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先生と私  作者: 綿花音和
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生きること

 心療内科に通院したり精神科に入院する人を、特別な目でみる人は多い。自分もそうだった。でも入院が長くなるほど、病院の外と中で何が違うのかわからなくなる。社会の中にいても、父のように家族や周りの人を傷付けることで自分を認めさせようとする人間だっている。

 病名はついているかもしれないが、私に優しさを教えてくれた患者さんたちの何が特別なのだろう。

 

 今日は長谷川先生の面談があった。先生には入院前と物のとらえ方が変わってきたことを伝えた。

「小野田さんは、精神の病を患うことに抵抗はあるかな。負担にはなっていないかい?」

「負担にはなっていません。普通に寄せて生きるのが難しかったのは、自分が一番知っていますから。病気って言われて安心したところもあるんです。それに病棟の人から、もらったものが沢山あるんです。優しくされるのって安心するんですね。こんなに居心地のいい場所があるなんて、色々なことにこだわって生きていたんだと恥ずかしくなるばかりです」

「具体的には何に拘っていたのかな?」

 先生が興味深そうに尋ねる。

「見かけに学歴、経歴なんかです。こだわっていないと振る舞いながら、どこかで順番を付けることが好きなんです。みっともない奴ですよ」

 彼は深く頷くと、

「それは特別なことではないよ。むしろモチベーションになっている人だって大勢いるんだ。よく僕の質問に、正直に答えてくれたね。見せたくないところだっただろう。実は僕にもそういうところがあるよ。誰でも、ほとんどの人は相手を通して自分を確認したがる生きものなんだと思う」

 優しい目をして答えてくれた。

「先生もなんですか、ホッとしました。こんなこと打ち明けたら軽蔑されるんじゃないかって思っていました」

「物事は多面的でね。不幸だったと思う時期も、後々必要だったりするんだ。難しいけれど、小野田さんならきっと気付くことが出来ると思うよ」

 

 病室に帰って来てから、しばらく先生の話を頭の中で繰り返していた。自身の醜い部分をまず受け入れられれば、家族への執着という地獄から脱出するヒントになる予感がした。

 その夜は明るく部屋のみんなに、『おやすみなさい』を言えた。多少浮かれていたかもしれない。

『ウッピーおやすみ』返事が返ってくる。それだけのやりとりが嬉しかった。








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