姉と妹Ⅲ
私は彼女の隣に座った。
「美幸、ありがとう。それに全部背負わされたわけじゃないよ。入院する前はずっと自分だけが被害者だと思ってた。それが私の間違いだったの。あなたにも、私にも悪いところがあったんだよ」
彼女は驚きに満ちた目で私を見つめた。
「姉さん」
再び妹の目に、涙が溜まり始める。
「いつも心の余裕がなくて、帰ればすぐ自分の部屋に閉じこもって勉強ばかりしていたよね、私。美幸からは努力に見えていたかもしれないけれど、正直その方が楽だったんだよ」
「でも閉じ込めてしまったのは、私たち家族のせいだと思う」
彼女の言葉を受けとめる。彼女と過去について話せば、もっと気持ちが乱れると思っていたが私の胸の中は静かだった。美幸も心の底に長い間重い荷物を抱えていたのだと。彼女が心のうちをさらけ出してくれたことに感謝し、初めて距離が縮まったと思う。
「美幸が思うなら、家族のせいだったのかもしれない。でも私は仮定の理由を探しても仕方ないと思う」
慰めるつもりではなく、彼女に自分の考えをただ伝えた。
「姉さんは、凄く変わったんだね。家にいた頃は、姉さんの表情がどんどん暗く尖っていって、疎遠になってしまった。もう引き返せないと思ってた」
「そう。実際みんなを恨んでいたからね。ただ全部他人のせいにして逃げていたって、幸せにはなれないと気付いたの」
他人を憎んで恨んでいた私は、あの辛かった日々を距離を置いてみることが出来るようになったようだ。
「姉さん、私お父さんが怖かったんじゃなく、本当は自分の心と向き合うことが恐ろしかったんだね」
美幸は深く息を吐いた。
「私も憎しみに支配されていただけで、美幸と変わらない」
彼女と自分に向けて言った。
「姉さんも?」
「うん、そうだよ。この病院で色々な人と出会って、いっぱい失敗をして、助けてもらって少しだけ変われたの」
「……。なんか羨ましい。人付き合いだけは私の方が器用でイケてるって思っていんだけど、負けちゃったかな」
美幸がいつもの調子を取り戻す。
「それは違うよ。美幸は人の心の機微を読むことが上手だし、髪を結うのも巧いし服のセンスも私よりずっとイケてるよ。あなたにはいいところがたくさんあるんだよ。忘れないでね」
私が美幸を嫌いだったのは、どこかで彼女を妬ましく思う気持ちがあったからだと思う。
「ありがとう。幸姉さんが私と面会してくれて本当に良かった。あのね、横をしばらく向いていてくれる?」
そう言うと、彼女は後ろ髪を纏めていたバレッタを外して私の髪を結いだした。私は髪を結ってもらうことがほとんどないので、緊張して背筋が自然に伸びていた。バックから、櫛を取り出し丁寧に髪を梳かす彼女の真剣な顔が見える。なんだか髪を触られるとくすぐったい。
結い終わると、美幸が手鏡を差し出して仕上がりを見せてくれた。長くない私の髪にとてもきれいな編み目が出来ている。そして美幸のバレッタがそこに留まっていた。
「いいの? あなたが気に入っていたものじゃないの?」
「幸姉さんにあげる」
彼女からプレゼントをもらうなんて思いもしなかった。
「ありがとう」
「姉さん、私も頑張ってみる。お父さんとどう向き合っていくのか、自分のしたいことも真剣に考えて努力ってものをしてみる」
「一人で頑張らないで。不安なときは、こっちに連絡して」
私は美幸に連絡先を渡した。彼女は丁寧にたたんでパスケースに入れると、
「姉さんも頑張って。応援してるから」
そう言うと妹は笑って帰っていった。




