にぎやかな街
何度『おはよう』と『おやすみ』のメールの送受信を繰り返しただろう。
外出届けを出し、近くのショッピングセンターにやって来た。健一さんのクリスマスカードを選ぶためだ。テナントの雑貨屋を覗いてみる。スノーボールにクリスマスツリーが置いてある。ディスプレイも賑やかだ。
私は楽し気なBGMにつられ、浮かれた気持ちで、カードコーナーへ向かう。サンタクロースがトナカイに乗った可愛らしさを推したもの、クリスマスツリーをモチーフにした定番のタイプ。彼のことを考えながら、たくさんのカードの中から一枚を選びとる作業に心が高揚する。迷う時間すら楽しんでいた。思う存分悩んで、濃い緑地に赤のリボンがかかっているシンプルなカードを選ぶ。メッセージを書くための余白が広いことも気に入った。
病棟に戻ってくると、『赤鼻のトナカイ』の歌声が響いている。
「小野田さんも、途中からだけど歌わない?」
看護師さんに誘われた。
「はーい」
空いた席に座って、隣の患者さんに楽譜を見せてもらう。練習を重ねた成果だろう。だいぶ声が揃っていた。みんなの歌声に自分の声が重なる。ただ楽しい。
「あんたもだいぶ馴染んだな」
松婆に笑われた。この病棟の主と呼ばれている。古株の患者さんを、入院したころは気難しく、口うるさい面倒な人くらいにしか思ってなかった。
「それなら、嬉しいです」
早口で話しかけられて、怒っているのかと委縮した経験もあった。会話さえ難しかったのがこんな風に笑顔を向けてもらえる。
「わしらの言葉も聞きとれるようになったしな」
「わりと大変でしたよ」
「かっかっか」
松婆に見送られ、病室に戻った。
買ったばかりのカードのフィルムを丁寧に剥がし、病室のサイドテーブルに置く。早速、メッセージの下書きに取りかかる。ノートに、ああでもない、こうでもないと唸りながら伝えたいことを書き並べていく。思いが溢れて、まとまらない文章。ちらちらカードを眺めては、届く日を想像して笑みがこぼれる。全く挙動不審だ。人に見られたら可笑しいだろうな。
『メリークリスマス』と近況を余白いっぱい綴った。最後に一言添える。
「辛いことや大変なことはあります。だけど、健一さんのことを考えると少し強くなれます。出会ってくれてありがとう」
文字を大きくピンクのボールペンでハートを型取り、しっかり囲んだ。
グリーンのカーテンを開けると、お姉さんたちがじっと私の顔を見ていた。
「どうしたんですか?」
「愛だな」
「プラトニックラブ。遠距離恋愛。でも心は側に」
お姉さんたちがうっとりした表情で言う。
「からかわないでください」
たぶん赤くなってる。
「からかい半分、羨ましさ半分」
まだ言うか。ちょっと笑えてきた。
「毎日会える恋愛ができればよかったんですが」
つい本音が出た。
「離れていても、心さえ繋がっていればなんとかなるよ」
関西のお姉さんの言葉が印象的だった。




