優しい言葉と厳しい言葉
「小野田さん、ウエイトレスの動作が板についてきましたね」
平田先生に褒められた。先生は自分のことのように嬉しそうだった。デイケアでの喫茶活動も折り返し地点を過ぎ、佳境に入ったと感じる。緊張していたウエイトレスの仕事も失敗が少なくなり、気持ちの切り替えがスムーズになったと思う。
千里ちゃんと休憩時間におしゃべりをする。
「近頃いい感じだね。固さがとれて表情が柔らかくなったよ」
「そうかな? 自分ではそんなに変わってないと思うんだけど」
「案外気付かないかもしれないね。自分から挨拶するようになったし、いろんなメンバーさんと楽しそうに話すようになったもん」
「そういえば、確かにデイケアに来るのが楽しくなった気がする」
いつの間にかここは大切な場所になっていた。
「よかったよ。幸ちゃんのこと大好きだから」
「千里ちゃん、ありがとう。言葉が胸に沁みるよ」
泣きまねをしながら笑った。
「デイケアもそろそろ卒業かな? 幸ちゃんと会う機会が減るのは淋しい。友達が成長したのに遠くなった気がするなんて、私もまだまだね」
「ううん、淋しいって言ってくれてありがとう。それに千里ちゃんに成長したって認めてもらえたのが何より嬉しい」
「相変わらず、幸ちゃんって真っ直ぐなんだから。私も自宅近くの作業所へ通っているけれど、拘束時間も長くなるしきついと思うよ。けどね君なら大丈夫、自信を持ってほしいな」
千里ちゃんは私に言い聞かせた。思えば、年が近い同性の友だちは彼女が初めてだった。
色々振り返るとまた泣いてしまいそうだ。
「もうそんなに心配しないでいいよ。褒め過ぎだし、私頑張るから大丈夫」
にかっと歯を見せた。ここに来てから、涙もろくなったなと感じる。それはきっと警戒心がとけているからなんだろう。
少し昔に戻ったとして、今の私ならあの窮屈だった教室でも息が出来たのだろうか? 考えても仕方ないのに、これは未練なんだと思う。
「ぼーっとして、幸ちゃんどうしたの? なんか辛いことでも思い出したの」
私を案じてくれる親友がそこにいた。
「平田先生、以前ラベリングの話をしたことを覚えていますか? あの頃自分も障がいを持っているのに、どこかでメンバーさんのことを同じ世界の住人だと思えていなかったんですよ。そのうえ、健常者に対しても上から目線でした。失敗したり挑戦しなかったら、私はずっと頭でっかちの気位だけ高い奴だったんだと思うんです。自分に何が足りなかったのか少しだけわかった気がします。デイケアに通って良かったです」
「そうですね。実社会に出れば優しさや正しさだけでは生きていけないからこそ、私も、小野田さんが今ここで気付けてよかったと思いますよ」
「難しいですね」
私は呟いた。
「難しいです。ですが、小野田さんが気付いたことは尊いことです。ずっと真っ直ぐではいられないかもしれないけれど、心の中は自由ですから」
「忘れないようにしたいです」
「そう、僕らはサポートしか出来ません。答えを見つけるのは患者さん各々なんです」
平田先生の言葉は、厳しいけれど広い世界を知っているからだと感じた。




