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先生と私  作者: 綿花音和
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三ヶ田の告白Ⅱ

「学生時代の僕は、他人に無関心だった。クラスメートに歩調を合わせ、ただ自分さえはじき出されなければよかったんだ。幸ちゃんが学校で疎外感を感じ、辛い思いをしたって聞いたとき、僕は一番にクラスメートを追い詰めた経験が脳裏に浮かんだ。それまで、情けないがずっと罪の意識に蓋をしていたんだ」

 今まで見たことがない健一さん。過去を話してくれた彼の意図を、はかりかねた。だが率直に感じたままを言葉にした。

 

「私は、高校のクラスメートをまだ許せません。でも彼らの気持ちを全く想像できなくはないんです。クラスの空気に合わせることも、タイミングを逃して出来なかった。中学の頃のクラスメートが一人もいなかったし、女子の陰口に委縮してしまって自分の地も出せなかった。それが原因で、クラスで浮いていました。私は幼い頃にいじめられた経験があったから、人を中傷するのが嫌だった。別の見方をすれば辛い経験がなかったら、弱い存在を見付けていじめに加担してしまったかもしれません」

 彼の反応を窺う。


「幸ちゃん、君は賢くて優し過ぎる。僕が一番後悔し、恥ずべきことを話したのは、楽になりたかったのが一つ。君に隠しているのが苦しかった。残りは素直な幸ちゃんが、これから家族から離れて、自立を目指そうとしている。それを僕なりに心配したからだ。人の心の刃はみえない。誰でも、弱さやストレスを抱えている。どんな形でそれが発露するかわからない。これから、活動範囲が広がればまた意地悪をされるかもしれない。他人と接する機会が増えるのは良し悪しだよ。本当は近くで支えたいけど、直ぐには叶わないから」

 彼の真心はしっかり届いた。


「きっと、また泣く日が来ると思います。辛い思いもするかもしれない。健一さん、私のために告白してくれてありがとうございます。誰かにとっての悪人でも、私が貴方を慕うことを禁じる理由にはならないと思います。世の中をよく知らない未熟者ですが、たくさんの優しさを知っているから貴方を好きなんです」

 私の想いも届いてほしい。

「ありがとう。僕のことを見限らないでくれて。君より年上なだけで情けない人間なんだ」

「いいえ。健一さんを、以前より近くに感じています」 

 一時間半程一緒に過ごしただろうか。気遣って和室に入ってこなかった患者さんに感謝し、私たちは病室に戻っていった。



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