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先生と私  作者: 綿花音和
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課題Ⅰ

 いつも通り狭いキッチンでの作業。 

「幸ちゃん、ずいぶん白玉作りうまくなったね」

「そうかな。千里ちゃんに褒められると嬉しい」

 もう通うのにも慣れたデイケア。喫茶『アムール』での活動も楽しくなり、お客さんに美味しいものを食べさせたいと思うようになった。千里ちゃんとの付き合いも、いい意味で気兼ねがなくなっていった。

 今では、彼女は友達であり私の師匠だ。   

「最初はあずきの缶を開けるのにも苦労してたのに、成長したよ」

「ほんと缶切りの使い方も知らなかったし、ほとんど役に立たない私に、千里ちゃんよく付き合ってくれたね」

「幸ちゃん、不器用だけど素直な人だから。私が厳しく指摘するとショックを受けて落ち込んだようすだったけど、嫌な顔をしなかったし」 

 デイケアに参加し始めた頃か。

「世間知らずで当たり前のこともわからなくて。みんなに迷惑をかけてたよね。落ち込んだりもした。それでも続けてこられたのは、千里ちゃんが間違っていたら、そのたびに教えてくれたおかげ」

「相棒ができたのが嬉しくて、つい言い過ぎたこともあったから、嫌われるだろうなって。それがいつのまにか友達になれて嬉しい」

 照れたようすの彼女をみて、デイケアを続けてよかったと思った。


******

 それから数回のデイケアの喫茶作業ののち、平田先生から役割を変わるように指示があった。

「小野田さん、次回からウエイトレスをしてみましょう」

 狭い台所で千里ちゃんとする料理が好きだったし、接客なんて頭になかった。

「無理です」

 たしかに、いくらかの自信はついた。それはあくまで、ぜんざい作りにだ。

「全く無理ではないと思いますよ。小野田さんのデイケアでの作業を見てきましたが、失敗をしながら、前に進めています。新しいことに挑戦する、自分に負荷をかけることは怖いし不安でしょう。嫌なのも理解できます。けれど自立に向かうには必要な工程です」 

 再び首を横に振る。近ごろでこそ、馴染みのメンバーさんとの会話は楽になったが、基本は臆病なままだ。

「ウエイトレスの練習に挑戦してみましょう。その機会は貴重です。あなたが自立に向かうには、デイケアに通所できる間に段階を踏んで、嫌なことも乗り越えていかなければ」

 先生の言葉が胸に刺さる。病棟での訓練に耐えられないのに退院して一人暮らしなどできるわけない。わかっているのに、うなずけなかった。


 

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