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先生と私  作者: 綿花音和
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優しさの種類

 昼下がり、三ヶ田さんとロビーでいつものようにお茶会をしていた。私はまだ母にも伝えていなかった自分の病状について気付いたら打ち明けていた。


「三ヶ田さん、私、生まれたときから人と比べて発達が遅かったんだ。先生から説明されたんだけれど、それが理由で生きづらさを感じていたんだって。不思議なことに診断がついてたら、妙に腑に落ちた自分がいたの。楽になったというか、違和感の正体が全てわかったんではないけれど私は『普通』を無理に追っていたのだと少し気付けたんだ」

 彼にはスムーズに繊細ともいえる内容を伝えられた。

「大切なことを僕に伝えてくれてありがとう。自閉スペクトラム症か……。病名がつくと不安になる人もいるけれど、貴方はそうではなかったんだね。生きづらさを抱えている人は意外と多いと思うし、それは自然なことだと僕は感じるんだよ」

 三ヶ田さんは真摯に私の話を聞いてくれ、自身の考え方を話してくれた。


「診断がついて、自分がおかしいんじゃなくて、元々の性質に特徴があるだけで、特異な人間じゃなかったんだって安心したの。三ヶ田さんは、私が初対面とか慣れない人の中だと空気を懸命に読もうとしているのことに気付いてくれたよね」

 そういつも彼の優しさに助けられていた。


「たしかに。小野田さんは無理しがちだよね。そんな過剰に人に合わせなくていいと僕は思うけどね」

「昔の記憶が邪魔して、人と接するのがそうしても怖くて……。だけど最近は病院の中の人付き合いにはどうにか慣れたかな」

「人と接することではなく、失敗するのが怖いんじゃないかな。僕は君と関わっていてそう感じるよ」

「よくわかりますね」

 なぜ彼は私のことを理解してくれるのか。二人で紅茶を飲んで、丸眼鏡の奥の穏やかな瞳を見ていると、なんだか楽しい気持ちになる。だから彼が年下の私と話していて、つまらない思いをしていないのかが気になった。余計な心配だろうか。

  

「僕はたいした見識も持っていない。だから余談だと話半分に聞いてくれればと思う。強迫神経症はとても辛いけど、人によっては単なるこだわりだって切って捨てることもある。つまり自分がしがみついてるものが自身を不幸にしてしまうこともあるってことさ」

 珍しく、三ヶ田さんが主張をする。突然のことでびっくりした私は、

「いきなりどうしたんですか? ちょっと難しいです」

 そう言った。

「君ならもう本質はわかっていると思うよ」

「うーん」

 彼に唸ってみても答え合わせはなかった。そして時計は十四時を指している。そろそろお茶会の仕舞いの時間だ。

 自分がしがみついているものが自身を不幸にする。私にとっては近しい家族や置いてきた友人などかもしれなかった。三ヶ田さんの後ろ姿をみながら、彼の優しさは複雑な手触りがすると思っていた。




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