表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一色

気がつけば12時まわっていたんですね……。

気を取り直して、本日?二本目!

それは、入学式から約1ヶ月後。日曜日。


僕は、あの日以来、彼女のことを忘れようとして図書室に近付かず、平凡な毎日を過ごしていた。


そんな僕は、今、その図書室を目指して歩いている。

決して、彼女が気になったわけではない。ある人と図書室で待ち合わせをしているからだ。


日曜日なのにも関わらず、学校には、様々な音が響きわたる。部活動だ。

僕がゆっくりと、下駄箱までの道を歩いていると、外から金属音や掛け声が、校舎からは楽器の音が、楽しそうに、弾けるように僕の耳に届く。

「部活か……。」


正直羨ましかった。なぜなら、僕が部活に入っていないから。

もともとは部活に入ろうと思ってた。でも、ある事件のせいで僕は部活に入れなくなってしまった。

図書室がある棟につづく渡り廊下を歩く。

事件は、仕方がなかったと思っているし、部活になにがなんでも入りたかったわけではない。でも、僕は中学三年間野球をやって来たので少々未練があったりする。


図書室の前につく。

ドアにてをかけた途端にあの日の記憶よみがえる。開けるのをためらい、慌てて手を放す。


「本当にチキンだな、僕は」

ため息をつく。そして、もう一度ドアにてをかける。

心拍数があがっていく。

よく、考えるんだ、僕。彼女が中にいるとは限らないじゃないか。そうだ、きっと先輩はいない。もしかしたら僕を覚えていないかも知れない。

僕は、ゆっくりドアを開けた。

そして、中を見回すとある一点で目が止まる。


中には、"彼女がいた"。


彼女はあの日と同じ場所に座っていて、僕が入ってきたのなんか気にしていないように、読書をしている。

その姿があまりにも様になっていて、まるで、一枚の絵を見ているかのようだ。

僕は、先輩を黙って見ていた。

じっと。


罪悪感がわいてきた。

何であの時逃げたんだろう。あの時逃げなければ……。


「おい、俊璃」


名前を呼ばれてとっさに声のした方向を向く。

そこに彼は座っていた。

「ああ…」

思い出す。僕は、彼と会うためにここに来たんだった。

僕は、彼、藤枝悠樹のもとへ向かう。


その時、一瞬だけ、彼女を見る。

先輩はやはり、こちらなど気にせずに本に目を向けている。

藤枝から机一つ挟んだ正面の椅子に腰を下ろす。

「………」

「………」


お互い何も話さない。悠樹とはいつもそうだ。話したとしても会話がつながらない。

悠樹と初めて会ったのは入学式の1週間前、僕が親の知り合いのアパートに一人暮らしのため引っ越した時、たまたま、隣の部屋に同じように一人暮らしを始めようとしていた人物が悠樹だった。


それからちょくちょく会うようになり、今では数少ない友達である。


悠樹は、端正な顔立ちで、美形。祖父がロシア人らしく、色素の薄い不思議な色の茶髪と180cmを越える身長が特徴的で、165cmの僕から見ると相手の身長が高過ぎて首が痛い。

ちなみに僕が、悠樹に会いにきた理由は期末テストに向けて一緒に勉強をするためだ。


僕が鞄から勉強道具を取り出していると、

「なぁ」

悠樹が話しかけてきた。

「ん?」

珍しいこともあるもんだなと思い、悠樹に顔を向ける。

「さっき、あの人のこと見てたろ?」

先輩を差しながら言った。


「あ、ああ、まぁ、見てた」

なぜそんなことを聞くのだろうか。

僕がそう聞き返す。

「俊璃が他人に興味を持つなんて珍しいと思ってな」

「そっか」

「……」

「……」


それから、会話が途切れる。

静かな図書室には僕と悠樹と先輩、あとは何個かのグループが僕らと同じように勉強している。そんな中、一人本を読んでいる彼女は異質だった。


勉強を初めてから3時間弱、僕達は帰ることにした。

道具を片付けて図書室を出ようとした時、1ヶ月前の光景がフラッシュバックした。


とっさに、彼女を見る。


そして、今更ながらに気づいた。制服のブレザーについている校章の色が黄色なことに。

この水泉高校では学年によって校章の色が違う。1年生は赤、2年生は黄、3年生は青だ。

つまり、彼女は先輩だったわけだ。


「どうかしたか」

「いや、何でもない」

誤魔化して歩き出す。

結局彼女、いや先輩とは何もなかったな。


「一つ聞いていいか」

「何?」

悠樹が聞いてくる。


「もしかして、さっきの図書室の人が好きなのか?」


僕は、混乱した。悠樹がそんなことを聞くのもそうだが、何より、好きか?と問われて否定出来ない自分がいたからだ。


「わかんない」

正直に答える。

「そっか」

いつもなら会話がここで途切れるが、今日はそうじゃなかった。


「あの……さ」


僕が切り出す。

「何?」

「明日も図書室で勉強しないか?」

好きなのかもしれないと思うといてもたってもいられなくなり、もう一度、先輩を見たくなった。


悠樹は、軽く頷き、

「わかった」

とだけ言った。


僕は、驚く。


てっきり、理由を聞かれるかと思っていたから。ちょっとだけ嬉しかった。

道路を通る車の音だけが聞こえる。


あとはいつも通り。


駅でも電車でも、特に話すことなく僕達は、アパートにたどり着いた。

ありがとうございました。

何かあればご指摘下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