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先生と私  作者: 綿花音和
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繋いだ手

 健一さんは、自分の話を積極的にはしない人だった。たいして私は、辛かったり嬉しいことをよく彼に話していた気がする。どんな話も興味深そうに聞いてくれた。否定したり、すぐに自分の考えを言わなかった。それだけ真剣に思いを受け止めてくれていたのだろう。

 私の人間関係の挫折の記憶は結構根深いものらしく、長谷川先生から無理に思いだそうとしないように言われていた。記憶の中には、思い出せそうで、もやがかかってはっきりしないところもあった。おそらく潜在的に自身で思い出さないようにしているのではないか。それは今はまだ不要な記憶だと先生は結論付けた。健一さんも、先生も私の回復の歩幅に合わせて行動してくれた。そのお陰でゆっくりと快方に向かうことが出来ているのだと感じていた。

 

 病棟にはルールがあり、男女二人での散策は禁止だった。あくまでも治療が目的であり、看護師や主治医の目の届かない場所では二人で行動してはいけなかった。

 その中でも配慮というものはあって、温かい見守りによりお互い治療に励みながら、交流を続けられたのだと思う。和室でババ抜きを東さんと健一さんと三人でやっていたとき、東さんがふとこぼした。

「君たちはとてもお似合いだ。小野田さんが落ち着いてぐんと素敵になった。それは三ヶ田さんのおかげなんだな。二人の仲を邪推して、いじけていた自分が恥ずかしいよ」

 以前彼に、健一さんとの仲を疑われ質問されたこともあった。そのときは、心に余裕もなく驚いてしまった。でも今は自然に会話をし、遊んだりするようになっていた。

「東さん、いじけてたの?」

 と健一さんが笑いを含んで切り返した。

「初耳ですよ」

 と私も笑顔で言った。

「二人には離れないでほしいな」

 ばつが悪そうだけど、とても優しい表情で東さんが私のカードを引きながら言った。

「ありがとう」

 健一さんは照れた様子で東さんからカードを引き、ワンペアーをそろえ上がった。残りは私と東さんの勝負になったのだが、夕食の時間がきてお開きになった。

「幸ちゃん、嬉しかったね」

 健一さんが言った。そして和室を出るときどちらからともなく互いに手を重ね繋いだ。

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