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先生と私  作者: 綿花音和
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世界は広い

 長谷川先生の診察で新たにわかったことがある。先生から受けた説明をまとめると「私は発達障害の自閉スペクトラム症の特徴を持っており、幼少期は心身ともに発達が特に遅れていたと推測される。集団に合わせての行動が難しかったことに起因する虐め、それから家庭内での不遇。生きづらさが積み重なり鬱病を二次的に発症したのだろう」と。

******

「私にはやっぱり普通ではないところがあったんですね」

 落胆しながらも、ようやく腑に落ちた気持ちで訊ねた。

「何を軸にするかで、普通と呼べたり外れたりするから、僕には『普通』を定義することは出来ない。ただ僕が診ている小野田さんは、凄く努力して人の言葉の意味を適切に理解しようと、他人に寄り添っていこうとする癖を付けていると思うよ」

「幼稚園の頃、周りの子の言いたいことが理解出来なかった。自分もどう答えていいかわからずに苦しかったのを覚えています。だから極端に口数が少なかった。今だって意識して空気を読もうとしなければ、言いたいことばかりを語ってしまうんです」

 昔の記憶を手繰り寄せ、現在と対比する。そう変わっていない気がして辛い。

「そうだったんだ。発達障害については色々な論文が出ていて、これから研究が進んでいく分野だと思う。マイルール、強いこだわりを持っていたり、嫌なことも良いことも忘れにくい特性があったりする。症状は人それぞれだ。自分にそういった傾向があるかもしれないと頭において、治療に臨んでくれると戸惑いが少なくなると思うよ」

 先生はゆっくり時間をかけ説明してくれた。


「私は、世界のことを正しく捉えられているのかな?」

 ふと漏らした言葉に、

「その答えは自分で出すしかないんだ。正しいかはさておき、貴方は考え深いし、人の気持をよく想像出来ていると思うよ。お父さんのように、頑固で人の気持ちに鈍感な人になる可能性だってあったんだから」

 彼は返答した。

「それは、とても嫌です」

 私はしかめっ面をした。

「安心しなさい。小野田さんのように、理性の強い性質の人は少数だと思うんだ。それが、きっと貴方を成長させているんだろう」

 本当にそうなのだろうか、そうあって欲しい。


「心の中に、自分を認めてという欲求を感じるんです。それが私の中に父の存在を連想させ自己嫌悪に陥いらせるのです」

 私は承認欲求、我が強い、うざいくらいに。理性で抑え込めるのなら、消し去りたかった。

「考え方の癖をもっと修正できれば、違うものもみえてくると思うよ」

「そうなのでしょうか? 私の笑顔には人を見下すようなところはありませんか?」

「小野田さん、もっと自信を持っていいんだよ。自然体で笑っているとき、とても和やかな表情をしているよ。僕は、なんらかの欲求がなければ自分を大切に出来ないし、他人を好きにもなれないと考えるよ」

 

 首を傾げながら、心の中では先生の言葉に頷きたい自分がいた。私は『普通』を一生懸命追いかけてきたつもりだったのに、それは幻想だったようだ。空回りしてきたのかと虚しい思いもあった。別の視点から見れば、私が知らないことはまだ沢山ある。より成長する可能性が残されているのだ。世界の広さを勝手に決めていたのは、傲慢だったのかもしれない。私は思考を行きつ戻りつしながら、生きる力を取り戻しつつあった。




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