家族の風景
あからさまに他人を悪く言ったり、馬鹿にしたりするのは嫌いだった。また陰に潜っていじめることも悪事だと思っていた。だがその行為を嫌悪しながら、加害者をどこか見下し軽蔑していた。安い正義感が強かったのである。
父は自分より仕事が出来ない人をゴミのようにあしざまに貶し、家で馬鹿にしていた。見ていて、貝汁のあさりの砂を噛んでしまったような何とも言い難い嫌悪感が湧いたものだ。
学生時代、草野球に熱中していて進学クラスに在籍していたものの大学を受験することはなかった父。自衛官には階級があるのだが、彼は同期が順当に階級を上がっていくなか、最後にようやく追い着いた。
その間、私への風当たりもますます強くなっていった。言葉の使い方が少しでも気に入らなければ殴られた。家族が揃う食事の時間は特に私は萎縮した。妹は父に頻繁におべっかを使った。そのかいあってか彼女はプレゼントを貰ったり、さして成績も良くなかったが彼に褒められることが多かった。妹が苦手というより嫌いになってしまった。そんな自分が情けなくて泣きたくなる。
一方でひたすら、父のようになるまいと自分を作り変えていく作業をしていた。元来褒められたがり、自慢したがりの気質が自身にあることは認識していた。それを感じるとき、消えてしまいたい程恥ずかしかった。本性が出ないよう矯正して一般受けする自分を演じてきた。
人をみる目も厳しくなってしまった。嫌な奴だったと思う。家に帰れば地獄。結果、我慢強くなり学校内では人当たりも良くうまく立ち回っていた。
人望と力もある程度、中学では手に入れていた。この頃には、助けてくれない母に失望してしまった。私の心中は常に綱渡りをしているように不安だった。元来の性格が受け入れられないのであれば、この世界から拒絶されているのだと感じた。だってどんなに気高く生きようとしても私はまがいものなんだから。




