願い
鳥居をくぐり、石畳の参道を二人並んで歩いていく。境内には、三が日が終わっていたからか他に参拝者はいなかった。小さな神社だったが、静謐な空気が漂っていた。対照的に、手から伝わる健一さんのぬくもりがいっそう意識された。
「一緒に来れて嬉しい」
「同じ気持ちです。一緒にいるだけで、こんなに幸せな気分になれるんですね」
顔が熱い。慣れないデートというものに動揺はしていたが、胸の奥から湧き上がる強い喜びがあった。
「メールのやりとりはたくさんしてきたけれど、君に会うまで、不安だった」
「健一さんが不安? どうしてですか」
「幸ちゃんにも新しい出会いがあるだろうし、もしかしたら僕を遠くに感じることもあったんじゃないかって」
「淋しいときはありましたが、メールのやりとりのおかげで、今まで頑張れたんですよ」
彼が私を大切に、どれだけ想っていてくれたのか鈍い自分にもやっと理解できた。それ以上言葉を紡がず、ただ彼の手をより強く握りしめた。
手水舎で、柄杓で手と口を洗い、狛犬の横を通り過ぎ、本殿に辿り着く。賽銭を投げる。そして健一さんに目配せをする。二人で鈴緒を持った。
『ガランガラン』と鈴が鳴る。
『今年も健一さんとお互いを思い合えますように。色々な人に出会わせてくださって心から感謝しています』
一心に祈る。
「幸ちゃんは、なにをお願いしたの?」
「去年はたくさんの人たちに会えたからそのお礼です。あとは秘密です」
「僕は、いつも隣に幸ちゃんがいますようにって祈った」
「そんなことを打ち明けるなんて狡いです。泣きそうです」
声が震える。それは、寒さだけのせいではない。二人の願いが同じだったことが信じられなかったからだ。
「君は正直だな」
声の調子は珍しくぶっきらぼうだったが、丸眼鏡の奥の目が糸目になるくらい細くなっていた。
「貴方の前だと素直になれるんです」
頬をふくらませる。こんなたわいないやりとりを、ずっとしたかった。二人を隔てていた距離が縮まっていく。
自販機で買ったカフェオレを飲みながら、並んで一息ついた。冷えた体が温まっていく。ほんのちょっと彼の肩にもたれてみた。自分がこんなふうに人に甘えられるとは知らなかった。彼の顔を見上げると、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。こんなことでは動揺もしないんだと、少し悔しかった。でも、そういうところが好ましかった。
「お参りは終わったけれど、幸ちゃんはどこかまわりたいところがあるかい?」
「おみくじを引きたいです」
「行こう」
腕を組んで横の健一さんを、ぼーっと見つめていると、彼も私に視線を合わせて口を閉じてしまった。恥ずかしくなり、速足でおみくじ売り場まで彼の手を引いて行き、到着すると、私は笑いだしていた。健一さんは困ったなという顔をしながら、
「君が楽しいと、僕も楽しい」
胸が高鳴る。二人タイミングを合わせて、おみくじを開けた。
「よし、大吉だ」
「私は小吉でした」
落胆したようすの私に、彼は内容を覗き込む。
「努力すれば、運気は上がり実りもあるか。いいと思うよ、これからだよ」
「自分の頑張り次第という感じですね」
「幸ちゃんは、努力家だからきっと神さまも味方してくれるよ」
「健一さんはどうだったのですか?」
「教えない」
と笑った。
「私の内容だけ知っているのは狡いです」
「僕には、もう待ち人が現れたから。おみくじの内容はその人を守るための指針かな」
「待ち人って誰ですか?」
彼は、私の質問に答えず、そっとひたいに口づけを落とした。静けさに耐えられず視線を下に落とすと、夕焼けに二人のかげが伸びていた。
「僕らを見守ってくれている神さまはいると思うんだ」
そう言う健一さんの顔を美しいと思った。




