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先生と私  作者: 綿花音和
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散歩

 先生の後ろについて、散歩に出かけた。病院の敷地には木々が繁っており小さな森のようになっていた。運動場や東屋もあり、散歩してみると意外に心地よかった。彼はゆっくり歩いてくれた。私は口を中々開けず周りの景色を見てばかりだったが、先生からぽつぽつ話しかけてくれた。

「小野田さんのお父さんは、なかなか強烈なキャラクターをしてるね」

 皮肉ではなく率直に先生は評した。

「よく言われます」

「お父さんはたぶん周りの人の気持ちに関心はあるんだろうけど、読み取るのが下手な傾向があるのかもしれないね」

 端的に父の特徴を先生は捉えていた。やはり専門のお医者さんなんだと感心した。


 ちょうど外来棟の裏に来たとき、猫の集団に出会った。いきものが好きな私は屈んで、猫に手を出し様子をみながら撫でだした。彼らは人懐っこく、お腹を見せて甘えるような鳴き声を出した。

「猫が好きなのかい?」

「はい、大好きです。小さい頃から飼えなかったから余計に好きで」

 先生は夢中になって猫を撫でる私を、口の端を上げて一緒にしゃがんで見ていた。

「私は他人が怖くて、自分が嫌いなんです。先生も父が強烈なキャラクターをしているって仰っていましたが、私は彼にとても似てるんです。それはもう同族嫌悪といえるかもしれません」

「小野田さん、血の繋がりはときにまやかしだったりするんだよ」

 先生はふっと謎かけのような言葉を私に与えた。

「血より濃い繋がりはないって言うじゃないですか」

 憤慨して言い返す。

「僕は、あなたがお父さんに似ているとは思わないけどな」

「先生、気休めに言っているんじゃないんですか?」

 猫たちにお別れして、姿勢を正しながら先生の顔を見て言った。

「僕は、気休めは言わないよ。そんな風に伝わったなら心外だな」

 とそう言いながらも先生は飄々と笑っていた。

 

 それから、病棟の入り口に辿り着くまで、お互いに無言だった。彼の言葉が気になり考え込んで、景色も見ないで、前を行く背中をずっとみつめていた。

「少しは気分転換になったかい?」

 彼は尋ねた。

「自分について謎が深まりましたが、猫さんに会えたから、楽しいお散歩でした」

「なら良かった。少し僕にも慣れてくれたかな」

「私は面倒な奴ですから、どうでしょう」

 そう言いながらも、先生との距離が少しだけ近付いた気がした。










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