絶望のダブルブッキング
前回のあらすじ
お姉ちゃんへのお供え物はりんごと鼻眼鏡
係長「はぁ…」
犯罪者、イケメン、係長、ビッチの4人で政府との交渉に利用するためのテレビ電話を兎歩高校の空き教室で設置している最中、係長は溜息を吐きながら窓の外を見つめていた。
犯罪者「…まるで恋する乙女のような溜息だな」
係長「あ、ごめんごめん、聞こえてた?」
係長の意中の相手は…今日も校庭で生徒を指揮して活動をしている愛娘のモトコである。
イケメン「いい加減、会いに行ったらどうだい?。彼女は自分の育て親を無下にするような人ではないよ」
ビッチ「そうですよぉ。親子の感動の再会ですよぉ」
イケメンの前なので猫なで声になっているビッチ。
係長「いや、いいんだ…それよりも早く作業を続けよう」
犯罪者「とは言ってもな…」
目に見えて娘の様子が気になっている係長がみな気が気でないのだ。
ニート「やあやあやあやあ!!皆さんご機嫌いかが!?」
そんな中、現れたのはやるべき仕事もない無職であった。
犯罪者「おう、どうした?ニート」
ニート「いや、人がベットでゴロゴロ横になって漫画読んでいる最中、いそいそと働いている愚民の様子が気になってな…」
ビッチ「お前はその愚民以下の存在だがな」
犯罪者「要するに暇だと?」
ニート「そういうことだ」
犯罪者「まぁ、いいところに来た。実は係長がな…」
犯罪者はニートに事情を説明した。
ニート「ほおほお、パツキンが係長の娘とな…」
犯罪者「だが、係長は娘に会おうとしないんだ」
ニート「それはなんで?」
係長「僕なんかに父親ヅラする権利なんてないからね…。娘との思い出だってろくに覚えてないし、妻とも離婚したし、それに仕事も無いからね…僕に父親を語る資格なんて…」
ニート「おいおい、聞き捨てならないな。それじゃあまるで仕事がなきゃ人間として失格みたいに聞こえるじゃねえか。職がなくたって俺みたいに立派に生きてる人間もいるんだぞ?」
ビッチ「いや、お前のそのセリフの方が聞き捨てならんわ」
係長「ニートには分からないだろうけど、職業っていうのはその人の代名詞みたいなステータスなんだ。例えば、君が初対面の人と出会ったら、相手の何が知りたい?。名前とか年齢、いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、少なくとも職業っていうのは知りたいことのベストスリーには入るはずだよ」
ニート「だからと言って、それが全てじゃ無いだろ?」
係長「そうだね、それが全てじゃない。でも、相手からした自分の印象の大きなウェイトを占めているのは職業だ。僕のあだ名だって『係長』だろ?あだ名になり得るほど仕事による相手の印象は大きい。…っていうか、このあだ名を付けたのは君だろ?それは君も仕事がその人の代名詞たるものだって自覚しているからだろ?」
ニート「うーん…それを言われたら反論の余地がない。認めよう、何を生業といているかっていうのは確かに重要だ」
係長「そうだよ、だから職のない僕なんかじゃ…」
ニート「いや、俺が疑問に思ってるのはそこだよ。ニートをバッドステータスみたいに言いやがって…ニートだってニートなりの利点があるわけで、それを度外視して否定することないだろ?」
係長「君が言うならニートなりの利点というものがあるかもしれないが、一般論的にニートは印象が悪い」
ニート「なるほど、それならいっそのことニートの印象そのものを変えてやろうじゃないか」
係長「どういうこと?」
ニート「まぁ、要するにニートってこんなかっこいい生き方だったんだって思わせればいいんだよ」
係長「どうやって?」
ニート「まぁ、それは俺に考えがあるから、安心しろ」
犯罪者「お前のクラスメイトみたいに洗脳するのか?」
ニート「洗脳だなんて聞き捨てならないな。印象操作と言ってくれ」
ビッチ「ほとんど変わらないわね」
係長「娘に変なこと吹き込みそうで心配だなぁ…」
ニート「安心しろって。『ニートカッコいい。私、将来はお父さんみたいなニートになる』って言わせてみせるからさ」
係長「いや!それは娘の将来が安心できない!」
