独り言
「幸はそんなに家族で暮らしたくないのか」
小部屋から出るとき父は不快な様子で、独り言をわざと聞こえるように言った。つくづく父とは平行線なんだと感じ、胃は痛み食欲もなくなった。彼のほかに、まだ三つ年下の、うまくいっていない妹がいるのだ。
「帰れるわけないか」
私も女子トイレで独り言を呟く、誰にも聞こえないように。気持ち悪くて、吐こうとしたのに吐けなかった。
その日の夕食は、やはり食べることが出来なかった。心配した先生の指示で、水上さんが来て点滴をうってくれた。手をマッサージするとき、
「小野田さん、よう頑張ったよ」
腕を丁寧にほぐし、寄り添ってくれた。それだけのことに、涙がこぼれていた。家族とは果てしなく心が離れていて……。仕事だから優しくしてくれるのだろうが、彼女の手のぬくもりがとてもありがたかった。
寝る時間が来た。カーテンを閉め、布団にもぐって嗚咽した。心が弱くなっていたのだろうか? 少しは父に気持ちを理解してもらいたいと思っていたんだろう。自分の馬鹿さ加減にうんざりする。
入院費は父が払う。殴られたり、蹴飛ばされたりすることもあったが、ひもじい経験をすることもなかった。彼に感謝こそすれ憎むなんて、とんでもないのではないかと考える。考えはしても、悔しく流れる涙は止まらなかった。
次の日、なんとか朝食を半分食べて部屋に戻った。なぜか、長谷川先生がにっこりし私のベッドの側に立っていた。
「小野田さん、病院を一周散歩してみないですか?」
どうしたのだろうかと驚いている私に、お姉さんたちが口をそろえ行っておいでと勧めるので、一緒に行くことにした。




