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先生と私  作者: 綿花音和
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お姉さんたちの名前Ⅱ

 お姉さんたちの棚に置かれたものが荷造りされていく。見ていると、いよいよ別れが近付いていると思わされる。彼女らの退院を喜ぶべきなのに、私は淋しく、不安に負けそうだった。

 

 ウッピーという名前をくれて、慣れない病院生活に疲れていたとき、健一さんが退院したとき。つらいときに、いつだって見守ってくれた。長谷川先生や水上さんの支えはもちろん頼りにしていたが、彼女たちがいなければ、入院生活はずっと苦しいものだったはずだ。私を励ましてくれ、笑わせてくれれ、認めてくれた。お姉さんたちと語らううちに、こわばっていた心が息をしだしたんだと思う。入院中の出来事と、彼女らがくれた言葉たちが鮮やかに蘇る。間仕切りのカーテンの中で声を殺して泣いた。残り数日になってしまった、彼女たちとの残りのときに、病棟にいられて心底よかったと思った。心遠い家族より、病室で共に過ごしてきた他人の方が大切だった。

 

 本来病棟の消灯時間は二十一時だった。だが、大晦日は特別で、紅白歌合戦も終わりまで観られるように二十四時に延長だった。

 私たちは歌合戦はみずに、病棟で初めてガールズトークというものをした。

「ねぇ、ウッピーは三ヶ田さんのどこが一番好きなの?」

 一番年下のお姉さんが訊ねてきた。

「そうそう、それは私も知りたかったんや」

 関西のお姉さんも頷く。

「えっ、そ、それはですね」

 しどろもどろになる私に、

「私も三ヶ田さん、狙ってたのにな」

 と普段はおっとりしている、年が真ん中のお姉さんの爆弾発言。

「あー、それは私も!」

 他の二人の声がシンクロした。

「そうだったんですか? 全然気付きませんでした」

 私は彼女たちの告白にびっくりしていた。

「まぁあんたらは、お互いの姿しか、瞳に映してなかったからな」

「恋は盲目と言いますし」

「私たちは完全にわき役だったわよね」

 お姉さんたちの笑い声が響く。そこに刺々しさはなく、私も一緒に笑うことができた。

 いつぶりに笑えたのだろう。また一つ嫌なことが楽しい記憶で上書きできた。

 

 高校を中退して以来、ずっと集団の笑い声に怯えて暮らしていた。教室で聞く、おそらく私に向けられた『クスクス』という悪意のこもった声と風景を思い出すのだ。でも、入院し同室の彼女たちとの出会いが、けっして自分だけが、おかしかったのではないと気付かせてくれた。

 

 楽しい時間は終わりを告げる。二十四時だ。

「そろそろ、寝ないとな。おやすみ、いいを夢みれるといいな」

「ですね。みなさんい夢を」

 私はおやすみの挨拶をした。

「やっぱりウッピーは固いですね」

「そこがいいところなんですよ、おやすみなさい」 

 そしてカーテンを閉めて、私たちは布団に潜りこんだ。

 彼女たちにとって、いい年になりますように……。神なんて信じてない私が、珍しくどこかへ祈っていた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 病棟での大晦日。 お泊り会みたいで、すごく久し振りに、大晦日らしい大晦日を過ごせた気がします。 関西弁のお姉さんにも、思えば沢山お世話になりましたね。 同室の方が優しい人ばかりだったのは本当…
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