ニートの目覚めは遅いのが世の常
前回のあらすじ
ニート、撃たれる。
医者「幸いなことに、命に別条はありません」
腹部を撃たれ、大量の血を流し、倒れていたニートをすぐさま病院に運び、緊急手術が終わった後、カグヤ達は主治医からニートの状態を聞かされていた。
主治医の言葉どおり、発見後の迅速な対応が功を奏して、ニートはなんとか一命を取り留めていた。
しかし…
医者「大量に出血したせいか…未だに意識が戻りません」
ニートの意識はいつ戻るか分からない状態だった。
医者「銃に撃たれてけが人が二人も運ばれてくるなんて…一体何があったんだ?」
犯罪者「撃ったのは暴力団の関係員だ」
医者「暴力団?そんな奴がこの町に紛れていたのか?。…まさか、感染者じゃないだろうね」
腐女子「…感染者?」
医者「知らないかい?CBKSって病気なんだけど…」
犯罪者「CBKSを知っているのか!?」
医者「え?知ってるも何も…最近噂になってきてるし。まだ不確かな噂でしかないけど、知らない人の方が少ないんじゃないかな?」
犯罪者「………」
恐れていた事態が起きてしまった。
今まで隠してきたCBKSの存在の露呈…それによる住民のパニック…そして、起こるであろう感染者の弾圧。
今にこの町は感染者を根絶やしにしようと動き出す輩が出て来るだろう。
そうなった時に感染者であるカグヤの迫害はもちろんのこと、下手をすれば疑わしい者を全て…下手をすれば、殺害もありうる。
恐怖が恐怖を伝染し、その恐怖に触発された感染者が感染者を増やす負のサイクル…それが考えられる一番最悪のパターン。
噂が広まってしまった以上、出来る最善の方法は…。
犯罪者「やっぱり、CBKSの治療法は国に返そう」
アパレル「どうして?」
犯罪者「治療法の解読は、俺たちがやるよりも国の専門機関に任せた方が早い。今は一刻も早く治療法を確立させることが先決だ」
ビッチ「でも、そうしたらこのデスゲームは終わって、イケメンさんは…」
イケメン「………」
犯罪者「わかってるさ。だが、最悪の事態だけは…」
カグヤ「私は諦めたくない。最後まで誰も犠牲にならない方法を探したい」
犯罪者「そんな方法なんてない。誰かが犠牲になってからじゃ遅いんだ。今すぐにでも行動しないと…」
腐女子「ニートは方法があるって言ってたよ」
犯罪者「だが、その肝心なニートは昏睡している!それに本当に方法があるとは限らないんだ!ニートが俺たちを安心させるための嘘を言ってただけかもしれないんだぞ!?」
ショタ「それでも、僕はニートのお兄ちゃんを信じるよ」
係長「島でのデスゲームは誰も犠牲になることなく終わらせられた。今度だってなにか方法があるはずだ」
アパレル「仲間がここに揃ってるんだもの。不可能なんてないわ」
イケメン「僕もニートの言葉を信じたいんだ」
ビッチ「イケメンさんが犠牲になるなんて選択肢は論外だから」
腐女子「せっかくここまで来たのに、そんな簡単な終わり方じゃ締まらないでしょ?」
カグヤ「希望はレンジが示してくれた…後は私たちが紡げばいい」
犯罪者「………」
迷いのないまっすぐな瞳でカグヤ達はそう語った。
幸か不幸か、ニートに感化された彼らの意思は堅かった。
終わられるのは簡単だ。だが、それは最高の終わり方ではない。
小さな、本当に小さな希望を目指して、彼らは茨の道を歩む決意をしているのだ。
犯罪者「…俺だって、信じたいさ」
ショタ「きっと、それが答えだよ」
犯罪者「だけど、それは自分勝手な判断だ」
