家族の風景Ⅱ
「そろそろ二度目の家族面談をしようと思っているけど、小野田さん大丈夫かい?」
長谷川先生が顎に手をやり首を傾げている。
「気が重いのは確かですが、構いません。家族と折り合いを付けたいと少しずつ考えるようになりました。私を簡単に理解してくれるとは思えませんが、話す機会は作らないと」
彼らに会えば、やっと自分を大切に思えるようになったのに、また闇の中に放り出されるんじゃないのか。正直に言うと怖かった。家族を避け続ければ、変わらず幸せな世界にいられるのかもしれない。
「小野田さん、逃げないんだね」
「怖いです、逃げたいです。でも失いたくないものがあるから戦うと決めました」
震えながら言う私を見て、彼はただ深く頷いた。自分の居場所を確かなものにしたい、守りたい、強い気持ちが湧いていた。病棟で過ごした三ヶ月は理不尽さに怯えるだけの心に、勇気をもたらした。この世界が大切だから、かりそめのものにしたくない。
夜になり病棟から、電話を自宅に架ける。
「もしもし」
呼びかけると、
「幸。元気にしている、変わりはないの? 手紙も来ないしお母さん心配していたのよ」
母が電話に出てくれた。彼女はとにかく心配なようすだった。ご飯は食べられているか、眠れているのか、人間関係で困ったことはないかと、矢継ぎ早に質問する。心配をかけたのだと、便りも出さなかったことを後悔した。後悔できるようになった理由が、連絡を絶ち彼らと距離を取ったことなのは皮肉だと感じた。
「先生、家族面談の日取りは来週の半ばを希望します。夏休みだから妹も来るって母が言っていました」
「ありがとう、ご家族に連絡してくれたんだね。気持ちが悪くなったりしていない?」
母の心配に罪悪感を感じていたが、
「大丈夫ですよ」
と答えた。彼はそれを見抜いていたのか、猫ポイントににゃんこが大勢いたことを教えてくれた。
「小野田さん、あなたの周りにいるのはご家族だけじゃないから。僕たちもいるんだからね」
先生からの言葉はとても嬉しかった。ただ今までの癖で笑顔をすぐに浮かべられない。
「ありがとうございます、にゃんこに会いに行ってきます」
逃げるように猫ポイントに走った。
そうか、彼女も夏休みなんだ。妹の美幸とも折り合いがいいとは言えない。懸念材料はたくさんある。だが向き合うと決めたのだ。そうしなければ、私はずっと家族に怯えて生きなければならない。




