表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生と私  作者: 綿花音和
52/87

にぎやかな街

 何度『おはよう』と『おやすみ』のメールの送受信を繰り返しただろう。


 外出届けを出し、近くのショッピングセンターにやって来た。健一さんのクリスマスカードを選ぶためだ。テナントの雑貨屋を覗いてみる。スノーボールにクリスマスツリーが置いてある。ディスプレイも賑やかだ。

 私は楽し気なBGMにつられ、浮かれた気持ちで、カードコーナーへ向かう。サンタクロースがトナカイに乗った可愛らしさを推したもの、クリスマスツリーをモチーフにした定番のタイプ。彼のことを考えながら、たくさんのカードの中から一枚を選びとる作業に心が高揚する。迷う時間すら楽しんでいた。思う存分悩んで、濃い緑地に赤のリボンがかかっているシンプルなカードを選ぶ。メッセージを書くための余白が広いことも気に入った。

 

 病棟に戻ってくると、『赤鼻のトナカイ』の歌声が響いている。

「小野田さんも、途中からだけど歌わない?」

 看護師さんに誘われた。

「はーい」

 空いた席に座って、隣の患者さんに楽譜を見せてもらう。練習を重ねた成果だろう。だいぶ声が揃っていた。みんなの歌声に自分の声が重なる。ただ楽しい。


「あんたもだいぶ馴染んだな」

 まつばあに笑われた。この病棟の主と呼ばれている。古株の患者さんを、入院したころは気難しく、口うるさい面倒な人くらいにしか思ってなかった。

「それなら、嬉しいです」

 早口で話しかけられて、怒っているのかと委縮した経験もあった。会話さえ難しかったのがこんな風に笑顔を向けてもらえる。

「わしらの言葉も聞きとれるようになったしな」

「わりと大変でしたよ」

「かっかっか」

 松婆に見送られ、病室に戻った。 

 

 買ったばかりのカードのフィルムを丁寧に剥がし、病室のサイドテーブルに置く。早速、メッセージの下書きに取りかかる。ノートに、ああでもない、こうでもないと唸りながら伝えたいことを書き並べていく。思いが溢れて、まとまらない文章。ちらちらカードを眺めては、届く日を想像して笑みがこぼれる。全く挙動不審だ。人に見られたら可笑しいだろうな。

 

『メリークリスマス』と近況を余白いっぱい綴った。最後に一言添える。

「辛いことや大変なことはあります。だけど、健一さんのことを考えると少し強くなれます。出会ってくれてありがとう」

 文字を大きくピンクのボールペンでハートを型取り、しっかり囲んだ。

 

 グリーンのカーテンを開けると、お姉さんたちがじっと私の顔を見ていた。

「どうしたんですか?」

「愛だな」

「プラトニックラブ。遠距離恋愛。でも心は側に」

 お姉さんたちがうっとりした表情で言う。

「からかわないでください」

 たぶん赤くなってる。

「からかい半分、羨ましさ半分」

 まだ言うか。ちょっと笑えてきた。

「毎日会える恋愛ができればよかったんですが」

 つい本音が出た。

「離れていても、心さえ繋がっていればなんとかなるよ」

 関西のお姉さんの言葉が印象的だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