ショタ「そうだね。僕たちは所詮、自分勝手な偽善的な生き物に過ぎなくて、どう足掻いたって誰かのために何かができない…絶対的な正義はないし、好意の裏で必ず私欲が潜んでいるから。だから、諦めて自分のために何かをするしかないんだ…そしてそれが誰かのためにもなるならば、それ以上に素晴らしいことはない。…お母さんが僕にそう教えてくれたんだ」
腐女子「えっと…要するに?」
カグヤ「自分勝手なのが悪いってわけじゃないってこと。私も薫お姉ちゃんから同じこと聞いたことあるよ」
係長「困難な選択であることは百も承知さ。失敗した時に、多くの人が犠牲になることもわかってる」
ビッチ「完全に私たち、害悪以外の何者でもないよね。…まぁ、私はこの町の住人でもないから別にいいけど」
イケメン「針に糸を通すような可能性だとしても、その先にある未来を信じたい」
アパレル「みんなでなら、もう一度奇跡を起こせるから」
犯罪者「この様子じゃ、説得は無理か…。まぁ、どうせ一度は汚れた身だ。真っ黒になるまで染まっても大差無いか…」
カグヤ「よし!全員一致団結して、ニートを目指そう!」
腐女子「嫌な掛け声だね」
カグヤ「みんな待ってるから…だから早く戻って来てね、レンジ」
カグヤは横で眠るニートにそっと声をかけた。
ニートが眠ってから2日後…。
今まで裏で密かに動いていた感染者を探す団体が、徐々に表だって動くようになっていた。
平穏な町では時折、武装し、殺気立った集団が見られるようにもなり、街にはピリピリとした空気が流れるようになった。
カグヤ「…今日もいるね」
カグヤはニートが眠る病室の窓から感染者を見つけ出そうと躍起になっている集団を見つめながら、そんなことをぼやいた。
腐女子「不安?」
カグヤ「大丈夫、みんながいるから怖くない」
腐女子「そう…なら良かったよ。でも、カグヤは近づいちゃダメだからね。仮にもカグヤは感染者なんだからさ」
カグヤ「わかってる」
腐女子「はぁ…こんな時にこいつは呑気に寝やがって…」
腐女子は昏睡しているニートを見つめて愚痴をこぼした。
カグヤ「仕方ないよ。普段からレンジは起きるのが遅いからさ」
腐女子「まぁ、それもそうか…ニートだしね」
カグヤ「でも、ピンチの時はちゃんと助けてくれるから…」
腐女子「そうだね。カグヤにとってニートはヒーローだもんね」
カグヤ「うん」
アパレル「やっほー、ニートの調子はどう?」
イケメン「様子を見に来たよ」
カグヤ「まだまだ起きそうにないよ」
腐女子「CBKSの治療法の解読の方はどうなの?」
ニートの回復を待つ一方で、田中さんが残した研究ノートの解読も田中さんの娘の由紀を中心に進めていた。
アパレル「こっちもまだまだ時間かかりそう。…田中さん、字が下手すぎる」
イケメン「おまけにあのノート、日本語はもちろん、英語、フランス語、中国語、果てはビルマ語も併用したオリジナルのグローバル言語で書かれていて…」
カグヤ「無駄にスペック高いね、田中さん」
アパレル「うん、ほんと無駄に高い」
ニートの病室でお見舞いに来た女性4人(あれ?いつの間にかニートがハーレムになってる?)がそんな会話をしていると、病室の外で何やら揉めている声が聞こえて来た。
アパレル「何かしら?」
腐女子「ちょっと様子を見てくるよ」
腐女子が病室から出るとそこには数人の武装した生徒を連れた元生徒会長のチンピラが医者と何やら不穏な会話をしていた。
チンピラ「CBKSは感染者が人を襲うことで感染が広まる!!。この病院に運ばれて来たやつの中にも感染したやつが混じっているかもしれないんやで!?」
医者「だからって、この町が封鎖され始めてからここに運ばれて来た患者のカルテを全て見せろって言うのかい!?。どんな理由があろうとも、医者として患者のプライベートを晒すわけにはいかないよ!!」
