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先生と私  作者: 綿花音和
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めぐりあわせ

「ウッピー、近ごろ元気ないなぁ」

 関西のお姉さんがカーテン越しにぽつりと言った。

 一回り年上の関西から入院している彼女とは、年齢を気にすることなく話せ、警戒せず付合えた。

「そうかもしれません。考えごとが多くなってしまって……」

「うちは残念ながらカウンセラーとか難しい資格はもってないけど、あんたの話を聞くことはできるからな。そこんとこは忘れるな」

 お姉さんは冗談めかして笑った。資格はなくとも同室の彼女らにどれだけ助けられているか。ありきたりで悪いなと思いながら、何度目かの『ありがとう』を心の中で呟く。病室の窓を見ると空を雲が隠し、ぬるく湿った空気も一緒に入ってきた。

 昨日の先生との面談を振り返っていた。ノートに書き込みをしながら、自分の立ち位置を振り返ってみる。

 顔を貶され始めたのは幼稚園に入ってまもなくだった。入園の日はどうだったろうか。懸命に記憶を辿る。入園した日は普通に話しかけてくれる子もいたような気がする。

 だとすると、初対面で容姿が気に入らなかったという仮説は成り立たない。なぜ私は嫌われてしまったのか。はっきりとした理由がわからない、もどかしい。ノートに『原因は容姿ではない可能性あり。醜いのは心かもしれない』と書いてみた。

 

 醜悪な顔を自分がしていないかもしれないと悩みが軽くなる。一方で自身の性格起因で受け入れてもらえなかったのであれば軽くはない問題だ。

 なかなか納得出来なかったけれど、その時々の考えや思いを書くことも重要と、先生に教わったので、知られたら恥ずかしいと思う点も綴った。

 しばらく自らの心と向き合っていたら疲れてしまい、気晴らしに散歩に出かけることにした。雨が降ると嫌だから傘を準備し、ナースステーションに顔を出す。


「猫さんを、見に行ってきます」

「小野田さん、雨が降りそうだから気を付けてね」

 水上さんに見送られ、病棟の大きく重いドアを開け、私は出発した。MDウォークマンにイヤフォンを付けて好きな曲を聞きながらゆっくり歩く。病棟の外周は充分な距離があった。歩きなれた道も散歩のたびに発見がある。


 草花が好きな私はレンゲや露草、オオバコなど、瑞々しいそれらの姿を眺めると、悩みで潰れそうな気持ちが癒された。外来棟の裏の猫さんポイントに到着する。人に慣れていて、

「ミャーオン」

 お腹を出して、撫でてくれと言わんばかりだ。すり寄ってくる猫さんに顔がにやけてしまう。相変わらずふかふかだった。猫分を吸収して元気が出たので病棟に帰ろうとしていた。傘を使わなくてよかったと思っていたら、急に空が暗くなり雨が降りだした。

 ふと顔を上げ前を見ると、傘を持たず同じ方向へ歩いていく男性を見かけた。

 結構激しく降っていたので私は思い切って、

「傘に入って行きませんか? お嫌じゃなければですけど」

 と声をかけた。

「助かります」

 と涼やかな声で彼は短く答えたのだった。







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