髑髏の宴
黒い山の中、幽かな火明かりに、踊るは髑髏たち。
皆、生前の憂いを忘れ、軽やかに飛び跳ね、転び、遊戯する。
猪や狸、狐などもそれに混じり、宴は陰々滅滅と賑やかになる。
髑髏は語る。
生前の悪行を。
髑髏は語る。
生前の苦悩を。
髑髏は語る。
生前の憎悪を。
髑髏は語る。
――――――生前の愛を。
生きて結ばれなかった者たちが今。
髑髏となって結ばれるのだ。
仲間の中央、火明かりの近くに進み出て、皆の前でまぐわうのだ。
生前為し得なかった愛欲を今、果たすのだ。
髑髏となりて、髑髏の姿で。
女の髑髏は思う。
女は大きな商家の跡取り娘だった。
二親に散々甘やかされ、叶わぬ我が儘などないままに生きていた。
あの頃はまだ世に苦いものなどあるとは露知らず。
思えばそれが罪であったか。
男の髑髏は思う。
男は娘の商家に丁稚として入った。
商売のいろはを叩き込まれ、店の主人には目をかけてもらった。
やがて頭角を現し番頭となり。
商家の娘と恋に落ちた。
娘はより大きな商家との縁組が決まっていた。
二人の仲を知った父親は激怒した。
娘を親不孝者と、男を不忠者と罵り、男は店から放逐された。
月の明るい晩だった。
放逐される男に将来はない。前の店で信用を無くした男を、一体どこの店が雇うだろう。
娘は監視の目を盗んで店を脱け出し、男の後ろをついて行った。
赤い細帯を持っていた。
橋のたもとあたりで、娘は男に声をかけた。
最初で最後の言葉を言った。
男は躊躇い、やがて頷いた。
月の明るい晩だった。どこか赤めいた月だった。
男と娘は互いの手首を赤い細帯でしっかり結びつけた。
来世まで共にあるように。
それから。
それからひらりと。
ひらりと橋から身を投げた。
珍しい話でもない。
ただ好き合った二人の末路。
報われなかっただけの話。
古今東西、よくある話。
今、女となった娘は恍惚として麗しかった。
青白い骨が火明かりを僅かばかり反射して艶めいていた。
男は女に食らいつく。
昏い月。
二人でまぐわう。輪の中で。
ぐるぐるぐるとした目眩と恍惚。
抹香臭い説法は要らぬ。
ただこの瞬間だけの愉悦を求める。
女の髑髏と男の髑髏は、激しく求め合い幾度も結ばれ合った。
それをしみじみ祝福するかのように、他の髑髏、猪、狐、狸も見守っていた。
狂ったようにその周囲を踊り巡りながら。浮かれ騒ぎながら。
跳んで跳ねて。
狂乱の宴。
髑髏たちの宴は夜が更けてもまだ続いた。