家族の風景Ⅳ
デイケアで失敗をしたり新しいことを身に付けるたびに思う。私はなんて世間知らずで未熟なんだと。
缶詰ひとつ開けられなくても、実家で困った経験がなかった。母がいつも家族が困らないよう、先回りして世話をしてくれたからだ。私はそれを当たり前だと思っていた。彼女を手伝うことも、助けようともしなかった。都合が悪くなれば、いつも部屋に閉じこもり逃げていた。
母は自分を父から守ってくれなかったと思い込んでいたが、彼女にそんな力は残されていなかった。少し考えれば気付けたはずなのに……。わざと心を麻痺させ甘えていた愚かさに辟易する。
私は、母をどれだけ傷付けてきたのだろう。オーバードーズを繰り返し、リストカットをする娘をどう思っていたのか?
病院で様々な人に会うまで、自傷行為に罪悪感を抱くことさえなかった。未熟な私でもこの世から消えれば、悲しむ人がいるのだ。失えないものに気づき、自分を、他人を大切に思えるようになった。
恨んで憎んでいた家族に対し、新たな感情も生まれた。ずっと私を虐げてきた父。彼と似ている私。でも今は違うところがあるのも知っている。
彼との関わりは辛いことばかりで、思い出さないようにしてきた。それが唯一の自分を守る方法だと信じていた。
未だに、父のことを考えると嫌悪感と悲しみが溢れる。私が目障りで憎いだけなのか? 考える時点で歪んだ形でも彼の愛情を求めているのだろう。事実としてようやく認められるようになった。父が家族を飢えさせず金銭的な苦労をかけなかったのも、また事実だ。
彼についてどう対処していくのが正解なのかわからない。これだけこじれてしまった関係が解けるとは思えない。絶望的だとも感じている。だが、何もせずに諦めたくない。
妹の美幸が苦手だった。自分よりもずっとコミュニケーション能力が高く、あの父とさえうまくやっていたからだ。私は彼女に嫉妬していたのかもしれない。自分より優れた能力を持っているから、許せなくて妬ましかったのだ。
あらためて一人の病室で、考えを巡らせていた。自分は傷付けられてばっかりだと思っていたが、同じくらい、それ以上に人を傷付けてきたのだ。
私は弱い。その殻を破るには諦めずに辛くとも家族との歴史を振り返らなければならない。ベッドサイドの窓を開けて、北極星を探す。夜の冷気が頬を冷やした。




