君は模擬店、そして、代表者達は対人戦も全力で取り組

みなさい。綺麗事を言うのはあまり好きではないのですが、これは事実なので言わせても

らう。努力は必ず報われます。努力は裏切りません、報われないのは君たちが努力から逃

げているのです。その言葉を胸に狩人祭を過ごしなさい。そして、何より18年という短

い伝統ですが楽しみなさい。今年は、昨年最強狩人に勝利できる可能性がある生徒がいる

と耳にしました。期待しています。 保護者さま含め来客者様。生徒たちが試行錯誤を重

ねた模擬店。そして、数々の軌跡がある対人制トーナメント戦をお楽しみください。これ

を持ちまして私の挨拶とさせていただきます。」

 再び、大きな拍手が会場に響いた。

 そして、校長先生は会場の隅によった。

「続いて、狩人主による選手宣誓です。」

 すると、先程素晴らしい挨拶をした校長先生と、強さのオーラがある神々しい銀髪で肌

が遠くからでもわかるくらい白い女性がマイクスタンドとマイクを持ち現れた。

「宣誓!私達、生徒一同は。狩人の部では日々の努力,経験のすべてを最大限に発揮し、

狩人祭の伝統に恥じぬような正々堂々とした勝負をし、模擬店の部では、仲間との協力を

大切にすることを。誓います! 心星32年4月30日 生徒代表 カラトス・(ひびき)

 カラトスといえば、響さんの母に当たる方が、わずか2ヶ月で人工知能を10年は進化

させた人じゃないか。

 ……つまり、敬うべき先輩というわけだな。というより、敬わなければ社会的に死ぬ。

「これをもちまして、開会式を終了致します。生徒の皆さんは各自準備を行ってください。」

 俺達は、午後から狩人の部に少し顔を出さなくてはならないため午前中に客を安定させ

なくてはならない。

 今の発言でわかったと思われるが、相手は強いのは強いのだが一撃一撃が遅いらしい。

そんな人間がなぜ代表なのかというと、攻撃範囲が広く回避不可能らしい。つまり、攻撃

させる前に叩けば勝ちということになる。

 しかも、速さなら定評どころか奇跡ではあったが新記録を叩き出した俺だ。

 つまり、なんだ……相性が有利すぎた。

 そして、2年の先輩には少し申し訳ない。

 本来、各学年3組あるはずなのだが今年は人数上2組しか無い。そのため、3年と当た

るのは先輩の中では1組だけですんだのだが今回は2組当たってしまう。それだけなら良

かったのだが、その内、一組の先輩はいきなり響先輩が相手なのだ。……申し訳ない。

 1年1組は、模擬店の開店準備を整え指定の開店時間まで残り5分となった。

 とりあえず、制服……じゃなくてエプロンに着替えてきた。

 どうでもいいかもしれないが、紺色がメインのエプロンなので和食に馴染む服で良かっ

た。

 それと、謎に思うことは、誕生日にもらったエプロンのはずなのに3人共サイズがピッ

タリであることである。

 まあ、ここまでサイズの概念をすっかり忘れていた俺も俺か。

 長谷川先生は、模擬店の最終確認をするためにやってきた。

「五十嵐たち!なかなか様になっているじゃないか!なんか、わくわくしてきたぞ!まあ、

模擬店は楽しむことが第一だからな!楽しもうぜ!」

「「「はい!」」」

 一同の団結力?が上がった所で、父さんに挨拶しに行こう。

 といっても、すぐ目の前にいるんだよな……。

「父さん、久しぶり。」

「あぁ、勇輝か。久しぶりだな。今日は、お前の成長が直に見れるのが楽しみだ。まあ、

お互いに狩人祭を大いに楽しもう。」

 周りの人から見れば、親子の会話にしてはぎこちないように見えるかもしれないが、父

さんと俺の仲では十分の会話だ。

「只今より、狩人祭を始めます。生徒の皆さんは模擬店を開始してください。」

 さて、蒲焼きを作ろうか。

 炭火の蒲焼きに合うようにタレを調合してきた。といっても、焼いているときに匂いが

拡散し、味に絶妙な甘辛さ、僅かにとろみを付けたため味が舌に馴染みやすくしておいて

いるだけなんだがな。

 結構すごく聞こえるかも知れないが、一流シェフを目の前ではこんなものただの小細工

でしか無いだろう。

 あとは、気持ちを乗せるだけだ。

 普通の人。と、言うよりも全員が思うだろう、気持ちで何が変わるのかと。

 これには、根拠がある。

 俺が、父さんの料理よりも数回母さんの料理のほうが美味しいと思ったことだ。

 母さんは、お世辞でも『美味しい』という料理を作ることが出来ない。

 火を使えば焦げるし、湯を使えば芯まで煮詰めれてないし、蒸す料理を作れば硬いかベ

チャベチャだし、分量は計算できないし、はっきりいてセンスが致命的だ。

 けれども、俺が病気にかかったときは数時間かけてお粥を出してくれる。味で言えば美

味しくないかもしれない。けれども、熱以外の暖かさが俺の身を、心を温めてくれた。

 この経験から、気持ちは大切だと思った。

 だから、今。俺が込めるべき気持ちはお客さんへの感謝の前払いと、美味しいと思って

くれる気持ち、蒲焼きの美味しさへの期待に応える気持ち。ただそれだけだ。

 不安といえば、時間の問題上数回焼きが出来ないのが気がかりだが、なんとかするしか

ない。

 

