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先生と私  作者: 綿花音和
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私たちのサイン

 再び家族面談の日がやって来た。父親だけでなく、妹の美幸みゆきも来るため、前回より心が波立っている。

 私と長谷川先生は、面談前に伝えたいことを相談し簡単にまとめていた。数回の面談だけで家族の問題が前進するとは思っていない。また会って話をしたいと思っただけだ。先生と水上さんには、くれぐれも無理をしないようにと声を掛けられた。

 

 家族の在り方より、大切なのは自分自身が幸せになること。そんな単純なことが、家にいたときにはわからなかった。

 先生と水上さんが、病室に迎えに来てくれた。

「気分はどうね?」

 彼女が優しくたずねる。

「大丈夫です。意外とすっきりしています」

「緊張したり心細かったら、遠慮なく水上さんの手を握ってサインを送ってください」

 先生が言った。

「なんだか甲子園みたいですね」

 私は笑った。二人と話していたら、ずいぶん気が紛れた。

 ******

 病棟のロビーに家族が揃っていた。少し痩せた母、白髪が増えた父、表情の読めない妹。久しぶりにみる家族は、記憶からわずかにずれている気がした。

「ついて来てください」

 先生が診察室に案内する。入室し全員が着席した。先生が私の回復状態を家族に簡潔に説明してくれている。

「幸さんは、とても利発な患者です。温和で病棟の人との人間関係も良好です。おそらく鬱病になったのは環境的な要因がとても大きいと考えます」

「要因とは具体的には私たちなのですか?」

 母が悲しそうに尋ねた。

「そうだとも言えますが、それだけでもないのです。進学先で上手く行かなかったこと、幼い頃いじめにあってい経験などが複合的に重なって、入院せざるをえない状況になったのでしょう」

 彼の説明に母は悲しそうに、

「幸ちゃん」

 と一言漏らした。


「先生、わしは幸がいじめられていたときに常に戦ってきました。学校に乗り込んでいったし、娘に石を投げた子供の家へ、怒鳴り込みに行ったこともあります。今だって家族のため、職場で戦っているんです」

 やはり父が戦闘モードに入ってしまった。

 私は唖然としながら、水上さんの手にちょっと触れた。すると彼女はニッコリ笑みを浮かべてくれた。私は安心し静かに、父の演説を聞いていた。

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