ヒーローを願う夜
前回のあらすじ
ニートが…ニートが全然目を覚まさない。…よく考えたらいつものことだね。
生徒「見つけたぞ!!あそこだ」
武装した生徒達に追いかけられているカグヤは逃げ場を求めて必死で駆け回っていた。
しかし、どこもかしこも感染者を探している集団でいっぱいで、捕まるのも時間の問題であった。
生徒「ようやく追い詰めたぞ!感染者め!」
やがて、カグヤは逃げ場を失って数名の生徒に袋小路に追い詰められた。
生徒2「感染者は捕まえて…殺さないと…」
チンピラ元生徒会長が『穏便に捕まえるように』と伝えたはずが、感染が広まることへの恐怖と焦りのせいか、物騒なことを言い出すものもいた。
生徒3「油断大敵だ。感染しないように慎重にな」
ジリジリと逃げ場の無いカグヤへと詰め寄る生徒達。絶体絶命に追い込まれたカグヤ…しかし、突如上空からイケメンが降ってきた。
生徒4「なんだ?あいつは」
生徒5「先輩!空からイケメンが!!」
イケメンは地面に着地するや否や、武装した集団に突っ込み、常人離れした動きであっという間に生徒達を無力化した。
イケメン「大丈夫かい?カグヤ」
カグヤ「あ、ありがとう。ごめんね、巻き込ませちゃって…」
イケメン「何を言ってるんだい?。君は僕を命がけで守ろうとしてくれたじゃないか。僕はその恩に報いたいだけさ」
カグヤ「それにしても、やっぱり殺し屋だけあって強いね」
イケメン「素人相手に5人くらいなら大丈夫だけど…もっと大所帯で来られたらさすがにね…。そういうわけでさっさと場所を移そう」
カグヤ「うん、わかった」
一方、病室では…
ニート「………」
相変わらずニートは昏睡状態であった。
犯罪者「カグヤが追われてるって聞いたが…」
腐女子「うん、しくじって目をつけられちゃってね…。自体もかなり大事になってカグヤを感染者と決めつけて殺気立ってる人もいるらしい」
係長「マズイことになったね」
犯罪者「全く…まだニートも眠ってるっていうのに…」
ビッチ「今はイケメンさんが守ってるから大丈夫って電話で聞いたけど…」
アパレル「どこかにカグヤを匿ってあげたいんだけど…」
腐女子「流石にうちの家も厳しいしな…どこか人目につかないところがあればいいんだけど」
犯罪者「とりあえず、どこかに隠れるにしても護衛は多いに越したことは無いからな。…俺と係長はカグヤ達と合流することにする」
係長「僕もか…まぁ、そうだよね。…果たして役に立てるかどうか」
ビッチ「私も行く。ここにいたって仕方ないし、イケメンさんの手伝いしなくちゃ」
犯罪者「ふむ、あまり大人数で動くのも目立つからな。とりあえず俺と係長とビッチは合流しに行こう。残った奴らはニートの看病となにか作戦を考えて欲しい」
アパレル「わかったわ」
ショタ「気をつけてね、みんな」
犯罪者たちが病室から出て行ったのを見送ると腐女子はニートの方を向いてぼやいた。
腐女子「早く起きろよ…手遅れになる前に…」
アパレル「本当に何か手はあるのかしら…」
ショタ「ニートのお兄ちゃんがあるって言ってたんだから、きっとあるんだよ」
腐女子「ニートが何を考えていたのか…あいつの考えることって突拍子も無いことが多いからなぁ…」
ショタ「ニートお兄ちゃんの特技は養わせることだからね。きっとそれに関するような何かじゃ無いかな?」
腐女子「ニートの考えなんて一般人にはわからないでしょ。それともなにか養わせるための極意でもあるわけ?」
ショタ「それは…さすがに僕にもわからない」
腐女子「私も、分かる気がしない」
ニートの言っていた作戦…だが、考えても答えは出なかった。
考えてみればニートと出会ってまだ数ヶ月しか経っていない。
一緒に暮らしていたとはいえど、そんな短い時間でニートの考えていることを読み取ることなんて不可能に近い。
いま思えば偶発的な出会いだった。
たまたま私が出かけていたところに、たまたまニートがいて、たまたま気が合って…。
なんとなく一緒にいて…知らぬ間に巻き込まれて…。
所詮、私達はその程度の仲でしかない。数ヶ月一緒にいた程度の仲でしかない。
だけど…濃密な日々だった。
日も沈み、星が空に輝く頃、犯罪者達と合流したカグヤはひたすらに隠れていた。
町中には武装した集団が感染者を探して練り歩いていた。
カグヤを見つけられず、痺れを切らして叫び、物に当たる者も少なくはなかった。
殺伐をとした夜の街でカグヤは空を見上げた。
そして、闇夜に紛れて輝く星に向かって小さく呟いた。
カグヤ「お願い…助けて…ヒーロー」
カグヤ達の長い夜が始まった。
一方、病室では、腐女子が物思いにふけっていると、そのまま刻々と時間だけが経ち、気が付けばもう夜中になっていた。
腐女子「…あれ?もうこんな時間か…」
我に帰り辺りを見渡すと椅子に座りながらショタとアパレルが眠っているのが分かった。
そのそばで月明かりに晒されたニートは深く眠っていた。
腐女子「やっぱ、私には分かんないよ」
ニートのそばに歩み寄った腐女子はそんな言葉をこぼした。
腐女子「早く…早く起きろよ。カグヤは今もお前を待って頑張ってるんだ。全部茶番にするんじゃ無いのかよ?。このままじゃ…間に合わなくなっちゃうよ」
普段はあまり見せない弱気な声で腐女子は囁いた。
腐女子「みんなお前を待ってるんだ。みんなその背中に期待してるんだ。ニートじゃなきゃダメなんだ。私じゃあヒーローにはなれない。ニートにしか、ヒーローにはなれないんだ!!」
過ごした日々は長くはない。
だけど、その短い日々の中で腐女子はニートの強さを感じた。
この前のことだって、テイラーDの時だって、文化祭の時だって…ニートがいたからこそ、今があるのだ。
腐女子「文化祭、あんたのせいでいろいろ振り回されたけど、あんたのおかげで楽しかったよ」
妙なラブコメに巻き込まれたのもそうだけど、ニートの考えた扶養喫茶だっていま思えば楽しい思い出だった。
そういえば、あの時ニートのやつが養われることがどうこう言っていたような…。
腐女子が思い出に浸っていたそのとき、腐女子の頭に電流が走った。
腐女子「…分かったかもしれない」
ショタ「…どうかしたの?腐のお姉ちゃん」
腐女子「ニートが考えていた作戦が分かったかもしれない」
ショタ「ほんとに?」
腐女子「うん。…でも準備が必要」
ショタ「みんなに連絡して手伝ってもらおう」
アパレル「…ん、どうかしたの?」
腐女子とショタの会話でアパレルも目が覚めた。
腐女子「ニートのことはお願いね。すぐに準備を始めないと…」
アパレル「え?う、うん、わかったわ」
腐女子が病室から出て行こうとしたその時、最後にニートの方を振り返って呟いた。
腐女子「貸しだらね。早く返しに来なさいよ、ニート」
そして、腐女子は夜の闇へと消えていった。




