もしも末長く養ってくれるなら…
今回の話は本来なら続編に載せようと思っていたんですけど、内容的に番外編としてここに載せました。その関係で腐女子を凪沙と表記したり、他にも違和感があるところもあるかもしれませんがあまり気にしないでください。
ニート「そういえば…最近タケシを見てないけど、どうしたんだ?」
凪沙「タケシ?…あ、そういえば、最近見かけないね」
初見の人のために紹介しておくと、タケシというのは…なんといえば良いんだろうか…人間だが、我が家のペットの犬という言葉が一番しっくりくる。…まぁ、そういうやつだ。
タケシも我が家で養っていたのだが…言われてみれば、最近タケシを見ていない。
凪沙「お母さん、タケシ見なかった?」
母「タケシ?…さぁ、そんなの我が家にいたかしら?」
もはや私の母はタケシの存在すら忘れているらしい。
凪沙「…まぁ、いいか、タケシだし」
ニート「それもそうだな」
こうして、タケシは私達の記憶からも消えていった。
シロたん「お邪魔します」
そう言って私の部屋に入って来たのは学校の担任の先生である白木美香、通称シロたんである。
シロたん「ちょっと、ニート。いくらなんでも学校サボりすぎじゃない?」
どうやら、不登校のニートを学校に呼び戻しに来たようだ。
ニート「俺が学校になんて行くわけないだろ!?そんなことしたら俺のアイデンティティに関わる!!」
凪沙「無駄だよ、こいつはテコでも動かないし。諦めなよ、シロたん」
シロたん「そうは言っても、せめて進路希望調査表だけでも書いてもらわないと困るのよ」
ニート「進路希望調査表?。状況が状況なんだから、そんなもの意味はないだろ?」
シロたん「残念ながら、建前上必要なのよ。…だからせめて第一希望だけでも教えてくれないかな?」
ニート「進路の第一希望はニート、以上!!」
凪沙「まぁ、あんたの場合はそうだろうね」
ニート「ついでに言うと第二第三希望もニートだ。例えハリウッドにスカウトされても、俺はニートを貫く所存でいる」
凪沙「ほんとこの男は…」
シロたん「でも実際のところ、それに私も救われてるからね…否定はできないのよね。でも、それを学校側に説明する私の気持ちにもなってほしいわ」
ニート「そんなに嫌なら教師なんてやめればいいのに。…もうやる必要もないだろ?」
シロたん「そうなんだけどね…少しだけ気に入ってるのよ、白木美香っていう生き方がさ」
ニート「そっか。まぁ、自分で決めた道なら自分で頑張れよ、俺も頑張るからさ」
凪沙「あんたは何を頑張るのさ?」
ニート「俺は頑張ってニートしてるだろ?。そういう凪沙は進路希望はなんで書いたんだ?」
凪沙「とりあえずアテもないから進学って書いたけど?」
ニート「こんな閉鎖された街でどこに進学するっていうんだよ?残念ながらこの町の大学は状況が状況だから機能してないぞ?」
凪沙「あくまで建前上よ。まだそう決めてるわけじゃない」
ニート「ふーむ、ほんとはどうするか迷ってるわけだ。此の期に及んでまだ迷っているなんて志が低いな」
凪沙「ニートに志を指摘されたくない」
シロたん「いいじゃない、迷えるだけ選択肢があるってことなんだから…」
ニート「っていうか、漫画でも描けばいいだろ。お前が書いてるBLエロ同人があんなに人気あるんだからさ」
凪沙「あれは私が凄いのではなくて、BLが偉大なだけだ」
シロたん「その偉大さを表現できてるだけ凄いと思うわよ」
凪沙「そうなのかなぁ…」
ニート「っていうか、そんなにBL描くことが好きなのに、何を迷う必要がある?」
凪沙「そりゃあ好きだけじゃやっていけないでしょ?」
ニート「それがやっていけるんだよ、この町に俺がいる限り」
凪沙「…は?どういうことよ?」
シロたん「…とりあえず、ニートは進路希望はニートってことでいいのね?」
ニート「愚問だな」
シロたん「でも、せめてもう少しマシな言い方をしないとね…学校側が認めてくれないのよね」
凪沙「それじゃあ専業主婦って言っておいたら?」
シロたん「専業主婦をニート呼ばわりするのは物議をかもすのでNG」
ニート「そうだよ。そもそも俺は家事すらやる気はないぞ?」
凪沙「じゃあ高等遊民でどうよ?」
シロたん「そうね…ニートよりはそっちの方がマシね。はぁ…世間にニートを認めさせるのは大変だわ」
シロたんはそう言い残してトボトボと帰っていった。
凪沙「…進路か」
翌日、学校から帰っていた私は公園で絵を描いている一人の男性を目撃した。
凪沙「…あっ、係長」
係長「…ん?おぉ、久しぶりだね、凪沙」
彼の名は小坂慎太郎、私と同い年の娘を持つバツイチ男性。通称、係長。
アパレルと同じくニートの仲間だ。
凪沙「絵なんて描くんだ、知らなかったな」
係長「昔はよく描いていたんだけどね…仕事を始めて以来描いてなかったけど、最近になってまた描き始めたんだ」
凪沙「へぇ…」
感心しながら絵をのぞいてみると、そこには住宅街に佇む静かな公園の絵が描かれていた。
凪沙「私も漫画は描くけど、風景画はよく分からないけど、上手いね」
係長「そう?ありがとう。他に何か感想はある?」
凪沙「えっと…綺麗だなって思う」
係長「綺麗、か…。まぁ、そんなもんだよね」
