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先生と私  作者: 綿花音和
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新しい目標

 私なりに周りの世界を正しくとらえるため、ノートを今まで以上に細かく記録するようになった。読み返すと偏った考え方をする私でも、ある程度バランスをとりながら物事を振り返りやすくなるのだ。

 最近は『嬉しいこと』に三ヶ田さんがよく登場する。彼と話していると、家族のことでささくれだった思いに悩まされていても、忘れられた。いつからか幸ちゃんと呼んでくれるようになったのだが、そのたびに鼓動が速くなる。

 私から『健一さん』とは、気恥ずかしくて呼べない。嫌なことを思いだして眠れないときは、彼の静かな眼鏡の奥の優し気な眼差しを思い出す。すると心がじんわりとぬくもり、眠ることが出来た。

******

 長谷川先生と面談。ノートを読んでもらう。

「小野田さん、ずいぶん自分で色々な可能性を考えられるようになったね。考え癖を変えるのは大変だろうに、頑張っていると思うよ」

 先生は褒めてくれた。

「まだ可能性を挙げるだけで、心から楽観的な可能性を信じることは難しいです。たいして進歩していないんです」

「あなたは頑張ってるよ。時々は、自分を認めて欲しい。今後の目標は、一人暮らしになる。これから作業療法士さんとも連携してプログラムを組んでいくよ」

 先生と今後の方針を話し合う。

「自分で戻らないと言っておいて不安になるのは情けないですが、私、一人暮らしをできるようになるんでしょうか?」

「時間は少しかかると思う。でもきちんと準備して段階を踏んでいけば問題ないよ」

「具体的にどのくらいかかりそうですか?」

「最低一年はみて欲しい。まず生活訓練が必要だね。就労に向けて、デイケアを利用することになるよ」

「そうですか」

 返事をしながら自分が大きく変わっていく予感がし、期待と不安が入り混じる。もう入院して時も経った。休養の期間がやっと終わったのかもしれない。先生から近々、新しいサポートスタッフさんと顔合わせをすると伝えられた。

 私は久しぶりに、祖母にはがきを書いた。父方と母方両方にだ。私の入院を聞いて、一番心配している人たち。小さい頃は、両方の祖母にべったりで凄く可愛がってもらった。唯一、幼い頃に優しくされた記憶だった。

「おばあちゃん、元気にしているかな」

 葉書きをポストに投函しに行く。歩いていたら帰りの廊下で三ヶ田さんと遭遇した。お互いにびっくりした顔をして、どちらからともなく笑顔になった。





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