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先生と私  作者: 綿花音和
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喫茶「アムール」

 一通り挨拶が終わると、喫茶活動の参加者は調理実習室に集合した。平田先生からいったん離れ、私は活動の見学をすることになった。いつも付き添いが必要なほど、病状は悪くなかった。とは言え、デイケアの利用者に溶け込めるか心配で言動は慎重になった。

 

 デイケアないの喫茶店には『アムール』という古風な名前が付いていた。デイケア担当の看護師さんに意味を尋ねると、フランス語で「愛情」と教えてくれた。いい名だと思った。

 参加者は二十人くらいだろうか。ホットケーキ・チョコクレープ・ミルクシェーキ・白玉ぜんざいなどを手作りで用意していた。考えていたより本格的だった。自分に何ができるのか思案しつつ見て回る。

 利用者の皆さんが、丁寧に説明しながらお菓子や軽食を作る様子を見せてくれた。白玉ぜんざいを作っている女性が、上手に粉から白玉を作るの姿をみて憧れを覚えた。自分も挑戦したくなったが、実家で料理をしていなかったし、ましてお菓子作りの経験もないので無理だろうと考えた。

****** 

 緊張しっぱなしだったが、やっと昼休みがきた。

「小野田さん、一緒にご飯食べようよ」

 白玉ぜんざいを作っていた女性が誘ってくれた。

「歳が近い子がいなかったから、小野田さんが入って来てくれて良かった。私、山本やまもとっていうの。千里ちさとって呼んでくれたら嬉しい」

 山本さんはボブカットが似合う、お化粧を綺麗にした明るい女性だった。初めは、下の名前でなかなか呼べなかったけれど、彼女の気さくさに、いつのまにか『千里ちゃん』と呼んでいた。


「小野田さんは、デイケアに来たの初めて?」

「うん、千里ちゃんは少し先輩なのかな」

 なるべく詮索しないように言葉を選ぶ。

「私はもう二年通所してるんだ。調子が良いときは、作業所にも通っていたの」

 私にとって作業所は次のステップと説明されていたので、前を歩いている千里ちゃんを凄いなぁと感じた。

「デイケアの人は気の優しい人ばっかりよ。でも病気の症状で一時的に気が荒くなったり、落ち込んだりするから、びっくりするかもしれない。私だって調子が悪いときがあるもん。だから、小野田さんも無理しなくて大丈夫だからね。ここには平田先生も、ケアしてくれるお医者さんもいるんだからね」

 千里ちゃんの言葉を受けて、不安が軽くなった。

「ありがとう」

 彼女の気遣いが嬉しくて、休み終わりに大好きなチョコレートをあげた。






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