凪沙「ごめん、なんか気に障った?」
係長「いやいや、正直な感想をありがとう」
凪沙「でも知らなかったな、絵を描くなんて。…今度原稿落としそうになった時アシスタント頼みたいわ」
係長「漫画は…よく分からないんだけどね」
凪沙「いいんだよ、分からなくても。ある程度器用なら誰でもいいんだよ。そう、もう誰でもいいんだよ…」
係長「…なんか大変そうだね」
凪沙「…っていうか、私が町のために描いてる原稿を落としそうになって必死で徹夜してるのを分かってるはずなのに、なぜ同じ部屋にいるニートはまるで手伝おうとはしないんだ?ほんとあいつ何なんだよ?そもそも言い出しっぺはあいつのくせにまるで知らん振りしやがって…ああ、なんか思い出しただけでイライラしてきた…」
係長「まぁまぁ、抑えて抑えて。僕でよかったら手伝うからさ」
凪沙「うぅっ、ありがとうぅぅぅ!!!その言葉でどれだけ救われたことか…」
係長「そんな泣くほどのことなのかい?」
凪沙「いくらBL好きだからって、時として愛だけでは乗り越えられない壁があるんだよ」
係長「大変なんだね。そういえばこの前、イケメ…シロたんに会った時に聞いたんだけど、何でも進路に迷ってるそうじゃないか」
凪沙「え?…まぁ、迷ってるといえば迷ってるけど…」
係長「今のところはどういう進路を考えているんだい?」
凪沙「正直なところ、あんまり考えてないというか…とりあえず進学ってことにしてるけど?」
係長「進学か…状況が状況だからね…大学なんてまともに機能してないし…」
凪沙「そうなんだよね。でも正直なところ、あんまり将来の実感が無くてさ。危機感が足りてないんだよね。…ニートに限ってはマジでニートを貫くつもりだし」
係長「ははは、ニートはそうだろうね。…っていうか、そうじゃ無くちゃ困るし」
凪沙「やっぱり状況が状況だからさ、まともに考えられないんだよね」
係長「そうだね。あんまりこういうことは前例がないからね。…でも、正直なところ、僕は君達が羨ましいよ」
凪沙「羨ましい?」
係長「そう、この町に住んでいる若者がね」
凪沙「どうして?」
係長「さっきも言ったけど、僕はこれでも高校時代は絵を描くのが好きで、よく絵を描いていてね。当時は高校生にしてはそれなりの物を描けていたと思うし、絵で食べていきたいっていう思いもあった。…でも、実際に自分の進路を考えた時に、僕はこれで収入を得て暮らしていける自信がなかった。この道を選んだ時の将来の図が見えなくて、僕はおとなしく普通の大学に進学して、そのまま普通に就職をしたんだ。…でも、一生養ってもらえるこの町だったら、僕は絵という道を選べたのかもしれない」
凪沙「………」
係長「もちろん、絵の道を選ばなかったことは決して間違ってなんてなかったよ。普通に仕事をして、普通に好きな人と結婚して、普通に家族を養っていく。これでも十分に充実した生活だったよ…少なくとも、好きだった絵を忘れられるくらいには…。まぁ、最終的には全部台無しになったけどね。…ごめんね、少し長話になっちゃったかな?」
凪沙「…いや、ありがとう、すごい参考になった」
係長「それならよかった」
凪沙「そういえば…娘とは…パツキンとはうまくいってる?」
係長「うん、おかげさまでね」
凪沙「それはなによりで…」
係長「あ…でも…最近娘が誰かさんのせいで腐女子みたいになっちゃったんだけど…」
凪沙「あははは、誰のせいだろうねぇ(棒)」
係長「娘の趣味に父親があれこれ言うつもりはないけど…ほどほどに頼むよ、Mr.X」
係長と長話をしたのち、家に帰った私は早速椅子に座り、腐活動に勤しんだ。
ニート「…また描いてるのか?この前、新作を書き上げたばかりだろ?」
凪沙「なんか描きたくなっちゃったのさ。…それに、いつもはこの町のために描いてるけど、今描いてるのは自分の描きたいものを描いてるだけだし」
ニート「ふーん…いい歳こいた若者が毎日毎日BLBL…お前の青春腐ってるね」
凪沙「そう言うニートの青春は真っ白じゃねえか」
ニート「いや、俺は彼女とかいるし、学校に行ってないだけでそれなりの青春してるぞ?」
凪沙「…ほんとだ、ニートのくせに私より充実してやがる」
ニート「君ごときが私の青春をどうにか言いたいのなら、彼氏の一人や二人を作ってみなさい」
凪沙「そうは言っても、基本的に私は恋愛は当事者よりも観察者でありたいと常日頃から思ってるし」
ニート「はぁ、君みたいな人間が日本を少子化に陥れているのだよ?分かるかい?」
凪沙「少子化がなんだ?子供が産めなくたっていいじゃないか?そういう夫婦…間違えた、そういう夫腐のあり方があってもいいじゃないか?」
ニート「日本語として腐適切な造語を作るのやめろよ。突然そんなこと言われても何言ってるのかわからないんだよ」
凪沙「まぁ、私は私でちゃんとやるからさ。あんたはあんたでちゃんとニートしなよ」
ニート「…安心しろ。言われずともやりきってやるさ」
こうして進路に迷っていた私は、とりあえずいまは好きなことをやって生きていくことにした。
続編『ニートに私を住まわれて』を始めました。一応、同シリーズなのでそちらからどうぞ。
もしくは、『田中』のキーワード検索でそちらに飛べると思います。