生徒「どうしましょう?もう無理やり奪っちゃいましょうか?生徒会長」
チンピラ「それはあかん。あんまり人様を刺激するようなことは避けなあかん。なるべく穏便に済ませたいんや。…あと、もう生徒会長ちゃうで」
生徒2「でも!こうしている間にも感染は広まってるかもしれないんですよ!?」
チンピラ「まだその病気の存在も確定したわけやない。焦ったらあかん」
手がかりが見つからない日が続いているせいか、生徒たちは少し気が立っていた。
それも当然と言えば当然だ。病気が広まれば自分は愚か、家族や友人にも被害が及ぶ。焦燥感にかられるのは無理もない。
そんな様子を見て、腐女子はこそこそと病室へと戻った。
カグヤ「どうだった?」
腐女子「…少し、マズイかもしれない」
イケメン「どうしたんだい?」
腐女子「CBKSの感染者が人を襲って感染者を広めた可能性を危惧して、今までこの病院に搬送された人のカルテを探ろうとしてるの」
アパレル「それがなにか問題あるの?」
腐女子「カグヤは前に文化祭の時にこの病院に運ばれたことがあったでしょ?。もしかしたらそこからカグヤが感染者であることに繋がってしまうかもしれない」
カグヤ「そういえば…そうだったね」
イケメン「とりあえず、この場を離れる必要がありそうだ。念のため、カグヤと奴らの接触は避けたいから僕とアパレルでその集団の気を引いて、その間にカグヤは裏口からこっそり病院を出てくれ」
カグヤ「わかった」
腐女子「私は?」
イケメン「誰か一人はニートのそばにいてやって欲しい」
腐女子「わかった。カグヤ、何かあったら助けに行くから、心配しないで」
カグヤ「うん、ありがとう」
アパレル「ちょっとあなたたち!!病院では静かにしなさい!!」
病室から出たアパレルとイケメンは集団の気を引くため、叱りつけるように彼らに近づいた。
イケメン「他の患者を不安にさせるのも良くないから、そんな物騒な格好をしないでくれるかい?」
チンピラ「すまんすまん。でも感染者を見つけるためやから、少し協力して欲しい」
アパレル「だからってやっていいことと悪いことがあるでしょ!?」
イケメン「そもそも、その感染者っていうのは確かな情報なのかい?」
チンピラ「まだ確定ではないんやけど、信用できる情報や。なんせ、この町の外から侵入してきたやつに聞いたからな」
イケメン「侵入して来たやつ?」
イケメン達がそんな会話をしているのを尻目にカグヤは裏口からこっそりと病院を出ようとしていた。
しかし、病院内を探索していた生徒の一人がこっそりと抜け出そうとしているのが逆に怪しく感じたのか、その様子を見て声をあげた。
生徒「生徒会長!!裏口から逃げようとしている怪しいやつがいます!!」
その言葉を聞いて、他の生徒達もそっちの方向へと走り出した。
それに驚き、カグヤも慌てて裏口から走って逃げ出した。
その様子にますます怪しさを感じたのか、生徒達も躍起になってカグヤを追い始めた。
チンピラ「…今のやつ、どこかで見たことあるな」
生徒「うちの学校の生徒ですよ。確か…2年の月宮カグヤっていう名前です」
チンピラ「…一応、話を聞いておきたいな。なるべく穏便に、せやけど細心の注意を払って、捕まえるように連絡してくれ」
生徒「分かりました」
チンピラ「くれぐれも手荒な真似はしないように、な」
こうして、感染者を探している集団にカグヤは目をつけられてしまったのだ。
不穏な空気が漂うこの町で、果たしてカグヤは無事でいることができるのか…。
そして…
腐女子「こんな時にいつまで寝てるんだ。…早く起きろよ、ニート」
ニート「………」
ニートはいまだに眠り続けている。