ニート「まぁ、それは言い過ぎとして…もし、俺がニートのイメージを改めさせることができたなら、その時は胸を張って娘と会ってくれ」
係長「はぁ…わかったよ。その時は娘と会うと約束するよ」
ニート「よし、そうと決まればクラスメイトに頼んで真横でずっと『ニートカッコイイ』と言わせ続けてサブリミナル効果で洗脳を…」
犯罪者「それはやめろ」
犯罪者「ふぅ…ようやく完成だ」
いろいろとセッティングが完了したテレビを前に犯罪者達はようやく一息ついた。
ニート「お、完成したのか?。…ところで、このテレビってどういう機能が付いてるの?」
犯罪者「複数人が同時にテレビ通話が可能になるようにセッティングしておいた。各々の携帯のカメラに映っているものをこのテレビに同時に映しながら会話ができる」
ニート「へぇ、それで交渉はいつするの?」
犯罪者「明日の12時、みんなをここに集めて交渉を始めよう」
翌日、交渉開始の12時の10分前、一同は空き教室に集まっていた。
犯罪者「もうすぐ時間だな」
係長「そういえば、相手のアポイントメントは取ってあるの?」
ショタ「大丈夫だよ。僕が昨日電話でお願いしておいたから」
イケメン「………」
ビッチ「イケメンさん、顔色が悪いけど、大丈夫?」
イケメン「…あ、あぁ…大丈夫…」
アパレル「携帯のカメラで写してるものがテレビに映るんだっけ?」
犯罪者「そうだ」
腐女子「じゃあ机の上に携帯を固定させてればいいか」
カグヤ「ところで…レンジはここにいないけど、どうしたの?」
腐女子「寝坊で遅刻だってさ」
犯罪者「あいつは…またこんな肝心な時に…」
ビッチ「別にいいんじゃない?。ニートがいようがいまいが変わらないでしょ」
腐女子「でも多分もうすぐで着くよ」
腐女子がそんなことを話していると、ちょうどそこにニートが扉を開けて入って来た。
ニート「よっしゃ!ギリギリセーフ!」
係長「いや、遅いよ」
ニート「まぁまぁ、主役は遅れてくるものだし、しょうがない」
アパレル「まぁ、何がともあれ、これで全員集合ね」
カグヤ「あと5分で12時…交渉開始だね」
ニート「あ、ちょっとその前にトイレに行ってくるわ」
腐女子「こんなときに?」
ニート「ちょっとトイレに行く時間が無かったからさ…」
犯罪者「ついでに俺も行っておこう」
係長「犯罪者も?さっき行かなかったかい?」
アパレル「もしかして緊張してる?」
犯罪者「まぁ、それもあるんだがな…なんだが胸騒ぎがして…」
カグヤ「早く戻って来てね」
ニート「おう、パパッと行ってすぐ戻ってくるさ」
この日の兎歩高校は閑散としていた。
もともと兎歩高校が封鎖されたせいで一部の生徒しかこの高校に通えないせいでもあるが、何より今日は日曜日だったので授業もやっていなかったのだ。
そういうわけで、物静かな校舎のトイレを使用している者もおらず、ニート達は最寄りのトイレでさっさと用を済ますことができた。
ニート「ふぅ、スッキリした…」
犯罪者「さっさと戻るぞ、ニート」
ニート「まぁまぁ、慌てなくてもまだ時間はあるし…」
そう言って呑気に歩くニート達の目の前に一人の男が立ち塞がった。
ニート「ん…あれは…ヤクザ?」
ニートがそう考えるのも無理はない。なぜならばその男は白いスーツをぴっちり着こなしたいかにもなインテリヤクザなのだから…。
犯罪者「ま、まさか…なんでこんなところに…」
アニキ「とうとう見つけましたよ。…鬼塚ケイ!!」
そして、その男は手に持っていた拳銃で躊躇いもなく犯罪者に向けて発砲した。
静かな校舎に響いた発砲音はカグヤ達の部屋にも届いていた。
カグヤ「…なに?今の音」
係長「なにかを発砲したような音だったけど…」
アパレル「…二人とも帰ってこないわね」
カグヤ「もしかして…なにかあったんじゃ…」
その時、時計の針は12時を指し、全員の携帯が鳴り出した。
ショタ「残念だけど、時間のようだね」
そして、ショタが携帯を取り出し、通話を開始した。
ボス「…こうして、あなたと話すのは何回目ですかね?エンジェル」
ショタ「僕は別に何回でも構わないよ。電話でお話しするの好きだしね…」
ボスの姿がテレビに映し出され、交渉が幕を開けた。




