記憶亡き者たち
今回の話を読む前に、全編の『つまり養ってくれるってことですか?』の46話のお知らせ回に目を通しておいてください。
前回のあらすじ
電話で人を呼んで、部屋にあげた…以上!!。
腐女子の発酵室でニートは犯罪者と腐女子を目の前に、あのデスゲームのことを一通り話した。
ニート「カクカクジカジカで、デスゲームは一度は幕を閉じたのさ」
そんなニートの壮絶な物語を聞いて犯罪者が一言。
犯罪者「前回あれだけ引っ張ったのに1、2行で説明終わったじゃねえか!?」
腐女子「なんて壮大な前振りなんだ…」
犯罪者「まぁ、それはさておき…俺とお前は前回のデスゲームで同じプレイヤーだったってことでいいんだな?」
ニート「そういうことだ」
犯罪者「つまり…俺たちは仲間ってことなんだな」
ニート「その通り、だから力を合わせて…」
犯罪者「お前の話が本当だったのならな」
ニート「…え?」
犯罪者「悪いが記憶が無いから、お前の話を100%信じることは出来ない。だからお前の仲間にはなれない」
ニート「そんなこと言うなよ!!。俺にはお前の力が必要なんだ!!。だから力を合わせて一緒に養われようぜ!!」
犯罪者「悪いが、お前を信用しきれない。…っていうか、ん?。今なんて言った?」
ニート「だから…力を合わせて一緒に養われようぜって言ったんだよ」
犯罪者「いや、お前は一体なにを言ってるんだ?。養われるためにお前は兎歩町に来たのか?」
ニート「そりゃそうだろ?。逆に犯罪者はなんで兎歩町に来たんだよ?」
犯罪者「そりゃあ…デスゲームを犠牲無く終わらすためだろ?」
そんな風に意見が合わない二人の間に腐女子が割り込んできた。
腐女子「話に割り込んで悪いけど、デスゲームってどういうことなの?。なんで兎歩町は封鎖されてるの?」
犯罪者「Capricious Bloodthirsty Killer Syndrome。略してCBKSと呼ばれる精神病の世界的なパンデミックを防ぐためらしい」
腐女子「…え?。なにそれは?」
ニート「なんでも殺人衝動を引き起こす精神病らしい。最大の特徴として、その病気は精神病だが、人に感染するそうなんだ」
腐女子「え?…はっ?」
犯罪者「その病気にかかってるやつがこの町に逃げ込んだらしくてな…だから政府は町ごと封鎖して町の中だけでパンデミックを抑えようって魂胆なんだよ」
ニート「そんな病気が世界的に広まれば、この世界を舞台にデスゲームが起きる。…だから、苦肉の策として、政府はこの町を犠牲にしたんだよ」
腐女子「そんな…この町はトカゲの尻尾なんかじゃ無いんだよ!?。たくさんの家族が生活して、何人もの人が生きてるんだよ!?」
犯罪者「そんなことは誰だって知っているさ。みんなのためなら何かを犠牲にしていいというわけじゃないが、国の指導者として、この国を一つの町と天秤にかけるわけにはいかないんだよ」
腐女子「そうだけど!…そうだけど!…あぁぁぁ!!!こんなこと知らなきゃよかったぁぁぁ!!!」
腐女子は一人、頭を抱えて座り込んだ。
犯罪者「この町は確実に滅ぶわけではない。いま世界中でこの病気に関しての研究がされている。だから、この町に病気が広まる前に、治療方法が確立すれば、この町は救われる」
ニート「だから、それまで時間稼ぎが必要なんだよ。そして、俺たちはそのためにわざわざこの兎歩町に来た救世主ってわけさ」
腐女子「時間稼ぎって…どうやってさ?」
ニート「さあ?」
腐女子「…この救世主、使えないなぁ」
犯罪者「とりあえずできることといえば、この町の住民になるべく外出を禁止してもらい、人との接触を避けてもらうことだろうな」
腐女子「そんなの意味あるの!?。っていうか、まず可能なの!?」
犯罪者「やるだけやってみるさ。なにもやらないよりはマシだろ。実際に俺はこのためにすでに動き出して仲間を増やしてるところだ。そういうわけで、お前らも一緒にどうだ?」
ニート「遠慮しとくわ。…俺、養われることしかできないし」
犯罪者「それは出来ることに換算していいことなのか?。腐女子はどうだ?」
腐女子「私も遠慮しておくよ。なんか頭の中がいっぱいでそれどころじゃないし…」
犯罪者「そうか、残念だ。気が変わったら連絡してくれ、俺は兎歩高校の体育館にいると思うからさ」
ニート「もう行くのか?」
犯罪者「事態は一刻を争うからな、ここで油売ってる暇はねぇ」
そして犯罪者が部屋を出て行こうとするときに一言つぶやいた。
犯罪者「あと…お前のこと思い出せなくて悪かったな」
それだけ言うと、彼はその場を後にした。
腐女子「行っちゃったけどいいの?」
ニート「いまは引き止めたって仕方がないさ」
腐女子「はぁ…これからどうすればいいんだろ?」
ニート「悪いが俺はただ養われるのみさ」
腐女子「はぁ…ニートの能天気が羨ましいわ。…私も現実逃避のためにBL描くよ」
そう言うと腐女子はまた原稿に現実逃避し出した。
残されてやることもなくなったニートは、近くにあった漫画を手に取り、パラパラと読み始めた。
結局、振り出しに戻った二人であった。
さてと…話は変わって、これは8月31日の出来事。
依頼人の元を訪れたある人物を前に、依頼人は新たなる依頼をそいつに言い渡した。
依頼人「なんでもバカンスを楽しみ過ぎて記憶を失ったらしいですね、ランドリー…いえ、いまは平間和也さんでしたね」
依頼人の言葉にそいつはなにも言うことなく、黙って耳を傾けていた。
依頼人「まぁ、あなたなら記憶が無くても身体で仕事を覚えているでしょう。あなたに次の指令を言い渡します。翌日、9月1日に封鎖されるまでに兎歩町に侵入し、CBKSの感染者を…1人残らず殺しなさい。なんでも、その病気について研究して、特効薬を開発している機関があるそうですが…そいつらが特効薬を開発する前にあなたの手で感染者を殺し、成果を上げるのです。…失敗した時は…分かっていますね?」
依頼人の質問に、そいつは頷いて返答した。
依頼人「それと…あなたに新たな身分を与えましょう」
そう言うと依頼人は一つの身分証明書を差し出した。
依頼人「平間和也の名は捨てなさい。今日からあなたの名前は…」
こうして、兎歩町に1人の死神が紛れたのである。