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先生と私  作者: 綿花音和
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お茶会

 三ヶ田さんの身なりはカジュアルだったが清潔感があり、容姿も優し気で、育ちの良さが窺える人だった。そんな彼と私は対照的だと思っていた。

 しかし挨拶を交わし、立ち話をするようになり気が付くと、三ヶ田さんは私をよくお茶に誘ってくれるようになった。お茶といっても、どこかカフェに行くわけではなかった。彼が自前のコップにトワイニングのティーバッグを用意し給湯器でお湯を入れ、美味しそうな洋菓子をお茶うけにして二人でしゃべるのだ。贅沢な時間だったと思う。

 

 彼は自分のことを余り語る人ではなかった。ただ穏やかな雰囲気は心地よく、的を得た話の受け答えから、人に好かれるのは鈍い私でもわかった。

「小野田さんは、どこも悪くなさそうだね。いい意味で」

 何度目かのお茶会で三ヶ田さんはごく自然に言った。そんな指摘を入院してから一度もされたことはなかったので、どう答えようか迷った。彼には正直に現状を話すことにした。


「そうですね。病院に入院してきたときは、頻繁に、死にたくなることがありました。今はそうでもないんです。不思議ですね、家にいた頃より入院してからの方が精神が安定するなんて。という訳でしばらくここにいる予定です」

 聞いていた三ヶ田さんは顔を曇らせた。

「君みたいな子が死にたいなんて思わなきゃならないなんて、辛い環境だったんだろうね」

「そんなことないですよ。ここの入院費も両親が負担してくれてるわけですし、食べられなかったり、学校に進学出来なかったわけじゃないんです。私が弱いだけなんです」

 なるべく感情を抑えて言った。

「小野田さんは凄いな。色々あっただろうに、親を憎むだけじゃないんだね」

 温かい紅茶と甘いクッキー、少し複雑な三ヶ田さんの表情が印象に残っている。

 

 三ヶ田さんは、私を見かけると必ず声をかけてくれた。そして彼の紹介で、だんだん私の活動範囲が広がっていった。病棟で話す人も増えていった。私は徐々に自身のことを前とは違った認識で捉えることが出来るようになっていったが、自分の中で痛みを伴うことでもあった。

 

 ある日、和室で本を読んでいたら、顔見知りになったあずまさんという同世代の男性が入って来た。

「小野田さんは三ヶ田さんと付き合っているの?」

 そういう風に見えるのかと訊ねられて驚いた。私は慌てて否定した。

「じゃあ、誰とも付き合っていないんだね」

「付き合うってなんでしょう? 病気の治療のために入院しているんだから、それどころじゃないです。三ヶ田さんだって、苦しい治療に耐えているのに」

 腹立たしかった。東さんは、

「小野田さんと仲良くしたい人は他にもいるんだよ」

 その言葉に嫌悪感を抱いた。この頃の私は、男女の関係に免疫がなく許容範囲も狭い人間だった。


 


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