 気持ちを込め、やっと数十人分を焼き上がった。

 いつの間にか、何人かのお客さんが並んで楽しみに待ってくれていた。

 その後ろに並んでいる行列には決して敵いはしないが、それでいい。

 俺が、今日することはお客さんの好評を安定させることだ。

 極端に不味い料理と、美味しい料理の噂は流れやすいし広がりやすい。つまり、この数

人のお客さんの中で誰か一人でも美味しいと噂を流してくれたら、今日の目標は達成する

のだ。

 簡単に、言っているのだがコレが難しいから、潰れてしまう店が社会にあるのだろう。

 しかし、チャンスは日本で正式で店を出して好評を貰える確率よりも明らかに高いだろ

う。まず、俺達は高校生だ。その上、ネットの書き込みで俺が五十嵐 一歩(はじめ)。すなわち、

一星シェフの息子であることが書き込みで書かれていたため、模擬店マニア?の人たち,

食事に関するブロガーは来るだろう。

 おっと、煩悩退散。

 今は、料理に集中しよう。

「おにいちゃん!美味しかった!ありがと!」

 一番最初に並んでくれていた、親子の子が食べ終わったらしく報告をしに来てくれた。

「おう!ありがとうな!兄ちゃん嬉しいわ!また来てな!」

「うん!今度はパパとかと来るね!」

 相手が、喜んでいるのがわかる時。そして、喜んでいる理由が自分の料理。コレだから、

料理はやめられないんだよな。

「五十嵐。ちょっと、コレを見てくれ。」

 本気で、模擬店の部で役割分担をする時に忘れていた嶺岸には情報関係を担当してもら

っている。

 本人曰く、影が薄いと言われるのは慣れているらしい。いや、本当にでかい図体なのに

影が薄いのは一つの才能だと思う。うん。

 差し出してきたのは、デカデカと星5と書かれている一つのブログページと本校模擬店

の部のためのサイトだ。察するに好評がもう貰えたのだろう。

「おしゃっ!一気に上げるぞ!」

「「おう!」」

 俺は、時間短縮プラス匂い巻きのために団扇を用意し仰ぎ始めた。

 そして、匂いにつられたお客さんのために次々と蒲焼きを作る。

 味見をしたが、刹那が用意したうなぎは文句が付けられないほど美味だった。

 こんなに、脂乗りの良いうなぎを無料でくれた刹那家には驚きしか無い。

 ただ、少し傷がいっているものや小さい又は大きすぎる訳ありらしいが安全と美味しさ

が保証されている。

 訳ありも捨てたものじゃないと思う。

 まあ、自分で捌いてくれとは驚いた。俺は、うなぎなんて捌いたことがなかったが、流

石うなぎ屋?の娘。手慣れた手つきとブレない喋り方で教えてくれた。

 気づけば、俺から見て奥に見える行列の半分はある行列が、こちらにも並んでいた。

 すると、次々に好評の声が雨の如く降り注いでくる。

 俺の中には、喜びと今からも頑張ろうという気持ちでいっぱいになった。

「ふむ。流石、一歩さんの息子。と、言うところでしょうか。なかなか、好評ですね。私

も一つ頂こうかしら。」

「毎度!500円になりま……」

 ん?佐々木はレジ打ちとして完璧だった。噛んだ訳ではないだろう。となると、問題は

お客さんか。一体誰が来たんだ?

 顔を上げて、お客さんを見るとそこには見慣れた制服と、ショートカットの銀髪。肌の

きめ細かさは、素晴らしいという言葉では表現しにくいまるで、洋風人形のような姿がそ

こにはあった。

 俺は、遠くではあったが数時間前に見た覚えがある。と、言うよりもこんな特徴的な人

を忘れれるわけがない。

「響先輩!じゃないっすか!少しお待ち下さいっす!」

 佐々木、お前は誰なんだ……。

「ところで、その五十嵐 勇輝は、誰かしら?」

「はい。自分が、五十嵐です。今は、大変申し訳無いですが顔を挙げれません。ご了承く

ださい。」

 うなぎを、あろうことか焦がしてしまうなんて絶対にしたくない。

「構いません。お客様のために、集中することは料理人としては評価します。あなたが、

俊敏型のゼロ鳩本校最速討伐者ですか。その、目的に集中する性格から納得です。」

「ありがたいお言葉、感謝いたします。」

「五十嵐 勇輝。次は、ゆっくり話せることを楽しみにしています。それでは、私はここ

で。」

「ありがとうございました!またのご来店心待ちにしてるっす!」

 すると、響先輩は笑顔で手を振り、立ち去った。

「佐々木。どんなお客さんでも動じるな。差別と思われては堪ったものではない。」

「すまんすまん。でも、お前は本当に動じないんだな。」

「まあな。」

そりゃ、家でお金持ちの娘にタメ口どころかボロカスにいってるからな……。

「午前の部はもうそろそろ終わる。スパートかけるぞ!」

「「おう!」」

 芽城も、ひたすらご飯をついでくれているがほぼ同じ量なのはロボも顔負けな気がする、

几帳面って、いたるところで活躍するなと思った。

「午前の部は終了となります。生徒の皆さんはお昼休憩をとっても構いません。」

「休憩だー!てか、五十嵐。お前本当に、焼き加減天才かよ!何回かよだれ出てきかけた

ぞ!」

「まあ、何回か練習したからな。」

「練習するだけで、できるのがすごいんだ!」

「とりあえず、昼休憩だ。午後の部、少し頼むぞ。御剣(みつるぎ)。」

 御剣は、嶺岸のパートナーだ。嶺岸と、同じく影が薄い。あと、料理がそこそこ出来る。

「ああ、任せてくれ。五十嵐、その制服は着ないといけないのか?」

「すぐ戻るし効率のために持ってく。じゃな!」

 そして、午後の部の確認を取ってから制服に着替えて俺は教室に戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