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先生と私  作者: 綿花音和
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笑顔

「小野田さん、よく頑張ってきたね。家族の問題はあなた一人では解決できないことだよ」

「長谷川先生。私、頑張れなかった。結局高校も卒業することが出来なかった」

 泣くのをこらえた。


 先生がなぜ頑張っていたと認めてくれるのか、不思議だった。学校側もむりやり進級させずに、希望通り留年させてくれた。ほかにも、さまざまな配慮をしてくれた。その恩に報いることが出来なかった。それは負い目となり、自分は無力でつまらない人間だと感じる原因になった。


「あなたは、とても頑張ったよ。もう身体も心も悲鳴を上げているんだ。長い間味方がほとんどいない状態で、よく戦ったんじゃないかな」

 先生が励まし、労ってくれた。ずっと張りつめていたものが一気に緩んだ。


「いつも家で一人ぼっちだった。学校だけが救いの場でした。でも高校で初めて妬みや嫉みにあってクラスメートから陰口を言われたり、くすくす笑われたり……。大きなショックでした。どこにも居場所がなくなって辛かったんです。いじめを表立っては認めない学校の方針にも失望を感じました。父の強い勧めで入学した学校だったので、余計に反発を覚えたんです」

 これまで言えなかった思いが口をついて出る。


「第一志望の高校を受験出来なかったのはきつかっただろうね。あなたの話によると、お父さんは、自分の職場の子供が多く通っている学校に成績優秀な娘を進学させたかったんだろうね。それは彼のエゴだよ。もう必要以上に自分を責める必要はないよ。僕は今まであなたを診察してきてそう考える」

 その真摯な言葉は頑なだった心に染み入ってきた。

「第一志望校を受けるという決断が出来ずに、不合格のリスクが少ない高校を選択したのは間違いなく私なんです。父からの圧力に屈したのは、自分が弱かったからなんです」

 私はどこかで後ろめたさを感じていた。

「小野田さん、なんでも責任を取らなくていいんだよ。特に正常な判断が出来なくなっているときはね」

 ずっと緊張感を漂わせ面談してきた先生が笑顔をみせた。

「一週間から二週間は安静にして休憩しよう、お母さんに連絡はとれるかい?」

「はい」

 返事をし、疲れていたので診察室にあったベッドで寝込んでしまった。人前で眠るのはいつ以来だろうか。



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